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落し物は落とし物を拾う

ご愛読ありがとうございます。

お月様の方やら、私事がんバタつき気づけばもう八月も終わりという…。

毎回、毎回、更新が滞りましてすみません。

なんだかんだで最終章、東の大陸にたどり着いたユキちゃんです。

ここから皇帝様のところまで一気にバビューン…とはいかないのがこの作品。

まだまだのんびり旅は進みますが、終わりに向けて走っておりますので、お付き合いただけたら嬉しいです。

もう今までの全てが何だったのか、っていう位に、早かった。

それも、ユージィーンに言わせると当たり前のことらしいけど。

何せ。


「劉焔様は事実上の次期皇帝、劉翔様は現在の軍の最高指揮官、国の権力者が雁首そろえてるんだから、どこだってフリーパスだし、なによりも皆気を遣って急いでくれるから楽」


…っていう、そこに尽きるらしいけれど。

そう、私は全く気付いてなかったんだけど、この世界にもきちんと領海っていう考え方はあって、今まで通行してきた海にもそれぞれが管理している国とかがあったらしい。

そう言えば意味もなくぷかぷかと浮いてる数日とかあったような…。

そういうのは全て、通行手形を承認してもらう手間とか、そういうのでかかってた日数だったりしたらしい。

うーん…ここまできて今更だけど、言われてみたら当たり前だよね。

寧ろ、今まで気づかずにこれた私って、どれだけ能天気なんだろ…って、ちょっと落ち込んでいる私を、ビミョーなにやにや笑いでリヒトが慰めてくれる。


「まぁまぁ、俺らがこの船でエライいい待遇でもって迎えてもらってるのも、お前があの時護身術を鍛えてくれたおかげで、次期皇帝様のナニを危うく蹴りつぶす寸前までいったっていう、その点に尽きるからな!」


…そう、そうなのです。

私自身は全く覚えていないのですが、どうやら酔っぱらって前後不覚になっていた私は、知らぬ間に劉焔様に信じられない無体を働いていたようで…!

それはよく、その場で手打ちにならなかったなと今更青ざめてぶっ倒れたくなるほどの失態だったというのに、なぜかその弟の劉翔様と言い、そのほかの方々と言い、腫れ物にでも触るかのような丁重な対応で、私としては非常に座りが悪いと言いましょうか、いっそなにか断罪してもらった方が気は楽だったな、という生殺し状態…。

ユージィーンに言わせると、王朝時代の中国に似ている彼らの母国では、道士信仰というのが根強くあるそうで、そういう道士という人はおごり高ぶる人の前に童の姿でその欺瞞を説きにやってくるものらしく、私はその道士だとすっかり勘違いされているらしい。


っていうか童の姿って…!!この童顔がこんなところでいきるとは思わなかったし…!!


とにもかくにも、子供の顔をして悪魔のように強かった私の姿に、皆様が一様に恐れおののき遠巻きにしてくれているお蔭で、この倍速の旅がある上に。


「…しかもついでに観光までさせてくれるってんだから、ユキちゃん様様だよなー!」


…うーん、絶妙に嬉しくない…嬉しくないんだからね!!






そう、この倍速の旅。

早いのは嬉しいんだけど、偉い人ばっかりなもんでとにかく仰々しい。

どこに行くんでも人一杯、そんでもって基本移動には足を使わない。

じゃあなんだって、牛車もしくは馬車、もしくは一杯の人が担ぐ神輿って、祭りかっ!!ってレベルでしょ?

でも冗談じゃなくて真剣に、それしか移動の方法がないらしい。

え、偉くなるって大変だなー…!

まぁ、軍事の最高責任者らしい劉翔様は実務上、馬に乗って移動してるけど、劉焔様に至っては普通の顔で、私は乗った段階であっちにコロコロ、こっちにコロコロで忙しかった神輿に、微動だにせず担がれてたからね。

生まれと育ちが違うって、こういうとこなんだなぁって感心しきりの私だけど、こんなんで首都までとか発狂するでしょ?


そんな訳で、道士様効果を十二分に活用させてもらって、「できれば普通に街歩き的な観光もしてみたいなぁ」とちらーっと、本当にちらーっと、お願いしてみたところ、劉翔様には「市井の暮らしを見たいという道士様の深い意図に気づかず、誠に申し訳ありませんでした!かくなる上は…」的な、どう考えても切腹に行き着く本気の謝罪を手前で回避しつつ、そういうことなら景色も綺麗で観光向きなところがありますので、とわざわざ寄り道してもらえることになったのがこの街、という訳。


東の大国は水運の発達した国らしい。


都にも大小の運河が流れていて、アムルニアのように国の端っこで船を降りて、そこから延々馬車で旅をするなんてこともなく、ある程度までは船で行けたというのも倍速のからくりの一つだ。

この街もそんな運河の街で、言い方はあれだけど中国版小樽?みたいなとこだ。

東の国の中では外れだというけれど、それでも運河にはたくさんの船が浮いている。

今現在、私たちが乗っているのも猪牙というその名の通り、猪の牙みたいな形になっている小舟の一つ。

後ろに漕ぎ手の人が乗っていて、偉い人の乗り物らしく、御簾にすだれがかかっているものもあれば、この私たちのものみたいに屋根すらない開放的なものもある。

勿論乗っている船頭さんは、船頭さんのように見える護衛の人だったり、そもそもフォーメーションみたいに前と後ろは私服らしいけど目つきの鋭さが隠しきれていないその手の方々の乗る船で固められてたり、酔っ払い時はともかく平常時の戦闘力はほぼゼロっていう私の相方は、こういう荒事には一番慣れているらしいリヒトだったりと、実は開放的に見せかけて防備はばっちりという物々しさではあるのだけれど、それも今までのうじゃうじゃに比べたらすっきりしてる方だし、何よりも気心の知れた人間しか見えるところにいないというのが違う。


最初はいつ転覆するかはらはらしていた私も、大きな船とは違う風を切って水の上をすべるように走る快感に目覚めてしまい、今では片手を水に浸して綺麗な水面を跳ねる水しぶきにキャーキャー言う余裕すら出来てきた。

まったくもって、おのぼりさん全開だけど気にしない!


「…それにしても、本当に何から何まで違うものなんですね」


こちらも初めて国の外に出た、という真のお上りさんなカイルさんも、私と同じく船の上と橋の上でモノが飛び交う職人技な物々交換の光景に目を丸くして驚いているから。

そんな神業が可能なのも、両者の声が難なく届く位にはお互いが近くて、要するに橋の高さ?が低くて、端の度に船頭さんが器用にかがみこんでやり過ごし、身長はアレで全然にも関わらず慣れない私があまりのづリルに首をすくめるほどのすれすれでその下を通過する位の距離感しかないからだ。

それでも、同じく初めてこの土地に来たというリヒトは碌に外を眺めるでもなく、あくびを一つして。


「そりゃそうだろ。まず国の規模からいっても全然、話にならねえレベルで違う国だもん。俺らのとこなんて、この外れの街と規模も人口もどっこいどっこいだって不思議じゃねえしな」


なんてことを、頭を掻きながらつぶやく始末だ。

この同じものを見ての反応の違いが、何を理由にわけるものなのか気にならないわけじゃないけど。


「…ユージィーンも初めて?」


並んで走る船の向こう側、というのは近いようでちょっと遠い。

少なくとも、すぐ手を伸ばせばソコにいないというのは不便で、思わず声を張るように問いかければ、いつものようにチェシャ猫っぽく口元を釣り上げたユージィーンが頷く。


「有名な所だから、話や文献で目にしたことはあるんだけどね」


その言葉に首を傾げれば、ここは本当に有名な観光名所らしく、なんでも「願いが叶うパワースポット」なんだとか。


「水燈って言ってね、願い事を書いた蠟燭を乗せた小舟を流して願掛けをするイベントが毎年、この時期に行われるんだ」

「ああ、それはたしかに本で読んだことがあります。ここでやるものだったんですね」

「あー、あれなぁ。そんなんで叶う願い事なんてどうせ大したことないもんなのになぁ、人気だよな」


三者三様の納得をしているメンバーに。


「…それって…精霊流しみたいな…??」


聞いた話に思わずそう聞き返して、この世界には精霊流しは存在するのかなと小首を傾げれば、やはり不思議顔のユージィーンとカイルさんと、リヒトに迎えられてもう何度目かの「ああ」を味わうことになる。

この色とりどりの髪や目になじんでいるみたいに、異世界だったこの世界になじんできた私だけど、こういう時にはやっぱり、ちょっとだけ疎外感を感じてしまう。


救いを求めるみたいに、目を橋に流せば、そこでこちらを見下ろしている長い髪の毛の人とばっちりと目が合ってしまった。

潤艶ストレートに真っ黒な瞳、そして真っ白な肌を藍色に染めた中華風の服で覆っている、どこか線の細さが目立つ、そんな人。

レンガ造りの割合しっかりした橋から、なぜか真下を見下ろしていたその人の手が不自然に開いているのを見て、「あ」と思って咄嗟に手を広げた、その手にぱさりと軽い重みが来て、彼が橋から落とし物を拾おうと身を乗り出していたことに気づいた。


「あ、ちょっと、ゆっくり…」


と船頭さんを振り返っても、水の流れは止まらない。

そのまま、高速で橋から離れてしまう猪牙の舳先にしがみついて、私はこちらを振り返って追いかけているその人に見えるように、その落とし物…多分髪を束ねていた組み紐らしい真っ赤な紐を振り回して、私はその人に叫んだ。


「次の!次の橋の上で待ってますから!!」


その言葉を聞いたその人が、驚いたように見開いていた目を細くして微笑んで頷いたのを確認して、よかったと胸をなでおろした私を、まさかリヒトのこめかみぐりぐりが出迎えるなんて思いもせずに。






警護対象がみだりに赤の他人に接触するとかありえない、というのを口が酸っぱくなる位に何度も何度も言い含められて、リヒトはおろか穏やかな人格者であるカイルさんにも「どんな目的の、どんな人が相手かわかりませんから」と渋い顔をされても、やっぱり人助けなんだし、約束したのは私だし!と必要以上に「私が返す!」と駄々をこねてしまったのは、さっき感じた疎外感とか、ちょっとした寂しさを誤魔化すために、ちょっとだけ皆を困らせてみたかったのかもしれないと思ったのは、結局私の頑固さに折れた三人が「すぐに渡してお別れする」ことを条件に、私の我儘を叶えてくれると言ったからで。


「…だからやめとけっていったのに…まったく…」


そう言ってリヒトがブーブー言い続ける位にご機嫌斜めになってしまったのは、結局落とし主が現れずその落とし物は、とっぷりと日が暮れてしまうまで、私の手元にあり続けたから…要するに待ちぼうけをくらわされてしまったせいだった。


待ち合わせ場所が悪かったのか、そもそも私の言った言葉が聞き取れていなかったのか。


今となっては理由はわからないけれど、待ちぼうけを食らってしまったのが私の我儘にあることは否定できなくて。

あ、ちなみに薄情なユージィーンとカイルさんは、先に宿に帰っているといってとっとと見切りをつけてしまっていた。

ユージィーンはともかく、カイルさんはその護衛だから本当に仕方なかったんだと思うけど。

なんか途中から私の護衛についてくれてる人たちがわさわさしてたから、もしかしなくてもこっちはこっちで自由行動になってる劉焔様になんかあったのかもしれないしね。


「…んー…なんか、ごめんね…」


おもわず悄然と謝れば、途端に焦ったようにリヒトが周りの店を見渡しだす。


「あー、もうなんか食おうぜ!腹減るから気分が暗くなるんだよ、な?!」


私が泣きだすと思うと焦りだし、途端に何かを食べさせようとするのは、むこうの利人に似ていてどこかおかしくて、それでも違うんだと周りの眺めで思い出してしまう。


精巧な飴で出来ている優雅な尾羽のある鳥の名前を、私は知らない。

その向こうで売られている美味しそうなお肉の塊の、その前の姿を、私は知らない。

たぶん、溢れかえるようにさえ感じる人の波の中で、私だけが知らない。


そう思うと、怖くなって足が止まりがちになって。


「…リヒト…?」


気づけば、そばを歩いていたはずの背中を見失っていた。


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