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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【BL】Come back, came back!

作者: 湊航

「すみません」



そう声をかけられた。


知らない少年からだったから俺にだとは気付かず、そのまま素通りしようとした。



「また僕を飼ってください!」



するとそれを阻まれ、少年にそう懇願されたのだ。


目が点になるとはこういうことだろうか。


俺にそんな覚えはない。


きっと誰かと間違えている。


親切にそれを伝えてあげた方が良いとは思うけど、そうすると悪目立ちそうなので正直関わりたくない。


人として酷いかもしれないけど、今度は意識的に無視して去ろうとした。



「待って。僕だよ、僕は豚狼ぶたろうだよ!」



そんな俺の袖を慌てて掴むと、縋りながら少年は訴えてきた。


その言葉に俺は物凄く驚いた。


実は俺には前世の記憶というものがある。


普通の記憶持ちの人たちの前世はどこぞのファンタジー世界の王様とか神の御使いとかがセオリーだと思う。


けど俺の場合は日本にある養豚場の持ち主の息子だった。


おまけに災害によって死んだからか結構近年に生きていて、まだ生存していたら現世の両親よりも少し年上程度だったりする。


そんな前世が生きていた時のある日、その両親が仕事を覚えさせようと一匹の子供の養豚を俺に与えた。


その意図は聞いていたけど、俺は自分の養豚が持てたことにそれはもう喜んで名前を付けた。


そして大いに可愛がりすぎてしまった養豚を俺は食用として適するまで成長しても手放すことを嫌がった。


勿論、殺されてしまうことがわかっていたからだ。


それを貫き通せるわけもなく、最終的に俺は両親に黙ってその養豚だけを逃がしてしまった。


その養豚こそが豚狼だった。


前世の俺を殴りつけたい程悪いネーミングセンスはこの際気にしないでほしい。


ただ悪かったからこそ、俺の前世以外は付けないであろう酷い名前を知っている少年が豚狼であったことの証拠にもなる。



「僕は一目でご主人様だってわかったのに…」



ところ現実に戻り、少年がそう寂しそうに呟いたのを聞いて胸が痛む。


確かに前世と姿が変わらない俺とは違って豚狼は変わりすぎている。


けど記憶がある分、心まではガラリと変わっていないはずだ。


現に俺がそうなのだ。


それなのに喋ってもわからなかった。



「ごめん、ごめんな…気付けなくて」



俺は少年を、前世の時によくしたように抱き寄せた。


すると少年は俺の鼻に自分の鼻を擦り付けてきた。


これは正しく豚狼の甘え方だ。



「ひょっとしてその癖、直ってないのか?」



俺は懐かしくなってつい前世の時の癖でわしゃわしゃと撫でてしまった。


無論、豚狼よりも柔らかく何倍も長い髪はぐちゃぐちゃだ。



「あ、悪ぃ…」



ばつが悪くなってやんわりと押し離れ、つい下を向いてしまった。


豚狼に嫌われたくないのにこれじゃそうなってもおかしくはない。


俺の中で絶望が渦巻く。



「えへ、ご主人様大好きっ!」



でも予想に反してそう嬉しいことを言ってくれながら少年は飛びついてきた。


豚狼とは違って大きいから俺の身体も多少その勢いでぐらついたが問題ない。


むしろどんどん来い。



「そういえば飼ってくれって言ったけど、具体的にはどうすれば良いんだ?」



まさか人間なのに前世と同じように『飼う』ことができるわけがない。


だから具体的に聞いた。


ま、もしマジでソウイウ趣味があっても頑張るけどな!


少なくとも俺はソッチ側ではないけど、豚狼相手なら何でも活力百倍だ。



「ええっとー、いつも一緒にいて欲しかったり頭ナデナデしてほしかったりするんだけど、駄目?」



そんな俺のヘンタイな心に気付くことなくそうお願いされた。


心なしか上目遣いで目が潤んでいるような気がする。


まさかの俺の願望が見せるビジョンか!?


たとえ願望通りじゃなくても俺のハートにズッキューンと来ないわけがない。


というか絶対来る、断言できる。



「と、友達っつうことだな!勿論、駄目じゃねぇよ。ていうか俺の方から頼みたいくらいだし!!」



あまりにも興奮してしまって鼻血が噴出しそうだ。


けどしたら格好悪い。


豚狼に幻滅されたくないから根性で我慢だ。


ガッツだ、俺。


そして勇気を出して個人的なことを聞き出すんだ!



「あのさ」


「あ、僕、先生に呼ばれてたんだった。ご主人様とお喋りできたからって、嬉しすぎて忘れちゃってた。はうう…悪いコで、ホントごめんなさい」



けど遮られてしまった。


現世の豚狼、少年のことを聞けなくて悲しいけど無理に引き止めるわけにもいかない。


先生に怒られたら可哀想だしな。


だから諦めるしかない。


でもまだまだ機会はあるんだ。


何てったってもう友達だからな!



「全然悪くないって。残念だけど、まっ、またな!」


「ありがとう、またね!」



豚狼はてててと校舎に向かって行ってしまった。


ちなみに俺たちは結局始終周りの注目を浴びていた。


けど知らない奴らの視線なんて何のその。


ハイテンションな俺には通用しなかった。


人生の楽しみが増えた俺は、ウキウキしながら帰っていった。


明日、いや今日から超薔薇色人生だぜ、ひゃっほい!



「ヤベェ、相変わらず可愛いからつい食べちゃいそうになっちゃった。前世の時は豚だったから歯痒い思いをしたしなぁ。けど、人間同士に生まれ変わったってことは良いよね。これは神様の思し召しってやつ?よし、色々ガンガンいっちゃお」



浮かれていた俺は元豚狼が途中で振り返ってそんな物騒なことを呟いていたことを知らない。


だけどそれを思い知るのは、そう遠くない未来だった。


そして俺は叫ぶことになる。


『かむばっく俺の可愛い豚狼』と。


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