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微睡み

 それは、夢と呼ぶにはあまりに鮮明だった。


 いつの間にかボクは宮殿に迷い込んでいた。色とりどりの衣装に身を包んだ、そして偉そうな出で立ちをした二本足の竜たちが楽しそうに会話を交わし、優雅に食事をし、平和を謳歌していた。以前、知り合いの王族の子に連れられてパーティに参加したことがあったけれど、まさにあの時の光景にそっくりだった。

 だけど一つ、大きく違ったのはその格好だった。美しい伝統的な衣装は同じだったけれど、頭の上に高さのある羽根つきの帽子を被っている竜ばかりだった。自慢の角や背鰭には独特の模様が描かれていて、鬣を持つ竜はその帽子の脇から出して下ろしていた。今まで見たことのなかったファッションだ。率直に、妙な格好だなあ、とボクは思った。その竜たちと廊下ですれ違うと芳しい香りがした。時々ツンとした匂いが混じっていたので、失礼だとは思いながらも隠れて鼻先を押さえた。

 此処は何処なのだろうと思いながら歩いていると、中庭を見つけた。中庭は花園になっていて、丁度花が見ごろだった。赤や黄色、白、ピンク――鮮やかなそれらは、ボクを笑顔で迎えてくれた。

 見とれていたのは数分ぐらいだったと思う。不意に何処からか歌が聞こえてきてボクはハッとした。その歌声に誘われるように奥へ行くと、大理石で出来たステージのような台座があった。誰かがその上で、ボクに背を向けて立っていた――いや、座っていた。

 一瞬立っているように見えたのは、その身体が随分と大きかったからだ。座っているというのに、宮殿に居た他の竜たちの何倍も大きかった。大きな四つ足の竜が、其処に居た。

 ボクはその姿に圧倒された。勿論その大きさも圧倒された原因の一つだけど、何よりその美しい姿に見惚れてしまった。一つ一つ磨かれた、水中の魚のように輝く青い鱗。頭には透明なベール。そしてそのスラリとした体型。多くは着飾っていなかったけど、子どものボクでも分かった。この竜は絶世の美女だと。

 歌の主は彼女だった。その姿に見合った澄んだ歌声が、物悲しい旋律を奏でていたけど、恐らく中庭の外には聞こえていなかった。誰に聞かせる訳でもなく、宮殿の喧騒とは異なった世界を、この閉じられた空間に創り上げていた。

 歌い終える直前、彼女はふとボクの方を首だけ振り返った。ボクは思わずその場に固まってしまった。固まってしまったボクに彼女は、優しく、そして小さく微笑んだ。そして一言だけ、口にした。




「            」




 ボクの意識は、其処で途絶えた。

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