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落とし物は、贈り物をする

ご愛読ありがとうございます。

毎度うんとこさ間があく小説で申し訳ないの一言です。

あちこち手を付けて自分で追い込まれているどMぶりに自分で引きます…

今回は怪しい感じで終わってしまったので、次回はなる早で上げるつもりです。

その前にこれはセーフラインか?ムーンばっかり上げてるのでわからなくなりつつあります…。

ちょっともう一回、なろうのセーフライン勉強してきます。

母上殿、というユージィーンの言葉に、針金のような眉毛がほんの少ししかめられた。

まるでそう呼ばれることが不愉快だとでもいう様に。

その癖、その瞳と髪は二人の確かなつながりを感じさせるようにそっくり同じ色をしている。

血を分けた息子としては冷たすぎる声音で、ユージィーンが続ける。


「これは特別扱いの客人です。貴方がどうこうできる立場にないことはとっくに了解いただけているはずですが」


上品な言い回しだけど、翻訳すると「お前には関係ないだろう、すっこんでろや」と言われているわけで、こんなことを言われて引き下がったら社長ではないわけで。

いやそっくりさんなだけですけど。


「当主代行としていうべきことを言ったまでよ。家名に泥を塗られて困るのは貴方だけではないのですから。ながらく家をほったらかしにしていた貴方にはわからないと思うけど」


ほらね。針金みたいな眉毛は普通の位置まで戻ってるけど、納得してないって前面に書いてある顔を見れば引き下がる気なんかさらさらないんだろうなーってわかる。

こういうのを泥沼っていうんだろうな…にらみ合ったまま一歩も引かない二人を他所に、私はカイルさんにこそっと囁く。


「あのー…申し訳ないんですけど、客人ってどういうことですか?このペンダントが関係あるんですよね??」


確か以前にカイルさんは、このペンダントを見て私を「センティネル家の客人」だといって敬意を示してくれたのだった。

私はそれをなんとなくユージィーンのおうちに招かれた人的な意味合いに取っていたのだけれど、なんていうかこの社長そっくりさん改めユージィーンのお母さんの感じだともっと大事な感じがする。

そんな私の嫌な予感を裏付けるように、カイルさんは驚いたように少し眉を上げてからこう答えてくれた。


「客人というのは、その家の当主が招く客人の意味もあるのですが…多くは彼らが認める公認の…恋愛関係にある人、という意味を指すのですよ」


一時的ですが紋章入りの所有品を有する限り、その家に連なるものとして優遇される権利を持つことができるとかなんとかいう説明もカイルさんはしてくれていたけれど。

そんなことよりももっと聞き捨てならない事実が引っかかっていた私の耳には引っかかっていなかった。


「…公認の恋愛関係…って」


そしてさっき聞いた不倫は文化説にのっとったら、それは間違いなく。


「…いつの間にか、私はユージィーンの愛人ってことになってる訳ですか?!」





付き合いがあるうちは大事にしてくれる、と言っていたオリガさんの言葉がよみがえってくる。

ということはユージィーンは今までの愛人全部にこういうことをしていたわけで。

道理で手慣れてるわけですよね、プレゼントの贈り方とか。


「…ユキ殿?」


だからああいう、涙にかこつけてのちゅーとか、イヤリングとかそういうのも一種の手管な訳で。

愛人100人できるかなっ、の一人な訳で。


「…ユキ殿、どうか…」

「…何でもないです…」


そんなことに今更、怒ってどうするっていうんだろう。

わかってたはずなのに、ユージィーンはそういうやつだって。

恋だって操れる人、そんなのに比べたら私なんて赤子よりもたやすい。

近いうちに失恋確定の、もっとも転がり落ちやすい女。


「ユキ?」


いつの間にか社長そっくりさんはいなくなっていて、気づけばユージィーンだけがこっちを見ていた。

茶色の瞳に茶色の髪、オーク色のそれに青色の衣装は凄く似合っている。

大海原でくさくさしてる隠居じゃなくて、立派に国の重鎮だった宰相なんだって一目でわかる豪華な衣装。

貴族に生まれて、仕事ができて、女性にモテモテ、そんな人生勝ち組の男に。


「…とりあえず、一発殴らせて?」


そう思ったら無性にむかついて、拳を握りしめた私をカイルさんが慌てて止めた。


「ユキ殿!この場ではそれは…!」


あー…なんか嫌だけど理解した。

公的な場だとあれな、痴情のもつれ的な感じで醜聞になるわけですか?

私、今のとこ愛人スタンスなんですもんね、コンチクショウ!


「わかった、ちょっと顔貸して?」


つまりは非公式なとこならいいんだろって理解は間違ってなかったと思うんだよね、私は。




と、いう訳でどこにきたかというと王城のゲストルームです。

遠方から来た貴族さんたちにもあてがわれているらしいけど、功労者特典ということで私とユージィーンにも一室ずつあてがわれているのだ。

まあ、王都に家があるらしいユージィーンは帰れよと思わずにはいられないけど、あのお母さんとの確執をみたらそら帰りたくないかもなと納得してしまった次第、って違うのだ私は怒っているのだ。

なぜか当たり前のように控えていてくれた侍女さんたちを大事な話があるからと皆外にだして、私は憤然とユージィーンに詰め寄った。


「ちょっと!ユージィーン、色々と聞いてなさすぎなんだけど!!」


そんな私の噛みつきに、耳に小指を差し入れて煩いなあという態度を示した後、水差しから水を入れてこっちに差し出すユージィーン。


「説明するから、まず落ち着きなよ」


お、大人な対応しやがってからに…!と歯ぎしりしながらグラスを受け取ってソファーに座る。

おおっと、ふかふかすぎて埋まるんですけど…っと思っていたらひょいと抱えておろされた。

ユージィーンの膝の上に。


「これなら大丈夫でしょ?」


にこりと笑うユージィーンの顔を至近距離で見下ろす私は相当なアホ面だったらしい。

こらえきれずにふきだすユージィーンにわすれかけていた怒りが戻ってくる。


「っていうか、なんであ、愛人扱いになってんのよ?!」


バタバタとあらん限りの力で暴れるのを、なんなくいなしながらユージィーンはあっさり答える。


「とりあえず、それが一番手っ取り早かったから」


異世界から突然ポンと落とされてしまった私には当然ながら身分はない。

この格差社会で最底辺であるところの私が、敵国認定はされていないものの友好的とも言い切れない国の総大将に会いに行くなんて夢に見るのも許されないくらいの所業、ていうかあらためるとすごいことやろうとしてたんだなー私。

じゃなくて、そういうこともあって即急に私は何者かにならなくてはならなかったらしい。


「それには身分を付与しなきゃいけないけど、そんなことが可能なのは国王陛下くらいと来てる」


そしてもちろん、身元定かでない相手に国王陛下がおいそれと身分を付与してくれるかっていうともちろんそんな訳もなく。


「だからとりあえず、一番簡単な方法でユキの身分を設定しようと思ったら、うちの客人扱いに行き着いたってわけ」


愛人100人できるかな、のユージィーンなので、そのあたりはらくらくスルーだったかっていうとあのお母さんのいいようではそうでもなかったみたいだけど、取り合えずトップのいうことは絶対的なこの社会のおかげで私は今まで平穏無事だったということは理解した。


「…ま、本気の愛人でも俺は構わないけどね」


そう呟いて項に鼻を擦りつけてくる手の早い男を手で押し返しながら、私は改めて確認する。


「でも、それならもう必要ないってことでしょ?王様にも会えたし、東にいく為の親書だって預かれたわけでしょ?」


これからはその手紙が私の身元を保証してくれるはずだから、理論上はこのペンダントは用済なわけだ。

それでもこの世界で初めての宝物を手放すのはちょっと寂しいけれど、いつまでもユージィーンの愛人身分に乗っかってるわけにいかない。

私はさっき群がっていた女性陣を思い浮かべる。

愛人は文化の社会っていっても、奥さんの立場からしたら微妙だろうし、下手にいびられたりするのは嫌だ。


「…だからこれはもう…」


いらないよ、と外そうとした手に、ユージィーンの手が重なる。

ぐっと強く握りしめられて、思わず眉を寄せた。

いつになく強すぎて、痛いというより怖かったから。


「…俺のモノだと思ったら途端に要らなくなるの?」


逃げようと思うのに、金縛りにあったように動けなかった。

至近距離で私を見上げるオーク色の瞳を見たら。


「…ユージィーン…?」


戸惑って呼びかけた私に、ユージィーンがにっこりと微笑む。

笑ってないことがわかる、そんな笑顔で。


「ねぇ、人払いしたってことは、こうされたって文句は言えないんだよ?」


気が付けば回った視界に小さく叫んだ口をふさがれて、気が付けば私はソファーに押し倒されていた。




突然すぎてちっとも頭が付いていかない。

だって、あまりにもおかしすぎる。

ユージィーンにソファーに押し倒されて、こうしてキスされてるなんて。


「…っふ、んんっ、ん!!!」


いつかの教育的指導みたいに、いやそれよりもっと噛みつくようなキスが降ってくる。

離されたと思っても、またふさがれて息ができない。

まともな思考は置き去りにされて、ユージィーンのオーク色の瞳を見返して、精一杯の力でその胸を押し返すことしかできない。

でもそんな抵抗あってないがごとしだ。

不意打ちのように耳を甘噛みされた瞬間、へなへなと力が抜けるのを感じた。


「…耳が弱いんだ」


へえ、と小さくつぶやく声がまるっきり肉食獣のそれで、身をすくめて首を振るしかできない自分はさながら食べられる寸前の草食動物だ。

こり、と耳殻をかじられて、ぬるりと穴に突き入れられる舌に生理的悪寒がこみ上げて震える。

背中に回った手が前に来たと思ったら、もう半分脱げてるドレスからこぼれた胸を包まれていた。

早業過ぎて、隠すなんて発想がわく前に包み込んでいた大きな手が動き出す。

大きさを確かめるようにやわやわと揉みしだかれる、その初めての感覚に頬がかっと赤くなる。


「ちょ、っと…!」


洒落にしては真剣すぎる眼差しに、どう呼びかけていいのかすらわからない。

何を考えているのかわからないんじゃなくて、ユージィーンの目に浮かんでいる考えがあからさま過ぎて、それが自分に向いていることが信じられない。


「ユージィーンってば!」


髪を引っ張る私の手を押さえるように、胸の尖りに舌を添わされた。

やだ、とつぶやく声が自分でも頼りないくらい小さくて泣けてくる。


「…その言葉がホントなら、俺を止めてみせてよ」


長いドレスの裾をじわじわとたくし上げながら、ユージィーンの手が太ももをたどる。

撫で上げられてるだけなのに、背筋がしなるくらい性的な接触に一番触られたくない場所を隠すようにキツく足を閉じる。

そんな私のなけなしの抵抗を笑うみたいにそう言って見せる。

そんな面白がるみたいなユージィーンの言葉を怒りたいのに、その目を見たらできなくなってしまう。

面白がっているのも、怒ってるのもフリでしかない。


「…じゃあ、そんな目で見ないでよ」


そんな哀しい目をされたら、わかっちゃうに決まってるじゃないか。

それがなんなのか、わからないけれど。

たしかにユージィーンを傷つけたものがあって。

その傷を慰めるために必要なことの相手がたまたま私だっただけの話で。

運が悪いってことなんだと思う。

それが偶々初めてだってことは。

いつまでも後生大事にしてたってしょうがないんだし、人助けとおもえばできる、と思う。


だから私はユージィーンの目元に手を滑らせて笑った。

涙はないけど確かに泣きそうな、そんな目に。


「…今までのお礼で一発、許してあげる」


驚いたみたいに見開かれるオーク色の瞳がきれいだと思う。


「…ユキ?」


名前で呼ばれる度になんだか胸が騒ぐ気がする。


「…ユージィーンなら、いいよ」


泣かないで、って言われるよりもずっと、そういわれた気がした。

壊れ物みたいに大事にしてもらえた気がした。

傍にいるといつの間にか安心できるようになった。

他の人に囲まれてると面白くない気がして、つまらなかった。


そういうのをなんていうか、なんてとっくに知ってる。


「…やったことないから、よくわかんないけど」


それでもこの気持ちに名前なんて付けたら、取り返しがつかなくなるから。

私はそっとユージィーンのお腹に手を伸ばした。

手触りのいい絹の下に眠る、彼のむき出しの穴。

きっと、お母さんがいったあの女が彼に残していった置き土産を。


だからこの気持ちに、今は名前なんて必要ないのだ。


「…それで、ユージィーンの気が済むならいいよ」


必要なのが、ただお互いの温もりだけだとしても。

分け与えたいその気持ちに嘘はないのだから。


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