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こじれた二人の事情について

いつもご愛読ありがとうございます。

今回は前作知識のない方にもわかるように書いたつもりなんですが…我ながらまとめようとすればするほどこんがらがるので結局適当な抜粋になってしまいました 汗

分かりづらかったらごめんなさい。

王様の私室というわりに、モノの少ない部屋。

でもよく見れば、調度品のすべてに値が張りそうな細工が施されている、やっぱり王様らしい部屋の一角。

テラスのように張り出した空間で、私はよい香りのする紅茶をいただきながら憮然としていた。

目の前にいるのは、すでに王様と知っている超絶美形相談官様。

その横には何故か、彼と一緒にすでにこの部屋にいたユージィーンだった。

無事に潜入できていたのかとちょっと、ほっとしたのは何かの気の迷いだ。

そう、ちょっと心細かったからってだけで!

というのもここまでずっと、私のそばについてリードしてくれていた、彼女がいれば百人力…どころか無敵なんじゃないかと思えるヒルダ様が、この部屋に向かう途中。


「献上した品物の出来が気になりますので」


と、いかにもとってつけた理由で王様との謁見を嫌がったせいで。


「ならば、ご案内がてら私がお供します」


と相変わらずの王子スマイルながら、微塵も反論を許さない感じで同行…という名の監視についたクリスさんまで途中離脱することになったのだ。

最後に見たヒルダ様の今にも舌打ちしそうな不機嫌顔と、クリスさんの笑顔の対比が凄まじかった。

でも、そんなに会うのを嫌がられるっていうのもすごい。

どんだけわだかまっているの、この二人は。

という気になるけど答えの出ない疑問とともに、結局一人この謁見の場によこされた私。

多少の気まずさも、その場にいたユージィーンをみた瞬間に吹っ飛んだのはありがたいけど。


「…すまんな。自己紹介というものに慣れていないんだ」


黙ってるなんて酷いじゃないですか!と開口一番、抗議した私に。

面喰ったように相談官さんもといこの国の王様、シオン様が答えた。


「大体の相手は、シオンが誰かなんてわかり切ったうえで会いにくるんだもんねー」


横から補足してくるユージィーンをにらむ。

そりゃそうでしょうよ!


「それならあの話をした時点で、教えてくれてもよかったじゃない!」


聞けばこの国に、琥珀の瞳を持つ人はシオン王ただ一人らしい。

それなら絶対に、私が超絶美形相談官さんの話をした時に、この男はそれが誰だかなんて気が付いていたはずなのだ。


「だって、あの時点で話したところで、大差ないでしょ?」


結局、謁見した時にはわかるんだし?というユージィーンの目。

明らかにそのほうが面白いからって書いてあるのが憎い。

ああ、そういうやつですよね、この根性悪ご隠居さまは!


「そうだったとしても、心の持ちようっていうものが違います!!」


一度会っていたなら、こんなに緊張して会いに来ることもなかった気もするし。

いや、でもよく考えたらその一度は王様相手に結構、馴れ馴れしい扱いだったような気もするから、それはそれで憂鬱な気持ちで来ることになっていたような気も…。

それなら知らなくてよかった、ってことなんだろうか?


って、丸め込まれてどうするの、私?!


そんな私の様子を、不思議そうに見つめていたシオン様が。


「そうはいっても、ジークには既にあっているんだし、免疫があるだろう?」


その言葉に、私はティーカップを上げたまま、固まった。


…そこでなんで、ジークさん?

まがりなりにも領主さまなのは、エレインさんの方のはず。

したがって、偉いのはエレインさんの方じゃないの?

でも、ここでその発言が出てくるってことはジークさんの方がシオン様と同等かそれよりエライって言ってるみたいな、そんな感じがするんですけど…!


私はその固まった姿勢のまま、そろりと横目でユージィーンをうかがう。


「…ユージィーン…?」


私の恐る恐るの問いかけに、元宰相は残念そうに肩をすくめた。


「あーあ…もうちょっと黙っておこうと思ったのになぁ」


まだまだ遊べたのにっていう顔が!

その顔が事実を語っている。


私とユージィーンの様子に、事の成り行きを知ったらしいシオン様が、ため息をついて言わずものがなの事実を補足した。


「ジークは表向き、金細工師だがな…俺の前王で」

「俺の元主、ってことね」


つまりは、悪評名高い暴君黒狼王に、私はがっつり知り合っていたわけで。

それはもう免疫がついているだろうと疑われるのも無理ないですが。

私は静かにとてつもなく高級そうな、ティーカップをソーサーに戻した。


そして、その手を思いっきり振りかぶって、ユージィーンのわき腹にぶち込んだのだった。




青いお目目の、北欧系イケメン。

私に幸運のお守りをくれた優しい優しいジークさんが、前政権の王様、黒狼王だったなんて。

でもそうだとすれば。


「…シオン様にとっては、仇ってことになるんですか?」


あの優しい人が、うわさに聞いたように酷いことができるとは思わないのだけれど。

そんな私の不安に、シオンさまは整った唇を釣り上げた。


「そうだとすれば、ジークは今生きてはいないだろうな。もちろんユージィーンも」


真実は逆なんだ、とそう語りだしたシオン様のお話は、私を絶句させるのには十分だった。




シオン様のお父さん、金獅子王の忠実な部下だったジークさん。

若くして病に倒れた金獅子王から、まだ年若い王子を託された彼は一計を案じた。

金獅子王が急速にそのカリスマ性と不思議な力をもって統一した国は、国という形でありながらいつ分裂してもおかしくない、そんな状態だった。

もちろん金獅子王という大きな存在で押さえつけていた、反乱分子も多い。

そんなバラバラな国を存続させるには、若い王子をたてるだけでは足りない。

そう感じた彼は、クーデターを起こす。

勿論、そうみせかけただけのものだったけれど。

そうすることで、自分に迎合してくる反乱分子をいぶりだし、王子が成人するまでに平定しておく。

それが、ジークさんの狙いだった。

いずれは斃れる王朝であるから、評判は高くなくていい。

むしろ支持されるようでは、あとからくる王子が歓迎されなくて困る。


「だから黒狼王の評判は、どれもきわめて悪いものだったんですね…」


むしろ意図的に、操作していた節もあるんだろう。

だから実態はないのに、噂ばかりが先行していた。

実際にやっていたのは、国を立て直す作業だったというのにそのことはひた隠しにされていた。


すべては目の前の、この人を王子に、王にするために。


「…だから、ジークは俺にとっては恩人で…育ての親みたいなものなんだ」


その言葉よりも琥珀の瞳が、彼への感情を物語っていた。

…ん?つまり前王朝と現王朝は、噂に反して友好的な間柄にあるってことだから。


「…あんなことしなくたってよかったんじゃない!!」


明日は敵地だから、といって布団にもぐりこんできたユージィーンを思い出し、私は真っ赤になった。


「そんなことなら叩き出しておけばよかった!!」


赤面して怒る私に、ユージィーンはにやにや笑うだけだ。

そんなことできっこないくせに、と書いてある顔が憎い…!


「こちらの事情で、ユキを振り回す結果になったのはすまなかったな」


脇腹にもう一撃食らわせるべきか悩む私に、シオン様の真剣な謝罪が届く。


「俺が王としてきちんと立っていれば…過去の因縁など持ち出さなくても皆をまとめることもできるのだがな…」


悔しいがいまだに経験不足なんだと、浮かべる笑みは苦い。


「ジークから多少は引き継いでいたのだが…内政は、この国の貴族たちの内情に通じていないといささか心もとないものがあるのだ」


そういう意味で、今シオン王の周りにいるメンバーでは心もとないのだという。


「クリスも、リヒトも貴族事情には明るくないからな…食い込む術がないわけではないが」


出た名前に、かちゃりとカップが揺れた。

違う、この世界のリヒトだとわかっているのに一瞬揺らぐ心のままに。


その動揺をちらりと横目で見ていただろう、ユージィーンに。

なにかからかわれるのでは、と恐れた私の意に反して。


「だからとっとと、ヒルダ様を王妃にしちゃえばいいでしょうが」


ユージィーンはすぐその目をそらすと、いかにも面白いものを見つけた顔をシオン様に向けた。

向けられたシオン様は。


「それが可能なら、とっくにやっている…!」


真っ赤になってそっぽを向く、とか。

分かりやすすぎて、なんか可愛いんですけど!

隙のない美形で、表情もめったに変わらないから余計、あたふたしているようすが微笑ましい。

そうか…相談官さんの時に片思いの人がいるって感じたのは、あながち間違いではなかったみたい。

しかし、ヒルダさまか…難攻不落っぽいけど大丈夫なんだろうか。


「だからとっとと、謝ったらいいじゃん?色々ごめんねーって」


ユージィーンの口調はあくまで軽い。

その口調で謝られたら私なら問答無用で殴るけどね!


「そんな軽々しく、謝罪なんか口にできるか!…理由もわかってないんだぞ」

「え?理由がわからないって…」


マジでいってるのかな、この王様。

どう考えても、婚約者をほったらかしてよその国に逃げておいて、ころ合いを見計らって帰ってきたからよりを戻そうって言われたら。


…普通の神経の人ならキレると思うんですけど?


私の恐る恐るの言葉を、シオン様は凄い勢いで否定した。


「俺はほったらかしで他所の国になんていってないぞ?!」

「そうそう、王妃としてこの国にずっといたんだもんね。むしろ婚約者だったときよりも、王妃と側妃として過ごしてた日々の方が蜜月だったもんね」


え…と。色々とおかしくてツッコミに迷うけど。


「…シオン様は…男ではない?」


思わずこぼれた疑問に、シオン様が目を見開き、ユージィーンは腹を抱えて笑った。


「…俺は正真正銘、男だ。証明しろというなら証明するが?」


その馬鹿笑いを受けて、妙に据わった眼のシオン様が胸をはだけようとするのを必死でとめる。


「わかった、わかりました!」


男の人にとって、性別を疑われるということが想像以上にプライドを刺激するのだということを!


「王妃のふりをしたのは、それが一番好都合だったからだ」


確かに殺したという黒狼王のところに、殺された王子がいるとはだれも思わないだろうしね。

しかし、残念。


これだけの美形の女装なのだ。

さぞかし絶世の美女だったに違いない。

一度、拝んでおきたかった。


…じゃなくて。


「それってもちろん、当事者以外には知らされてなかったわけですよね?」


いまでさえ、こうして黒狼王とシオン様のつながりは秘匿されている。

国家の重要機密なわけだから、おいそれと他に話すことはできないに違いない。

だからこそ、本来であれば正面からでも入れる城に、あえて裏口からユージィーンは入ってきた。


私の言葉に、怪訝そうにシオン様は頷く。


「…じゃあ、ヒルダ様はいつ知ったんですか?」


ヒルダ様はユージィーンなら心配しなくていいといっていた。

入口を知っているのだからと。

つまり彼女は知っていたのだ。

ユージィーンと、シオン王をつなぐものを。


「俺が、王妃じゃなくなった日…だな」


つまりことが終わった後で知った、ということだ。


「…ヒルダ様は、それが許せないんじゃないですか?」

「…国家の重要機密だぞ?話さなくて当然だろう」

「それでも、きっとシオン様から聞きたかったんじゃないですか?」


私だったら、きっとそう思う。

婚約者をそんな形で亡くしたと思っていたヒルダ様。

心に傷ができない訳はない。

でも、それ以上に。


「そばにいたのに、話してくれないって…そんなに信頼されてないことが哀しかったんじゃないでしょうか」


私の言葉にシオン様の顔が揺らぐ。

心底驚いているように。


「裏切られた、って感じたんだと思います、きっと」

「…あのヒルダ、が?…そんなに理屈に合わないことを思っていると?」


気持ちはわかるけど、この王様大概ヒドイ。

ヒルダさんをなんだと思ってるんだ!


「ヒルダ様だって、恋をすれば理屈にも合わなくなります!っていうかそんなに割り切れる思いだったら、モヤモヤ悩んだりしませんでしょ!シオン様だって!」


思わずキレる私に、今度はシオン様がひく。

わかったから落ち付け、どうどうと馬のようにいなされて、癪だけど椅子に座りなおす私に。


「でも、そうだとしたらもう可能性ないんじゃない?」


とバッサリ切り捨てるユージィーン。

その言葉があまりにも鋭利で、冷たくて。

私は思わず、その茶色の瞳を見つめていた。

いつものように飄々としているようで、どこか昏く虚ろなその目を。


「裏切った、とそうヒルダ様が感じているなら」


情けは無用でしょ、とそう切り捨てる声が違って。

私は思わず、ユージィーンの袖を引いていた。


どこか遠い人になってしまった彼を、引き止めるように。


「私は!そうは思いません!!だって…」


ヒルダさんはこうして、この城に来た。

私のためだったり、ユージィーンが面倒だったりしたせいも、もちろんあるだろうけど。

それでもヒルダさんはこうして、シオン様のところに来たのだ。


「それって、きっとまだ許したい気持ちがあるんですよ!」


そうじゃなかったらきっと、ヒルダ様はここには来ない。

どんなに言われても、誰に願われてもきっと来ない。


朝に見た、どこか心もとなげだった彼女の横顔はきっと。


「手遅れじゃないはずです!」


それなら謝るより先に、きっと言うべき言葉があると思うのだ。

そう私がシオン様に伝えようとしたとき。


どこかで何かが割れた音が響いた。


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