表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

落し物は、帝都で獣人について学ぶ

ご愛読ありがとうございます。


お待たせしておいての、今更な補足説明回ですみません。

色々あってようやく最終目的地到着…長かったです…。

そこから先の旅は極めて順調だった…というか、常にユージィーンのお膝抱っこ状態で神輿に揺られるのに慣れたということを、順調というなら順調っていうことなんだけども。


確かにこうやって後ろから固定されていれば、どうやらこれに乗るのが絶望的に下手糞らしい私でもコロコロ転がることはなかったけど、精神的な疲労が半端ない。


かといって、そこから逃れるために「あ、今のお店とか気になるなぁ」とか言おうものなら、リヒトに肩に担がれるか、カイルさんにお姫様抱っこされるかって状態で、一度も地面に足がつくことなく連れて行ってもらい、また帰ってくるっていう…もう、どっちにしても辱めにしかならないっていうお話で。


まぁ、それでもこれが私の迷子事件が皆にもたらしたトラウマの産物なら、甘んじて受けるしかないよねってことで、ひたすら大人しくユージィーンの膝で我慢した結果。


ついにつきました!…たぶん、この旅の最終目的地になるはずの、帝国の首都ってやつに。


もう誰に教わらないでも、異世界から来た私でもここがそうってわかっちゃうのは、とにかくその境目の門からしてバカでかくて、さらにいえば歩いている人が明らかに段違いっていうレベルで多いから。


明らかにこの神輿集団とか、迷惑以外の何物でもないですしって位に人歩いてる。

多分、DJポリスとか出動するレベルの渋谷のスクランブル位の過密ぶりで。


カイルさんとか、リヒトとか、ユージィーンとかが、自分の国を小さいっていってたのがわかるレベルで、まったく規模が違う。

なにせ、見かける人種からして多種多様で、多分この都のメインストリートと思われる尋常じゃない幅の道には、一見して人間とは違う人種…三角耳でふさふさの尻尾がお尻についてる人とか、ひれにしか見えないものが背中についてる人とか、緑色とか、青色とか、蛍光色とか目に眩しすぎる人とか、思わず口が開いて閉まらなくなるようなびっくり人間のオンパレードだったし。


「ああ、うちの国ってなんだかんだで島国だから、よその民族とかそうそう入ってこないから、見かけてなくても無理ないよね。獣人も、魚人も、地底人も、希少種の部類だから、こんなに見かけるのはうちらでも珍しいよ」


あんまりにも驚いた様子の私に、そう言ってくすくす笑いながらユージィーンが説明してくれたところによると、帝国はいろんな国との通商がある関係上、多種多様な人種がいるらしく、私の目が釘付けになったふさふさの尾がある人間は獣人といって、主に森の多い国に暮らしている民族で、姿かたちは種族によって、完全に獣っていう人から、ほぼ人間っていう容姿の人まで様々いるらしい。


そして、背びれが付いてる見た目の通り、魚人という海に住んでいる種族で、やたら目に眩しい原色系の肌色をした人たちは地底人、そして見た目的にはほとんどかわらないけれど竜人という人種の人もいるらしく、違いといえば人ではあり得ない位に容姿端麗な人が多く、とにかく変わった人間が多いらしい。

あとは異様に光物に目がないっていう特徴もあるんだとか…たしかに、RPGとかでやたら宝箱守ってるイメージあるけど、それってこの世界にも共通の意識なんだぁとか感心してる私に、ユージィーンがまたチェシャ猫の笑いで爆弾発言を付け足した。


「ちなみに気づいてないみたいだから言っとくけど、リヒトも獣人だよ。ほとんど人寄りの種族だけどね」


なぬッ?!と思わず、外を歩いているリヒトの頭に目を凝らす。

三角耳とか、気づかないけどその銀色の髪の中に埋まってないかなぁと探す私に、リヒトが視線を感じたのかこっちに寄ってくるので、思わずその頭に手を伸ばしたら問答無用でかわされてしまった。


「うわっ…なんなんだよ、いきなり触ってくるなよ…!よけそこなったら酷いことになるだろ、俺が!」


意味の解らないことをわめくリヒト。

この辺りがいかにも、私の知ってる理人に似ている小物ぶりだ。

もっとカイルさん位に鷹揚に構えていただきたいものだ。


でも、毎回姫抱きの度に、「防具はきちんとしてますので」っていう、誰に対してなのかわからない説明をしてくれるのもそれはそれで鬱陶しいものがあるけど…。

なんか、私ばい菌扱いみたいでちょっとへこむっていうか。


「ちょっと触る位いいじゃん!自分だって、私の頭位撫でるでしょ?」

「いや、してない。断じてしてない、今は!そういう誤解を招く発言は後ろを見てからしろっての!」


そんな風に怒られても、振り返っているのはふわりとつかみどころのない笑顔を浮かべてるユージィーンで、一体何を言いたいのかさっぱりだ。


「じゃあ今度、こっそりでいいから耳としっぽ生やして見せて!」


と自分に出来る精一杯の可愛いおねだり声で言ったら、信じられないものを見る目で見られるとか。

なんなの、喧嘩売ってんの?と流石にムッとする私の顎を後ろからユージィーンがぐいっと持ち上げる。

必然的にユージィーンを見上げるしかない私を、悪戯心満載の茶色い瞳で見下ろして。


「…あ、獣人に何の獣人なのかって聞くのはものすごく失礼だから、気になってもやっちゃ駄目だから」

「っていうか、遅いよ!!絶対わざとでしょ?!」


盛大にからかわれただけで、なんの獣人なのかはわからずじまいだったっていうね…!


うーん…教えてくれないとなると妙に気になってしまうのは、人間の性だからしょうがない。

そんなわけで、そこから先の神輿の中は「リヒトは何の獣人か」クイズに突入してた訳で。


「んー、狼?」

「ブー、狼は滅多にいないよ。特に黒狼はもはや絶滅したって言われてる位に珍しい」

「じゃあ、ライオン?」

「彼らはうちの国にはいないかな。もっと乾いた土地の方にいるよ」

「ヒョウ?」

「その辺りはもっと山の方かな。いないわけじゃないけどね」

「…まさか…猫とか、犬とか…?!」

「…うん、その辺りだとすごく嬉しいんだね、ユキは」


あきれ顔のユージィーンに言われて、私は思わず赤面する。


だって、この世界に来てから愛玩用の動物とか見かけてなかったからつい…!

そんなモフモフ獣だったら嬉しいなぁっていう気持ちがにじみ出てしまってもしょうがないと思うんだよね…!!


でも、今なら分かる気がする。

獣人がいる世界だから、この世界には愛玩用って括りの動物がいないんじゃないかな。


でも、リヒトの頭に猫耳や、犬耳が生えてるところは想像できなくて、私はむうと眉根を寄せて考え込む。

そこに追い打ちをかけるように、ユージィーンはくすくす笑いながらその疑いを否定した。


「でも、残念ながら猫も犬もハズレだよ。海向こうの国にはいっぱいいるって聞いたけどね」


性格や、動きの敏捷さからいったら、ネコ科の動物はいい線言ってると思ったのに残念だ。

その時にふと、ユージィーンの指が私の頭を弄っているのに気づいた。

多分、耳が生えるとしたらその辺りって所をくるくると、くすぐったくてむずがゆくて、なんだか落ち着かない感触で撫でられて、私は思わず背筋を竦めた。


「…ユージィーン?」


なにしてるの?という意味で見上げたら、なんでかわからないけど満面の笑みで返された。


「もし、ユキが獣人だったらナニ耳かなぁって…ちょっと思ってさ」


猫耳も可愛いけど、犬耳も捨てがたい。

それに。


「兎の耳なんかも可愛いよね…ふわふわで、真っ白で、手触りが良い…ずっと撫でたくなる長い耳とか」


そんな風に言われて、私は思わず撫でられていた頭を手でふさいだ。


「そ、そんなことしても生えてこないから…!!」


こういう時に膝抱っこだと、どこにも逃げ場所がないとか…やっぱり問題ありまくりじゃないか!と誰に対してだか、突っ込みながら。







にぎわう往来の物音に紛れているけれど、明らかに騒いでいるらしい神輿の中に、リヒトはこっそりとため息を漏らした。


「…なんかもう、いっそよそでやってくれって言いたくなんねえ?」


もちろん、反対にいて周囲に警戒を怠らない真面目な相棒、カイルは頷きはしなかったが苦笑して。


「仲が良くてなによりじゃないですか」


そして、かすかにその瞳に陰りを宿して、往来の雑踏に紛れていまだ見えない、この旅の目的地の方角に目を凝らした。


「…しかし、ユージィーン殿は…いかがするおつもりなのでしょうね…」


これだけの威容を誇る首都を束ねるだけの力ある皇帝相手に、売りつけるつもりなのはあの、目の中にいれても痛くない程溺愛しているユキ本人なのか、それとも。


「まぁ、どちらにしてもそれが”本物”じゃねえことは知ってるからな」


いうなれば、自分たちは詐欺師の集団で騙す相手は、大陸の中でも最大の国力を誇る皇帝陛下だ。

どう考えても彼我の差は大きく、そこに皇太子のお墨付きがあったとしても、それがどれだけの威力を発揮するのかは、会ってみるまで分からない。


「…なんつーか、今更だけどものすごい博打打ちなんじゃね?」

「最悪、まとめて手打ちにされてお終い、という意味では大博打ですね」


そこでくすりと笑うカイルも、どこかおかしいとは思う訳だが。


「…ま、乗り掛かった船だから仕方ないっちゃ仕方ねえよな…」


それになにより。


「あのユキ殿なら…なんとかなる気もしてしまうのだから、不思議ですよね…」


そんな風にわらうカイルに、拳を合わせて同意をしめしておいてから、リヒトは唇を釣り上げた。


「…あとはあの、お嬢ちゃんの不死の妙薬とやら次第か」


はなはだ不安な道行なのに、妙に高揚しか感じないのは。


初めて、自分のために。

命じられたからではなくて、自分が好ましいと思う人物にだけ、身を尽くすことが出来ているから、かもしれない。


そんな風に思ってから、妙に気恥ずかしくなってリヒトは空を見上げた。

そこだけはどんな国でも変わることのない、青い空に。


そして何時しか、それを覆うように大きくそびえ始めた、目立つ朱色の屋根…皇帝が住まう所、聖地中の聖地である皇居に目を据えて。


「ま、なにかあっても逃げ足だけは自信あるからな」


いざとなったらけつまくって逃げてくればいいか、と誰にともなくつぶやいて、リヒトは大きくあくびをした。


相変わらず、なんの話なのか分からないながらも、にぎやかに騒いでいる二人を乗せた輿を呆れたように…それでいて、どこか嬉しそうに眺めながら。






よそ見される度にイラっとするお貴族様に気を遣う侍従二人…。

あっちこっちでイチャコラされて、ほんと苦労人ですよね(笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ