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腹黒男の友人関係

ご愛読ありがとうございます。

ここで登場する領主夫妻は前作の主人公たちです。

久しぶりに二人を書けて、なんだか楽しかったです笑

「ザイフリートさんは行かないんですか?」


私は船に残る、という彼を振り返って心細げに呟いてしまった。

そんな私に、この気のいいひとは、困ったように眉根をよせた。


「流石に、この船を藻抜けの殻にするわけには、まいりませんので」


治安がよいとはいえ、盗人の類いがまるっきり居ないとは言えないらしい。


「大丈夫ですよ。ユージィーン様は兎も角、ご友人は良い方です。必ずや、お力になってくれます」


ザイフリートさんの優しい声に励まされて、船を後にした私が目にしたのは。


黄色い花が咲き乱れる丘に、たたずむ黒い馬と、それにまたがる一人の青年の姿。

それはまるで、映画のワンシーンのように美しい光景だった。




馬上の人は、船からおりた私とユージィーンを認めると、さっと馬から降りると、引き連れていたもう一頭の馬共々、そこに残して歩み寄ってくる。


私は思わず、ユージィーンの陰に隠れた。


近づくにつれて、その人が日本人のような黒髪でありながら、目の覚めるような鮮やかな青い瞳を持つ、ユージィーンと同じくらい長身の外国人で、しかもこちらが怯むくらいの美青年であることが分かったからだ。

どこか神秘的で、独特の赴きがある美貌は、例えて言うなら北欧系と言ったところか。


ザ・異世界、という感じの相手に、私は気おくれしまくっていた。


背中にこっそりと隠れる私に苦笑しながら、ユージィーンは北欧系イケメンに声をかける。


「ジーク、久しぶり。新婚生活はどう?」


ユージィーンの挨拶に、ジークと呼ばれた北欧系イケメンは、その不可思議な青い瞳を細めた。


「お前のせいで、三日と堪能できなかった」


そのきっぱりとした非難に、ユージィーンは喉を反らして大笑いした。


私は背中に隠れながら、唖然とする。

普通に笑うどころか、大爆笑しているんだけど。

うーん、もしかしてこの人、私以外にはめっちゃ気さくないい人だったりするの?


そうだとしたら、ちょっとへこむな…。

万人に好かれたいなんて、おこがましいことは言えないけど、少なくとも関係のある人には嫌われたくないと思う。


そんな私の、内心の葛藤はいざ知らず。


「三日楽しめただけでも、上等じゃないか!それで可愛い奥方は?」


ユージィーンのからかうような言葉に、彼はふっと目を泳がせた。


「…館にいる」

「…珍しいね」

「…新婚だからな」

「…ジーク、手加減って言葉知ってる?」

「お前にだけは言われたくない」


軽口の応酬をしながら、北欧系イケメン(新婚)ことジークさんが少し首を傾げて、ユージィーンの後ろ、すなわち私を見た。


魔法の青い瞳にじっと見つめられて、私はつい赤面してしまう。


「…突然船旅とは、突拍子もないとおもったが…嫁さがしだったのか」


真顔のジークに、ユージィーンがきまずそうに否定する。


「や、なんでそうなるの?これは落とし物なんだ。ただ落とし主が分からなくてね、返しそびれてるのさ」


そんな謎かけのようなユージィーンの言葉に、ジークはふとため息をついた。

それだけで、彼らの付き合いの長さと間柄が透けて見えるような。


「なるほど、子細ありそうだな。…出来れば関わりたくないが…」


そして、なかばあきらめたように、乗ってきた馬を指し示す。


「とりあえず、館に案内しよう」



夢の中のように色鮮やかな黄色い丘を、のんびりと馬で歩く。

なかなか素敵な体験だと思う。

この、お気楽ご隠居さんの相乗り、でなければ。


馬に乗れない私を当初、ジークさんは自分の馬にのせてくれようとしたのだが、私はそれを断固拒否した。


初対面の彼が怖い人でないことは、ユージィーンとの会話でわかっていた。


それでも固辞したのは、一重に彼が新婚さんであるからだ。


奥さんがどんな方か分からないが、例え客人といえども、そしてこんなチンチクリンの女で有ろうとも、異性と相乗りしてきたなんて、愉快な気持ちにはなるまい。


結婚式場で働く私は、結婚前と後の男女がいかにナーバスかを、身をもって学習していた。

最後のひと遊びだから、と連絡先を忍ばせてくる新郎やら、確認のために新郎の目を見ただけで色目を使うなと怒鳴る新婦。

それらに対処するには、ひたすら「君子、危うきに近寄らず」に徹するしかない。



と言うわけで、消去法で選んだユージィーンとの相乗りだったわけだが。


悪いことに、馬と言うのは結構揺れる乗り物だった。

必然的に落とされまいとするために、私はしっかりと鞍の端を握りしめていたのだが、なかなかどうして掴みづらい。


手こずっているのを見かねたユージィーンに。


「とにかく、俺の服に捕まっといて」


と言われて、横抱きに抱き上げられるような体勢にされてしまう。

言われた通り、胸元辺りにしがみついているのだが、その全てを預けきったかのような姿勢が、なんだか猛烈に恥ずかしくて顔が上げられない。


喋ると舌を噛みそうで、話しかけることもできず、ひたすら押し黙っているのも気詰まりだった。

一方、ユージィーンはどういうわけか、終始ご機嫌で鼻唄まで溢れている。


本当によく分からないけど、いちいち人の神経を逆撫でする男だな!


黄色い丘の眺めが次第に、緑に変わり始めたころ。

ようやく通りも整備された道にかわり、馬たちの蹄から軽快な音が響いている。


激しかった揺れが落ち着き、私はずいぶん周りを見回す余裕が出てきていた。

あたりにはちらほらと、石造りの家が点在している。


それは写真でしか見たことがない、どこか西欧の田舎町を彷彿とさせて、私の胸を高鳴らせた。


丘の上の黄色とは一味違う、麦のような黄金色の植物が風に優雅にそよいでいる。

その黄金色の畑に、ぽつりぽつりと人の姿が見えて、今がこの植物の収穫の時なのだ、と知らせていた。


こちらに気づいて口々に挨拶してくる人々に、軽く手をあげて応じるジークさん。


どうやら彼はここではかなり偉い人らしい。

領主ってやつだろうか?

ユージィーンだってお気楽ご隠居とはいえ、貴族なのだから彼も貴族の子弟なのだろうな。


そう合点した頃、私たち三人を乗せた馬は、これまでの家々よりはほんの少し大きいだけ、という実に領主の住まいとしては質素な館の前に到着していた。


そして、その内部もまた、貴族という単語から連想できるものとはかけ離れた、シンプルなお住まいだった。

船といえども、細部にまで凝った意匠のあるユージィーンのものとは、骨格から違いそうだ。


でもさりげなく飾られた花が、石造りの単調な家に花を添えていて、あたたかくて落ち着けるようなそんな趣の場所でもあった。


「良いおうちですね」


この心地よさをなんと表現して良いものか、悩んだ挙句でた言葉はそれしかなくて、さすがに自分のボキャブラリーのなさにしょぼんとしたけれど。


「…ありがとう」


そんなほめ言葉にもなってないような言葉を、ジークさんはどこか照れくさそうに微笑んで受け取ってくれた。


うーん、超いい人だ。

なんで、ユージィーンと友達なんだろう?

なんか弱みでも握られているのかな?


そう勘ぐっていたとき、相対していたジークさんの青い瞳が柔らかく輝いた。

それは、見たことがないくらい甘い甘い瞳で。


彼の目線の先にいる人がだれか、というのを如実に語っていた。


「エレイン、ただいま」


彼が広げた腕に自然と引き寄せられたその人は、少し頬を紅潮させながらその額に口づけを受けている。

その初々しさはやはり、新婚だという彼らの間柄を示しているようで、私はつい俯いてしまう。


その姿を、もう一人いたギャラリーに観察されていたことなど、まったく気づきもせずに。



エレイン、と名乗ったジークさんの奥さんは、とても綺麗な紫色の目をした可愛らしい人だった。

彼女は夫との気恥ずかしい挨拶を終えると、ユージィーンに向き直り、そしてその背中にまた隠れるようにしていた私を見つけるとその口をぽかんと開けた。


「突然、船で旅をするなんて何事かと思ったら…お嫁さん探しにいってたの?ユージィーンは」


そんな彼女の反応に、ユージィーンは気まずそうに頬をかいた。


「…あのね、そんなとこで夫婦似なくていいから」


どうして二人してくっつけたがるかな…と独り言ちて、ため息をつく。

その姿は本当に迷惑そうで、なんだかちょっとだけ腹が立つ。


ちくしょー…正直すぎるだろ、このお気楽貴族さんは…

私だってうら若き乙女であるから、そうも露骨に嫌がられるのはなんだかプライドが傷つく。


そんな私の不興に気づいたのか、エレインさんはコホン、と咳払いを一つすると。


「ま、とりあえず…」


そしておもむろに私の全身を見回す。


「まず、なんとかすべきは彼女の恰好じゃないかしら?」




2414.12.17 紅花の色を修正しました。 

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