発端
「あつい」
「知ってるよ。言うともっと暑くなるからやめろ。」
7月の終わり。普通の学生ならもう夏休みといった時期
俺と、友人のツダは二人とも見事にテストで赤点をとり
絶賛毎日補習中というわけです。
「でも、暑いものは暑いし」とツダが嘆く。
「仕方ないだろ、地軸に文句でも行って来い」
と、つっこみを入れる俺。
さっきからほぼ暑いという話題しか出ていなかった。
ガラガラ
「ちーっす」
開いたドアからぬるい風が入ってくると同時に、もう一人の補習メンバーが到着。
俺は腕時計を見ながら、補習の開始時間から30分遅れてきた「もう一人の補習メンバー」に言った。
「よぉ、相変わらず遅いな」
「夏休みなのに、定時でのこのこ出てくるあんたらの方が私からしたら信じらんなーい」
と、眠そうに話すこいつは同じく俺の友人の明石
小学校時代からの友人で、俺とツダと明石の3人はいつも一緒につるんでいた
いわゆる腐れ縁というやつで。
「あっついわねここ。なんでクーラーないわけ?」
「仕方ないだろ、この学校そんな設備投資するほど金なさそうだし」
相変わらず文句たらたらの明石につっこみを入れる俺。
昔はもっとみんな明るかったというか・・・ポジティブだった気がするなぁ
その後、先生も行ってしまって監視のない教室で真面目に勉強するやつなんて
このメンバーの中にいるはずもなく・・・
明石はイヤホンで音楽、もしくはラジオかなんか聞いてるし。
ツダに至っては漫画読んでるし・・・
めずらしく俺は真面目に課題をしていたが、この二人を横にしていると本当にやる気が失せる。
「ところで、」
突然、イヤホンを外した明石が話を切り出した。
「今日補習終わったら、アイス食べにいかない?」
「いいねー!」
俺もツダもアイスというワードを聞いて、一気に元気になった。
「しかもそれだけじゃないんだよね~」
と、さらに話を続ける明石はカバンから紙切れを持ち出した。
「じゃん!!割引券!」
明石がとりだした紙にはでかでかと10%引きの文字があった。
「さすが明石姉さんぬかりない!!」
すかさずツダがヨイショした。まぁ、半分くらいは本心だろうけど。
「いやぁ~どもども」
と少し明石は気をよくしたらしく、頭をすこし掻いた。
昔から明石はお姉さんという言葉に弱い。
たとえ、言われる相手が俺達でもやっぱりうれしいようだ。
長い長い補習が終わり外に出た俺たちは、3人仲良く背伸びした。
「ああああああ長かった~~」とツダが叫んだ。
「あたしはそうでもなかった気がするなー」と明石
「いや、お前音楽聴いてただけじゃん」と俺が突っ込むと
「たしかに」 と二人とも少し笑った
俺は腕時計を見ながら言った
「11:30かー、アイスもいいんだけどおなか空かない?」
すると明石が
「あたしはアイスでもいいけどね~♪」と一言
昼ごはんがアイスって・・・
するとツダが言った
「やっぱファミレスかどっかでご飯食べてからにしようぜー」
俺もすかさずそれに賛成。
「うーん・・・二人がそういうならそうしよっかな」
明石お姉さんも俺達に賛成してくれたようだ
そして、3人はファミレスへと向かった。
「あっついわね~」
「ほんとあついよな」
「そうだな」
うだるような暑さ。日差しも絶好調の昼間であった。
ファミレスについた俺たちは、窓際の席に座り適当に注文を済ませて雑談をしていた
「おまたせしました」
店員が明石と俺の料理を運んできた
「やっぱ、頭使った後のご飯はおいしいわね!」
と明石が嬉しそうに食べ始めた
お前音楽聴いてただけだろ
「なんで俺の料理だけ来ないんだよ~」
ツダが俺と明石の料理を見ながら、ものほしそうな表情を浮かべている。
お前のそんな顔なんてどこに需要があるというのか。
いや、今の時代わからんか・・・・
「仕方ないだろ、一人だけめんどくさそうなやつたのむからだ」
とつっこみを入れる俺。
「えー、だっておいしそうだったし・・・」
続けてツダは明石にも八つ当たりしだした
「ていうか、明石のソレも結構面倒くさそうな料理なのに!!!」
すると明石は得意げな表情で
「やっぱり美人なお姉さんには、ファミレスの店員さんも弱いのかな~?」
といった。
俺たちはすかさず苦虫をかみつぶしたような
しけた煎餅を食べたときみたいな
中学生の痛々しい日記見た時のような
テレビで素人が・・・ってもういいか
とにかくそんな類の顔をしてやったが、明石は料理に夢中で気づいていなかったようである。
「おまたせしました」
やっとツダの料理が運ばれてきた。
「きたきたー!」
ツダは途端に食レポするタレントのような笑顔に戻り、料理を食べ始めた。
この時からすでに異変は始まっていた。
でもそれはあまりに何気なさすぎて、気づかなかったのだ。




