シナモンロールの対価
ご愛読ありがとうございます。
次回はまた一週間くらい空く予定です。
なかなか波に乗らずすみません…
お店から王城に向かう道はまっすぐであった。
綺麗な石畳の道を歩きながら、私はバスケットを手に優雅に歩いている隣の人を見つめた。
ユージィーンの長身を見慣れた後では、とても小柄に感じるのだけれど、この国の平均身長位はあるはずの、その女性はしっとりと落ち着いた微笑みを返してくれた。
「どうかしましたか?」
いかにも人妻、というもの柔らかな姿勢はなんだか、色っぽくて私は無性に照れてしまい、慌てて目をそらしながら手を振る。
「あ、あの!なんだかユージィーンが心配で!ヒルダさんと仲悪そうだったから…」
その言葉に、オリガさんはくすりとほほ笑んだ。
「そうね…仲がいいとは言えないわね」
それも仕方ないところもあるのよ、と言ってオリガさんはバスケットにかけた布巾を直した。
ふわんと香ばしい匂いがして、私は思わず鼻をひくつかせた。
うーん、気になる…なにが入っているんだろう??
「ヒルダの家は、国内でも指折りの名家でね…」
一族は代々、国王に使える要職につくようなそんな大貴族であり、とくにヒルダの父親はその才覚で金獅子王に重んじられた人物だった。
そんな父親が考えることはもちろんひとつで、彼女は当初金獅子王の息子、すなわち今の太陽王の婚約者の候補の一人にあげられていた。
「ヒルダはあんまり、話してくれないんだけど…シオン様に対して悪い感情は抱いていなかったように思うのよ」
といっても当時、ヒルダが10歳で、シオンは8歳になったばかりだったのだから、それは恋というよりももっと幼く、純粋な好意のようなものだったんだと思う。
「そんな折、金師子王が急な病に倒れて…シオン様は惨殺された…そう思われていただけだったけど」
心ある人に国外に逃がされていたものの、そんなことは誰にも分らなかった。
そして彼女は地位を失いたくなかった父親によって、新しい王に差し出されることになったのだ。
自分の婚約者になるかもしれなかった人に、これ以上ない凄惨な死を与えたという相手のもとに。
「…なんというか…すさまじいですね…」
戦国時代にはよくある話だったと習った気もするけど、でもそれにしても凄まじいとしか言えない。
自分の身に置き換えることすらできない、理解の範疇を超えた葛藤がそこにはあったと思うのだ。
そんな状態で接する、黒狼王やましてやその腹心だったユージィーンに、心が開けるわけがない。
「幸い、というのかどうかわからないけど、黒狼王が求めたのが彼女の女としての技量や容色じゃなかったのがまだ救いだったのかもしれないわね」
黒狼王が彼女に求めたのはその美しさによる奉仕ではなくて、彼女が持つ貴族社会を生き抜く技量とその情報収集力だった。
「後宮って、ハーレムみたいなものではなかったんですっけ??」
「はー…れむ?」
ハーレムという言葉に聞き覚えがなかったのか、オリガさんが眉をひそめたので私は慌てて言い直す。
「えーと、美人をたくさん呼び寄せて…えーとあの、あれやこれやを楽しんだりする、男の夢的なやつです!」
「ああ。そういう意味ならたしかにそうよ。普通はね。でも黒狼王の後宮はちょっと違ったらしいわ」
彼の後宮は、正しくは正妃のためのものだった、らしい。
黒狼王が正妃として招いたのは、西の大国の娘だった。
彼は、この遠き国より来た妃のために、様々な技能に長けた側妃を招いたらしい。
つまり、彼の後宮はそのまま正妃の教育機関でもあったのだ。
「西の国、ラウルニア神聖帝国には、神に選ばれた娘、というものがいて、その娘は神の言葉の代言者となるの。とても尊ばれている存在なのだけど…」
黒狼王はその、神の娘を正妃にしたいと申し出て、その強い意志に根負けしたかの国から直々に連れ戻った。
「んー…それはあれですかね…自分の王位を正当化するための、パフォーマンスだったのかなあ…」
神に選ばれた娘を妃にする、ってなんだか冒涜のようにも感じるけど。
なんとなく、それって巫女さんを手籠めにする、みたいなことに感じちゃうからな…
そこまで貴重な存在すら我が物にできるというアピールだったんだろうか。
私の疑問に、オリガさんは苦笑した。
「そうね。そうとも言われているわ。この国では黒狼王は忌み嫌われているから」
その言い方にひっかかるものを感じて、私は思わず彼女を見つめた。
亜麻色の髪に、琥珀の瞳は、確かにこの茶色ばかりの国では見かけないもので。
「オリガさんは、この国のヒトではないんですか??」
私の質問にオリガさんは頷く。
「そうなの。元々は西国の生まれなのよ。この国へは…妹の付き添いで来て…」
そして、すこしだけその琥珀の瞳を曇らせた。
「嫁ぐ予定だったのだけど、流行病でね…」
それで結局、私だけこちらにきてしまったの、というオリガさんに、かける言葉がなくて。
ただ、その手をぎゅっと握りしめてしまった。
オリガさんはそんな私の様子に、少しだけ目を見開いたあと、優しく手を握り返してくれた。
「大丈夫。もう昔の話ですもの…でも不思議ね、なんだか貴方を見ていると妹がそばにいるみたいだわ」
ちょっと空気感が似ているのかしらね、と彼女は首をかしげる。
「そういえば、あの子も…」
そして、くすりと思い出したように微笑んだ。
「私にはよくわからない言葉を知っていたものだったわ」
「え…?」
それはどういうことだろう?
思わず、問いかけようとした私の手に、ぎゅっと力がこもった。
「着いたわ」
オリガさんの言葉に、私はいつの間にか眺めが変わっていることに気づいた。
はるかかなたに見えていたはずの王城の入口。
その、どんな巨人用につくったんだといいたくなるほど馬鹿に高い扉が、私たちの目の前にそびえていた。
なんとなく裏口から入るつもりでいたのに、正門に到達していたことに私は思わずオリガさんをうかがった。
私の不安げな目線にきづいたオリガさんは、握りっぱなしだった手を強く握ることで答えてくれながら、迷いのない颯爽とした足どりで入口に立つ兵士の元に歩いていく。
まさか同じ兵士とは思われないのだけど、同じような服装の彼らに、つい撒いたあの二人の護衛を思い出して私はうつむく。
そんな私をさりげなくかくすようにしながら、オリガさんが彼らに声をかける。
「ジャン、フリークス、お仕事お疲れ様」
「オ、オリガ夫人!」
途端にぴしり、と背筋を伸ばす門番たちに、私はどうやらオリガさんの旦那さんが彼らの上司にあたるのだなということを理解する。
慌てる彼らにオリガさんは優しい笑顔を浮かべたまま、なにかいい匂いのするバスケットを差し出した。
「これ、あの人に届けてくれるかしら?シナモンロールが多めにできたから、おすそ分けにきたの」
「そ、それはありがとうございます!隊長も喜ばれます、きっと!」
その言葉にもう一人の兵士が、提案する。
「それなら、夫人が直接お届けになられたほうが、隊長も喜ばれると思いますよ」
「あら?でも悪いわ。きっとお仕事中なんでしょう?」
そっとあからんだ頬に手を当てながら、そうつぶやくオリガに、二人の兵士はそろって首を横にふる。
「ここで、あなたをそのままお帰ししたほうが、隊長に怒られます!」
「最近、家に帰れなくて気が立っていてもう、手におえない…じゃなくてお疲れですので!」
「でも…今日は従妹も一緒で…彼女を一人残すわけにはいかないし…」
「あー、大丈夫です!どうぞご一緒に入られてください!」
「隊長がおられるのは鍛錬場ですから、城内ではありませんし!」
その言葉に、兵士たちがぶんぶんと手をふる。
どこまでもシンクロしているところがおかしい。
よほど、疲れている隊長とやらに手を焼いているらしい。
まあ、私自身彼らから見れば子供ほどの背丈しかない女でしかないわけだから、このまま通したところでどうなるものでもない、ということなんだろうけど。
今はありがたいけど、こんなザルな警備体制でいいのだろうか。
他人事ながら不安になりつつ、これでたすかったというように安堵の吐息をつく二人の男に見送られて。
私とオリガさんは巨大な扉の向こうへ足を踏み入れたのだった。
「…はー…」
扉を抜けた向こう、赤いじゅうたんが敷かれたその部屋の中には、意外なことに街のヒトと思しき、普通の服をきた人々が普通に歩いていた。
なにやら、個室のようになっている部屋に次々に入っていく様は、病院の待合室を思わせる。
豪華さとか重々しさとかは、段違いなんだけども。
警備のザルぶりは、どうやらこの部屋の存在にあったらしい。
興奮しているのか時折おおきな声で叫んでいる人もいたおかげで、私はこの部屋の目的をおぼろげに察することができた。
「だから、俺んちの隣に住んでるおんなが飼っている犬が性悪で、夜中にものすごい声で鳴くんだ!」
「あのですね、それはちょっとここの出来ることとと違うと申しますか…ご近所トラブルまではさすがに出る幕じゃないというか…」
「なんでだよ?!王様に助けてほしいことをお願いするとこなんだろう?!」
うん。あれだ、目安箱ってこのことだったんだね。
相談室、というほうが実態にあってる気もするけど。
仕切られたいくつかの個室の中で、それぞれが相談官に陳情する仕組みになっているみたいだ。
よく考えたら、識字率だって高くないであろう国で目安箱といったらやっぱり口頭になるにきまってる。
私は、まだホカホカとあたたかいシナモンロールを手に、その列のいちばん後ろに並んでいるところだった。
紙袋に包まれているとはいえ、そのイイ匂いに。
並んでいる人がさり気に注目してくるのを感じつつ、素知らぬ顔で順番を待つ。
オリガさんは旦那さんに残りを届けに行く、ということでお別れして一人である。
とりあえず、この部屋に向かってみればなんとかなるだろうという助言と、頑張ってという優しい応援。
そしてお伴は役にたつから、と渡されたシナモンロール一つ。
まさか自分で食べる分ではないだろうから、仕方なく手に持ったままで並んでいる私。
「相談って…相談していいのかな…」
ちょっとお庭で果物を取らせてくださいって王様に陳情したら叶ったり…は、しないだろう。
私はヒルダさんの言葉を思い出す。
手伝うからにはそれ相応の見返りがなくてはならない。
私の手にあるのはシナモンロール。
これを差し出して、これ相応の、相手から引き出せる見返りってどの程度のことだろう。
王宮への不法侵入は、シナモンロールよりも高くつくはずだ。
それならば、その相談官自身に温室の果物を取ってきてもらうのはどうだろう?
その場合、相談官自身が温室に入る権利があるかないかで違うはずだ。
温室の果物を取ること自体が、禁じられている場合はどちらでもアウトなわけだが。
うーん…このシナモンロールにもっと価値がないと…。
そこで私はぽん、と手を打った。
ユージィーンの話を思い出す。
もしかしたら、このシナモンロールで、目的をかなえることが可能かもしれない。
ある限られた条件の、とても狭い範囲の話にはなるけれど。
私は見えない個室の向こうにいる相談官が、とても忙しい人であることを願った。
そして。
ひそかに片思いしている異性がいることを。
シオンは疲れていた。
朝から一方的に贈り付けた娘たちの首尾のほどを探りたい親に追い回されて、逃げ回っていたのだ。
最終的に行き着いたのが、この相談室だった。
ここは彼が最近逃げ場所にしている、お気に入りのところでもあった。
相談室は時に、ご近所トラブルや愚痴のはけ口としても利用されていたが、そういう声も王宮という限られた枠の中にしか生きてこなかったシオンには、興味深い世界であった。
なによりそこに生活があり、彼らのそれを守るために自分は働いているのだと再認識できるうえでも、シオンはこの逃げ場所を気に入っていたのだ。
相談官の身を守るために、相談者と彼らの間には格子と特製のガラスで仕切られている。
これには特製の呪が込められていて、こちらからは彼らが見えるが彼らからは相談官の姿がおぼろげにしか見えないようになっていた。
そのおかげで、相談者たちにとっては自分はただの相談官の一人になれる、というのもシオンは気に入っていた。
王という立場は強大過ぎて、一度背負ってしまえば自分の評価は全てそこに集約されてしまう。
個人としてのシオンを認めてくれるのは、ごくわずかな側近くらいなものだろう。
あとは。
シオンの脳裏にくすんだ金髪と、豪奢なエメラルドの瞳が浮かぶ。
忠誠を誓われたのは、ずいぶん昔の話だ。
あのころは王ですらなかったけれど。
でもあれは、立場に誓われたものではなくて、個人としての自分にささげられた感情なんだと思っていた。
その一途な思いを、自分は眩しくさえ思っていたのだ。
それなのに。
「あー…やめやめ」
シオンは首を振って、物思いを断ち切る。
考えてもしかたない。
どんなに理由をつけても、彼女はここに来ないのだから。
考えを断ち切るために、シオンは目の前の相談者に声をかけた。
茶色の多いこの国ではめずらしい黒い髪と、瞳を持っている少女は少し緊張しているように、椅子にちょこんと座っていた。
その心もとない様子に、なんだか庇護欲をそそられる相手にシオンは思わず声を和らげた。
この小動物みたいな相手を、極力おびえさせないように。
「それで、どんなご相談ですか?」
そんな彼の声にも、小動物はびくんと体を揺らした。
「そ、相談、というかお願いがあるんです…!」
その必死な様子に、シオンは思わず小首を傾げた。
相談者には色々あるが、ここまで必死なのは珍しい。
この国もそれなりに平和になり、ここのところ陳情も穏やかなものが多かっただけに。
「お願いですか?どんなことでしょう?」
いぶかし気になりながらも、声は柔らかくなるように努力する。
彼の友人、クリスが植物たちに話かける声のように。
ひたすらに優しく、頭をなでるようなそんな声を。
その声に後押しされるように、小動物はその黒い瞳をこちらに向けた。
その瞬間、シオンは思わず目を見開いていた。
少女だとおもっていた相手の、予想外に落ち着いた、それでいてどこか濡れたようにひかる黒い瞳に。
「…王宮の温室でとれる、という果物を採ってきていただきたいのです」
一瞬、呑み込まれるように見つめ続けてしまった自分に気づいて、シオンは眉をひそめた。
それをごまかすために、声音が普通の調子に戻ってしまったことに気づかなかったほど、内心は動揺していた。
「理由もなく、王宮のものを持ち出すわけにいかない」
その言葉に相手の顔が輝く。
「ということは、あなたは持ち出すことができるんですね?」
その言葉にシオンは内心舌打ちする。
答え方をまちがえたことに気づいたのだ。
相談官ならそんな権限はない、と断ればよかったのだが。
「…だとしても、やるとは言ってないぞ」
「もちろん、ただでとは言いません」
「…賄賂か?」
相談官を懐柔しようというには、そのお願いは突飛すぎて。
少女のような成りをしているには、ずいぶんとあくどい真似をする。
一体、なにが目的か掴み損ねて、シオンはただ相手を見つめ返す。
その時、空いている小窓からすっと紙袋が差し入れられた。
ふわり、と立ち上るいい香りに思わず鼻をひくつかせて、シオンは思わず赤面した。
「こ、これは…」
思わず動揺するシオンの声に、落ち着き払った相手の声が返ってくる。
「シナモンロールです。果物を取ってきてくれたら差し上げます」
意外な、というか少女の見た目には似合いの賄賂に、シオンは拍子抜けしたような、納得するような不可思議な気持ちに襲われる。
「あのな…」
やはり大人の目をしているが子供だったのか。
大人をからかうなと注意して帰してやろうと、シオンが口を開いたとき。
「ただのシナモンロールじゃありません。ジンジャーブレッドハウスの、シナモンロールです」
「…は…?」
唐突に飛び出した、ヒルダの店の名前に跳ねる心臓を押さえる。
「相談官さまはご存知ですか?このお店の品物を買って、意中の異性と一緒に食べると恋がかなうというジンクスがあるのです。それで成立した恋人は数知れず、主人のヒルダ様は凄腕の仲人として名をはせているほどだそうです」
「な、なんだと…」
シオンは思わず言葉を無くした。
この国を統べる王とは言え、市井レベルの噂話の類までは網羅できない。
そもそも、そんな話をわざわざ王に明かすものなどいない。
だから彼はこの話を初めて耳にしたわけである。
「その話は…本当なのか?」
「風習として根付いている、というのは本当です。このお店のものを贈られたらそれはすなわち、好意の表れである、と言われる位には」
その言葉に、シオンの脳裏に山盛りの菓子が浮かんだ。
昨日の令嬢たちから贈られたそれに、単純に自分が好きだと口走ったからだと思っていたが。
アレは異性へのアプローチの一つだったのか。
シオンは目からうろこが落ちる思いだった。
シオンは思わず、目の前の紙袋に手を伸ばした。
よく見れば確かに紙袋には、ヒルダの店の刻印が押されている。
門前払いはおろか、王家の正式な依頼さえ突っぱねられている自分には、敷居が高すぎる店の。
これを、一緒に食べれば恋がかなう。
その時脳裏をよぎるのは、豪奢なエメラルドを思わせるあの瞳。
鉄壁と呼ばれる金髪の美女の姿。
はっと我に返り、シオンは赤面する。
いや、俺は今何を思っていたんだ?!
俺は断じて、ヒルダに恋をしているわけではない。
王妃だったころのように、内政について彼女に忌憚ない意見を聞かせてもらったり。
一緒にお茶を飲んだり、花を眺めたり。
彼女の手で髪をくしけずられたり。
あの細いけれど、柔らかくてしなやかな腕に抱きしめられたりしたいだけだ。
…いや、後半はちょっと自分でもおかしい気がしてきた。
それは友人としての感覚ではないような。
「相談官様…?」
思考の迷路にてこずっているうちに随分と無言で過ごしていたらしく、不安そうな相手の声で俺ははっと引き戻された。
そうだった。俺は今買収されているところだった。
シナモンロール一つ、されど俺にとってはそれ以上に価値あるもので。
誕生日ケーキにしろ、それほど必要があったわけじゃない。
ああ見えて義理堅い彼女なら。
そういえば、成人の日の記念なら、と祝ってくれるんじゃないかと期待したから。
口実が欲しかっただけだ。
「…ふ」
俺は思わず、笑いをこぼした。
こんな時に気づく自分がおかしかった。
シナモンロール一つで。
もうずっと、会いたくて。
でも、王ではないシオンが拒絶されることが怖くて。
体裁ばかり取り繕っていた。
「…籠に山盛りあればいいのか?その果物とやらは」
そう聞いた彼の声に、目に見えて小動物が喜んだ。
「はい!お願いします」
「ここではなんだから、お前もついてこい」
シオンのその言葉に、小動物が跳ね上がる。
「え?!いいんですか?!ふ、不法侵入でバッサリとか…」
ここまで、大人の輝きを備えていた瞳がアワアワと焦りだすのに、シオンは堪え切れず笑い出した。
「俺がいれば、大丈夫だ」
彼女がもたらしたこの高揚の引き換えとしては、安いものだが。
「ここの温室は美しいぞ。土産話に見て帰るがいい」
その言葉に狼狽えつつ、小動物は頬を紅潮させて頷いた。
「あ、ありがとうございます…!」
その様子に微笑みながら、シオンは紙袋をそっと取り上げた。
まだほのかに温かいそれを大事に抱きしめて。
彼と小動物は相談室を後にした。