次代へ続く無限螺旋
空に広がるのは無数の天体が輝く空。
夜空のようにすら見えるそれは、しかし朝日以上の輝きを以って草原の広がる地上を照らしていた。
永劫回帰――九条煉によって創り上げられた、永続する超越の世界。
世界を管理する世界、神座と成った偉大なる永遠の正午。
そこに、地面を踏み締める足音が響く。
「――来る頃だと思ってたぞ」
背後から響く足音に対し、九条煉は空を見上げながら苦笑を交えてそう口にしていた。
その足音は非常に重く、重量感のあるもの。けれどそんな音など必要とせず、煉は当の昔にその主が誰であるかに気付いていた。
対極であるが故、共感する事はできないが、理解する事は出来る相手。
共に戦場を駆け抜けた、望む未来を手にする理。
「なあ、誠人」
「……ならば、オレが何をしに来たのかも分かっているのだろうな、煉」
そう口にし、男――神代誠人は足を止める。
その声に込められているのは鉄の如く重い響き。
強く、強く、何処までも強固な意思。それは、何事にも揺らがぬ超越者としての信念を体現していた。
そして一つの宇宙の重さに匹敵するその意志を込め、誠人は強く己の言葉を口にする。
「このままでは駄目だ。いずれ、この世界は……無限に連なっているこの宇宙――お前自身が潰されてしまう」
「願ったり叶ったりだろ。俺の理で全ての世界を覆い尽くす訳には行かない」
「故に、全ての世界を託すに足る超越者を待ち続ける、か?」
煉の言わんとしている事を先回りして口にし、誠人は静かに視線を細める。
九条煉と神代誠人は対極の存在――故に、考えている事など当の昔から承知していた。
その上で、誠人は今までその行いを見逃してきていたのだ。
煉の言葉も、決して間違いではなかったのだから。けれど――
「ならば、そんな超越者はいつ現れる? この短い間に、お前の宇宙を脅かさんとする超越者は既に二人も現れた。その内一人は、本当にお前の理を破壊する可能性を持っていたのだぞ?
この先、オレ達の手に入れた勝利を破壊される可能性が無いと……本当にそう言えるのか?」
「言えないな。認めるよ。けどお前だって、全ての魂の為とかそんな大それた事考えている訳じゃないだろ」
そう口にして、煉はようやく振り返る。
銀の髪を揺らし、閉じていた蒼き瞳を開きながら、どこか苦笑するように口元を歪めて。
「お前は単に、気に入らないだけだ。この間の超越者は、お前の妹を、お前の家族を脅かした。今後同じ事が起こらないとも限らない。それは――」
「家族を護る強さを、勝利の結末を手に入れる。ああ、認めよう……オレの願いに反する。認める訳には行かん」
それは、超越者として定めた絶対の価値観。
それが揺らぐ事は決してなく、それを破ろうとするものを決して赦さない。
故にこそ、誠人は己が友に刃を向ける事を躊躇ってはいなかった。
しかし、目の前の相手を誠人自身が『家族』と認識している事もまた事実――
――故に、誠人はその言葉を口にする。
「煉。世界の全てを、お前の理で塗り潰せ」
「無理だ、分かっているだろう。俺の理は――」
「拒絶と排他。己が必要とするもの以外を総て排除する絶対者の選り分け。ああ、分かっているさ……だからこそ言っているんだ――腑抜けるなよ、煉」
その一言で、煉の口元に浮かんでいた笑みは消えた。
それと共に広がる強大なまでの重圧。それは、超越者を統べる絶対者として君臨する者が持つ、神威とすら呼べるものだった。
しかし、超越者ですら呼吸すらままならなくなるであろうそれを真っ向から受け止め、誠人は変わらぬ様子で口を開く。
「やってみなければ分からない。全ての存在を必要だと判断すれば、お前の理は強固な治世を生み出すだろう」
「詭弁だし、机上の空論だ。そんなモノに頼れると、本気で思っているのか?」
「ああ、思っているさ――それを分からせる為に、ここに来た」
刹那、煉のそれに匹敵するほどの強大な気配が、誠人の魂より放たれた。
二つの力、二つの理より僅かに漏れ出したその一部は、ただそれだけで人の魂を磨り潰すほどの重圧を以って空間を支配する。
異なる二つの気配の中心は強大な力がせめぎ合い、空間を歪ませ弾けさせている。
二つの意見は平行線。交じり合う点など存在しない。
結局、その理を以って相手の理を屈服させる以外の方法など、何処にも存在していなかった。
「……お前が戦いを挑む意味、それがどういう事なのかはよく分かってる。故に――本気で潰すぞ、誠人」
「やってみろ……オレの勝利は、唯一無二の未来は揺らがない」
二人は互いにそう宣言し――そして、荒れ狂っていた二つの力は、瞬時に彼らの手元へと集束した。
指向性を持たなかった筈のそれは集束し、凝縮され、その破滅的な力の密度を高めてゆく。
それは輝きにすら変わり――そこに、形を成した。
「来い……背信者ッ!」
「往くぞ……霞之宮景禎・天津ッ!」
その宣言と共に現れるのは、銀の双銃と長大な大太刀。
彼らが長き戦場を共に渡り歩いてきた、己が半身とすら呼べる最強の武器。
その発現により、荒れ狂っていた力は更に密度を変えた。
最早その圧力のみで人の身を砕き、その輝きを目にすれば魂すらも焼き尽くされる。
神器とすら呼べるそれらを十全に使いこなせる使い手が二人。
彼らはその破滅的な力を前にしながら、しかし微風程度にすらその圧力を感じていなかった。
――そして、二人の身は弾けるように距離を開ける。
『超越――――!』
この場は元より、二人の理を内包した世界。
故に、その理を展開するのに、世界に対する恨み言など必要無い。
二人は、最初から己が最大限の力を発することが出来る環境を創り上げようと、自分の宇宙にして自分の存在そのものの名を口にした。
「――《拒絶:絶対の選別》ッ!!」
「――《未来選別:万象の観測所》ッ!!」
その叫びと共に、二つの世界が、二つの宇宙が、二つの理が顕現する。
片や、天に黒陽を抱く焼き尽くされた焦熱の世界。
片や、その山の頂に天文台を掲げる観測者の世界。
理はどちらも強力無比、並みの理では瞬く間に押し潰され、消滅するであろう最強の神威。
けれど二人は互いに互いの力で鬩ぎ合いながら、その強大なる理を維持し続けていた。
「――於其嶋天降而見立天之御柱見立八尋殿」
けれどそれでは足りないと、誠人は更なる祝詞をそこに紡ぐ。
長大なる刀身を昇るのは、光と闇の二重螺旋。
けれど、それを黙って見過ごす煉ではなかった。
「魔弾よ」
その蒼き瞳が誠人を射抜く。
それと同時に周囲の大地から銀の炎が吹き荒れ、その空中に幾千もの弾丸を創り上げていた。
銀焔で創り上げられた魔弾は、その一つ一つが宇宙一つを焼き尽くして余りある力と熱量を誇っている。
以前までの神代誠人であるならば、それを防ぐ手段など存在しないと――それを理解して、煉は無数の魔弾を一斉に射出した。
煉の放つ魔弾に距離や速度、時間の概念は存在しない。放たれれば当たる絶対命中の魔弾の射手。
その弾丸は防御するか、異なる理で包み込んで相殺する以外に防ぐ手立ては存在しない。
誠人が選んだのは、後者であった。
「神剣――天之御柱」
誠人の刃より、無色透明な輝きが放たれる。
そしてそれと共に刃は振り抜かれ――その刹那の内に、那由他に連なる斬撃の嵐へと化していた。
誠人の超越の力は、可能性の先にある結果の召喚。
未来に存在する『誠人が刃を振るった可能性』は、総てその結果のみが召喚され、二つの世界を無限の剣閃で満たしていた。
そして、神産みの祝詞により創り上げられた創世の刃は、宇宙一つを断ち切るに足る強大な力を誇っている。
「おおおおおッ!!」
誠人の放つ斬撃は煉の魔弾を余す事無く斬り裂き、そして掠り傷一つすら致死へと至る呪いを纏って煉の身へと襲い掛かる。
その刃が届く刹那、煉はただ歓喜に口元を歪めていた。
「――流石、本気でやるに値するよ、お前は」
否――それは最早、刹那というには長すぎる時間。
煉がそんな悠長な言葉を発することが出来たのは他でも無い、誠人の斬撃が全てその動きを止めてしまっていたからだ。
それはまるで、時間が止まったかのように。
超越――《加速:刹那の永劫》
超越――《静止:静死の月匣》
フリズ・シェールバイトと水淵蓮花の持つ、停止と束縛の理。
時間と概念という二つの縛鎖が、斬撃の嵐を縛り付けていたのだ。
そしてその無数の刃達は、完全にその動きを止めた瞬間に、余す事無く銀の炎に焼き尽くされる。
苦い表情でその光景を見つめる誠人に、煉はただ降り注ぐ火の粉の中、笑みすら浮かべながら告げていた。
「だから、ここからが本番だ。勝てる勝負しかしないお前の覚悟、見せてみろよ!」
――そして、白銀の灼熱が燃え上がった。
その炎は九条煉の力そのもの。常に宇宙一つ焼き尽くすだけの熱量で包まれた世界で、尚激しく燃え上がる破滅。
それが、煉の号令と共に一斉に誠人へと向けて殺到した。
九条煉の力は総合的に高く、尚且つ攻撃力という点では他の力全てを圧倒する。
防ごうとした所で、今の誠人には防ぎ切れる筈も無いのだ。
故に――それを防ぐならば、他の力が必要となる。
「フリズと蓮花の理は、確かにお前に賛同し易いだろうな。だが――」
途方も無く低い確率。
限りなく0に近いであろうそれ。しかし、それが本当に0で無いのならば――神代誠人の理は、それを100へと押し上げる。
「――力を貸せ、桜、いづな!」
――刹那、煉から弾き出された二つの理が、誠人の元へと飛来し、その内へと同化した。
己から力の一部を奪い取るという所業。本来ならばありえないとしか言いようの無いそれに、煉は思わず驚愕に目を見開く。
その動揺は銀の炎を僅かに鈍らせ、誠人に『回避の可能性』を与えていた。
そしてその可能性があるのならば、誠人に失敗するという結末は存在しない。
炎の合間を縫って駆け抜けるその身を、背後から伸びた影と紙束が、追いかけるようにして巻きついていった。
超越――《魂魄:魂喰らいの月蝕門》
超越――《記憶:千の疑問に解答する者》
雛織桜と霞之宮いづなが創り上げた、超越者としての理。
他者の理を己の内側に取り込むという事は、本来煉にしか――否、ミーナリアの力が無ければ煉にすら難しい芸当だ。
だが、不可能ではない。それはつまり、誠人にとっては100%可能であると言う事だ。
そして現れたのは、煉と同化する事によって無数の世界へと支配領域を広げていた桜といづなの理。
それによる恩恵を多く受けているのは、間違いなく全ての魂を操る桜の超越であろう。
操る魂の量は最早数え切れない程であり、今やその全てが誠人と同化しようとしていた。
「我に依りし罪穢の御魂に、禊祓の神業を以って成し給へと、恐み畏みも白す!」
誠人の口より零れ落ちるのは、穢れを祓おうとする禊ぎの祝詞。
それにより、その身に纏わりついていた影――桜の支配する魂達は、漆黒のカタチを純白のそれに変えてゆく。
形成されるのは純白の鎧。誠人の纏う白銀の鎧よりも尚輝き、宿す力は無限の宇宙に匹敵するものと化している。
その姿を見据え――煉は、ただ歓喜の笑みで口元を歪めていた。
「ハハハハッ! やっぱりお前だけだ、俺を倒せる可能性なんてのはな!」
煉の言葉は、現時点において紛れも無い事実であった。
何故なら、煉から桜やいづなの理を引き剥がして自分の力に出来る存在など、神代誠人以外に存在しないからだ。
桜の理は、煉にとっての防御機能。そしていづなの理は、煉にとっての判断基準。
それを奪われれば、弱体化する事は防げないのだ。
故にこそ、煉は確かな戦慄と共に、己の理を強化しての一撃を撃ち放っていた。
絶対に避けさせない、絶対に防がせない、絶対命中にして絶対必殺――理不尽なまでに強大な理が、炎の鉄槌となって顕現する。
対し――
「――布留部 由良由良止 布留部」
――誠人が謳い上げたのは、そんな祝詞であった。
そしてそれと共に、誠人を覆う純白の鎧が、脈動と共に輝きを放つ。
その祝詞は、死者すら蘇らせると伝えられる強大な詩。
いづなの理によって方法を調べ上げられ、誠人の理によってその可能性を押し上げられた桜の理。
その力は――
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
灼熱に焼かれながらも、誠人の身を見事護り切って見せていた。
そして、刃が絶対なる存在を刀圏に捉える。
神速で放たれた無拍子、煉とは異なる回避不能の一撃は、彼の首筋を確かに捉え――
「――だが、防御固めただけじゃ届かないぜ?」
「ッ……!」
その身に触れる直前に、不可視の壁によって受け止められていた。
桜の理をその身から引き剥がされ、防御能力が激減している今の煉――しかしその状態ですら、誠人の刃は彼の身体に届いていなかったのだ。
最高位と名高い《拒絶》の理は、単体でも他を圧倒するだけの力を誇っている。
ならばどうすれば攻撃を通す事が出来るのか――誠人がいづなの力を用いてその答えを探ろうとした刹那、目の前にいた筈の煉の姿は消滅していた。
「な、ぐ――ッ!?」
それと共に腹部へと走る巨大な衝撃。
溜まらず呻き声を零しながら、誠人は大きく弾き飛ばされていた。
強烈な威力は、そこに灼熱を伴わないただの打撃である事を誠人に理解させる。
そして同時に、煉が一体何をしたのかも理解していた。
「ああ、遅い。止まって見えるぞ」
超越者の身体能力ならば、音速などは大した問題ではない。
だが、それを遥かに超えた速度。それは正しく、フリズ・シェールバイトの持つ停止と加速の理だった。
他の全てを時間の縛鎖で縛り、かつ自分は永遠に加速し続ける理不尽。
塗り替えられたこの理の中に、速さの限界などというものは存在しない。
つまりそれは、文字通り無限の加速。何者にも追いつけない、正しく最速の理であった。
降り注ぐ拳打と魔弾。
それら一つ一つが確かな攻撃であり――鎧がなければ、誠人の身は当に粉砕されていただろう。
だが、ダメージは蓄積してゆく。そして、もしも煉が全力の力を放てば、今度こそ無傷ではいられまい。
故に――
「づ、がァ……《精霊変成》……ッ!!」
誠人は、新たな力を発動させる。
それは桜の持つ肯定創出の力。
自信を物理的には存在しない精霊へと変化させる強力無比な能力だ。
しかし、物理攻撃も魔力も完全透過するその身ですら、煉の攻撃をすり抜ける事など叶わない。
今はただ、己の限界速度まで達する他無いのだ。
(拘束は効かない……煉に直接干渉能力など無効化されるだけだ)
光の精霊と化した誠人の力は、文字通り光速。
しかし、その速度すら超えて、煉は加速し続けてゆく。
手数が圧倒的に足りない。未来の可能性を召喚した所で、通じないのであれば同じ事だ。
煉の下に《加速》と《静止》の理がある以上、誠人に速度でのアドバンテージを取る方法は無い。
(防御力では勝っている……が、今の攻撃力では攻撃も通じない)
防ぎ、いなし、稀に可能性を操作する事によって躱す。
時間の概念すら置き去りにしたその世界の中で――神代誠人は、一つの決断を下した。
(奴に通じる刃――それが無ければ、何も始まらない)
だからこそ、力を束ねているだけでは駄目なのだ。
もっと鋭く、もっと純粋に、もっともっと、ただ一点へと集束して――
「っ――はっ、はははははははッ!!」
――その意味に気付いた時、誠人は歓喜の咆哮を発していた。
己の性質、己の在り方、そして己の向かうべき場所がそれであるならば、『勝利』は疑うべくも無いからだ。
ならば後は、そこに向けて邁進するのみ。その方法も、いづなの理を取り込んだ今ならば、疑問を抱く事すらない。
故に誠人は、己の従える精霊の一柱を呼んだ。
「鹿屋野比売神」
「――っ!」
刹那、地上の数千倍に値する重力が周囲を埋め尽くした。
黒く、暗く引きずり込もうとする重力球。いかに煉が何よりも速く移動する事を可能としていたとしても、空間に満ちる力までは避けられない。
光すらも飲み込む超重力、存在するあらゆるエネルギーを吸収して封滅するブラックホール。
その重力の軛に足を取られ、動きを鈍らせた彼を、誠人は遂に視認した。
けれど、ここで終わりはしない。目指すべき遥か高みに比べれば、この程度は児戯でしかないのだから。
「志那都比古神」
風が逆巻く。
鉄すら引き千切るほどの強大な暴風は重力の届かぬ更なる広範囲を押さえ込み、足を引かれながら尚高速で移動を続ける煉の体を風の鎖で繋ぎ止める。
自身を捕らえる二つの縛鎖に対し、煉はただ、歓喜と共に炎を発する。
「この程度で、捕らえられると思うなッ!」
発するのは銀の炎。
万物を拒絶する意志そのものである炎は、身体を縛り付ける重力と風の枷を焼き尽くし、尚且つ放射状に広がりながら誠人へと殺到する。
対し、誠人が呼ぶのは更なる名前。
「火之迦具土神」
そして銀の炎を迎撃するのは、赫焉と燃える灼熱の焔であった。
それは太陽に匹敵する――否、それ以上の熱量を誇る炎。しかし煉からしてみれば、それは燐寸の火にも等しいものだ。
煉のものとは性質も、その規模も違う。到底届くはずも無いその熱量。
しかし、それでも尚、誠人は名を叫ぶ事を止めなかった。
「弥都波能売神、建御雷之男神」
炎が炎を抑えているほんの刹那の隙。
その瞬間に放たれたのは、海の水を解き放ったかの如き膨大な大瀑布と、それに乗りながら駆ける無数の雷であった。
二種の力は前方を覆う炎を僅かながらにこじ開け、道を作り出す。
しかしその場は以前灼熱の熱量が残る煉獄。ただで通り抜ける事など出来はしない。
――故に。
「闘鶏稲置大山主命」
誠人の周囲を、強固な氷の外殻が覆う。
それを纏い駆ける誠人は――刹那、背筋に粟立つ感覚を覚えた。
首筋に刃が触れているような、巨大な顎を目の前にしているような、決死の感覚。
同時、理解する。自分が向かう先、瞬きの間すらなく刹那にすら満たない内に辿り着くであろうその場所――そこで、煉が銃口を向けていたのだ。
「回帰――《拒絶:因果反転》」
無限に連なる世界すら、一撃の内に食い破る《拒絶》の弾丸。
回避は不可能。そして受ければ決死。因果律を捻じ曲げ、当たらない事と滅ばない事を強く拒絶された弾丸。
それを防ぐには、己が理で弾丸を包み、その上で迎撃する以外に道は無い。
しかし、それはあらゆる可能性を束ねる誠人をして、不可能に近いと言わざるを得ない神業であった。
それでも――
「伊邪那岐命、伊邪那美命」
――それを潜り抜けなければ、勝利など在り得ないのだ。
纏う力は光と闇、父母神たる名を与えられた二柱の力をただその刃に混在させる。
生み出される力は超越と同種のエネルギー、即ち正の側に属する力であり、誠人は無限に生み出されるそれら全てを己が世界に燃料として注ぎ込む。
そして限界まで高められた理で、誠人は確かに、迫り来る銀の弾丸を視認した。
「おおおおおおおッ!!」
振り下ろされる全身全霊の一閃。
宙すら分かつその一太刀は――煉の弾丸を正確に捉え、両断した。
瞬間、澄んだ音と共に強大な力が弾け、魔力の奔流となって周囲の全てを吹き散らす。
そして数瞬後、二つの世界が押し合うその場に、一時の静寂が訪れた。
「本当に、ここまでやるとはな」
「同じ舞台に立たねば、戦う事など出来はしない。だが、同じ舞台ではお前を上回る事など不可能だ」
振るうごとに神威を増して行っている刃を下ろし、誠人は視線の先に立つ煉を見据える。
煉の放つ至高の一撃に遂に届いたとは言え、未だ神代誠人の立っている場所では、相手の身に刃を届かせる事はできない。
あらゆる可能性を束ねる誠人だからこそ、それが100%不可能である事を理解出来ていた。
だが――
「だが、ここまで来た。これでようやく、お前に示してやれる」
「何……?」
「お前の性質、お前の本質……オレの性質を示し、そして対極であるお前の性質を理解させてやる。オレとお前は対の存在だ。だから――オレのこの在り方こそが、お前が全てを支配するべき存在であると示している!」
条件は整ったと、誠人は告げる。
それと共に莫大な力が集束し始めた先は、彼の構える刀――その鍔に嵌っている九つの球体へと向けてだった。
そこに宿っているのは八種の精霊と、そして一人の超越者の霊。
彼女の力を確かに感じ取り、誠人は口元に小さく苦笑を零す。
「悪いな、椿……最後まで、付き合って貰う」
『いいさ――ワタシ達の、未来の為だ』
穏やかに、普段通りに笑うその声へ、まるで応えるように――誠人は高らかに宣言した。
「――《極点集束》ッ!」
「な……!?」
瞬間――誠人の刀に填まっていた九つの球体が、全て砕け散っていた。
破壊された訳ではない。それを見ていた煉は、すぐさまそれを理解する。
吸収したのだ。それらの力の全てが、神代誠人という神格に飲み込まれてゆく。
否――それだけではない。誠人がそれらを飲み込んだ瞬間、彼の放つ力が爆発的に高まったのだ。
――煉ですら、息を飲むほどの圧力と共に。
「誠人、お前は……」
「分かるだろう、煉。この力が、一体何なのか」
《未来選別》ではない。放たれる力の量も性質も、全く異なっている。
そして彼から放たれる力が何であるかは、他でもない煉自身が最もよく知っていた。
何故ならそれは――
「俺の力……どういう事だ、俺の力は減衰していない! なのに、どうしてお前もそれを使える!」
「目を逸らすな、分かっているだろう!」
叫ぶ誠人の言葉に、煉は奥噛みする。
分かっている、理解しているのだ。何故なら神代誠人は、九条煉の対極の存在だから。
彼が示した性質は、即ち煉の性質の真逆なのだ。
「オレはお前という世界の一部だ、煉。お前の概念の中に存在する刃だ」
言って、誠人は駆ける。
その構えられた刃の見た目は、先ほどと変わらない。
けれど――それは確かに己を害する刃になると、煉は確信していた。
故にこそ更なる加速と共に、煉は銃口を向けつつ駆ける。
放たれる魔弾は、全てが一撃必殺。けれど――
「お前が総体ならば、オレは極点。お前という世界の、宇宙の、概念の、その全ての力が集束する一点だ!」
それらは全て、放たれた可能性の刃によって迎撃される。
降り注ぐ魔弾は全てが超越者を滅ぼして余りある一撃であったが、事ここに至り、誠人の力もその領域に達していた。
それを見据え、煉は苦々しく口にする。
「お前が集束するなら、俺は拡散しろと? そうして全てを飲み込めと? そうした先がどうなるかぐらい、お前は分かっているだろうが!」
拒絶と排他の理は、煉が必要であると考えた存在以外は全てを消し去ってしまう。
そんな事で全てを滅ぼしてしまう事など己は望まないのだと、煉はそう言い放つ。
けれど誠人は、その言葉を耳にして唇を歪めていた。
「らしくないな、煉。お前はそんな、見ず知らずの人間の事情など気にする男ではなかっただろう!」
「な――」
僅かに、拒絶の理が揺らぐ。
その瞬間に、誠人は一歩煉の元へと踏み込んでいた。
距離も時間も関係ない、その僅かな隙と可能性さえあれば、誠人はどこにでも存在し得る。
そうして放たれる突きは、確かに煉の纏う拒絶の鎧を貫くだけの力を持っていた。
その切っ先を認め、煉は歯を食いしばる。
(一撃は貰うか。だが、この距離で剣を押さえられれば――)
己を貫かせ、カウンターで仕留める。
甚大なダメージを負う事を覚悟して、確実なる勝利を収めようと見定め――背筋に、冷たい感覚が走るのを感じた。
「ッ、ァアアアアアッ!!」
獣の咆哮もかくやと言うほどに叫び、煉は身をよじる。
貫かれてはならないと、魂がそう叫んでいたのだ。己の身の危険がどうといった問題ではない。
ただ、それだけはさせてはならないと――煉は、それのみを考えて必死に身体を捻っていた。
飛び込んできた切っ先が僅かに胸を抉り、その切っ先が完全に沈む前に、胸を裂かれながらも無理矢理に体の向きを変える。
恐ろしいほど鋭い刃は、まるで風を斬るかのように煉の体を大きく裂き――そして、突き抜ける。
そして続けざまに放たれた首を狙う横薙ぎを背信者の銃身で受け止め、煉は大きく荒い息を吐いた。
「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「お前がどうしてそれを気にするのか……そして、どうして今オレの一撃を必死に躱そうとしたのか……お前は本当に分からないのか」
再生の遅い胸の傷を押さえる事すら忘れ、煉は息を荒げながら目を見開く。
分からない事に驚いていたのではない。それを今の今まで忘れてしまっていた自分に気がついたためだ。
触れてもいない胸の傷に、手が添えられている感覚がある。
ずっと、彼女はそこにいた筈なのに。
「俺は……」
「お前にとって愛する事とは何だ、煉。遍く存在を愛せないというのなら、まずお前の思う愛とは何だ」
「愛する、ものは……俺にとって、身体の一部に等しいものだ……」
だからこそ、誠人は煉の力を集束する事ができた。
煉が必要だと思ったものは全て、煉にとって己の一部であると感じていたから。
身内には甘い。それを否定する事はできないだろう。
何故なら、煉が思い悩んでいたのは――
「ならば、お前の愛する人間が、お前の魂の一部である者たちが愛するものをどうするのか――そればかり悩んでいたんだろう、お前は」
人間は、一人きりで生きている存在ではない。
関係は無限に連なり、そして世界を覆ってゆく。
そのどこまでを愛せばいいのか、煉にはそれが分からなかったのだ。
どうすれば、愛しい仲間たちを悲しませないのか。どうすれば、この美しき楽園を傷つけずに護る事が出来るのか。
超越者が己を曲げる事など出来ない。必要の無いものは必要無い。九条煉はそんな存在であるが故に――
「なら俺は、どうすればいいんだ……ッ! 俺が、俺の理を崩す訳には行かない。これは俺の力だ! これがあったからこそ、この形だったからこそ、俺たちはこの楽園を手にする事ができた! 俺は、弱くなる訳にはいかないんだ!」
「本当に……身内には甘い奴だな、お前は。なあ、煉」
誠人は、突きつけていた刀を下ろす。
その瞳に浮かべられているのは、決して敵意のようなものではなかった。
そもそも、この戦いの中で、誠人は一度として煉に対して敵意などは抱いていない。
「確かに、オレたちはお前を補うには足りない存在だ。それぐらいは理解している……全てにおいてお前と同調できるわけではない以上、お前の拒絶の力はオレたちにも適応される。だが……一人だけ、お前を助けられる存在がいるだろう」
「――そうだよ、レン」
声が、響く。
どうして必死に捜し求めていたのか、どうして必死にあの攻撃を避けようとしたのか――その答えが、煉の背中にあった。
彼の身体を抱きしめるように、背中からそっと腕を回している少女。
ミーナリアの姿が、ずっとそこに在ったのだから。当たり前すぎて知覚出来なかったとしても、ずっとそこにいたのだから。
「ミナ……」
愛する事が当たり前すぎて――煉にとって、ミーナリアは己が半身に等しい存在だった。
同時、煉は理解する。自分は、彼女を悲しませないために、全てを犠牲にしない方法を探していたのだと。
ミーナリアを愛する事は煉にとって当然の事であり、そこまで行き着く事が出来なかったのだ。
そうして思えば思うほど、必要な答えから遠ざかっていた事を自覚する。
けれど、どうすればよいのかも分からなくて――
「だいじょうぶ」
「ミナ……?」
「二人なら、きっと出来るよ。レンは、わたしを余さず愛してくれるから」
その言葉に、煉は目を見開く。
九条煉という世界の理に、完膚無きにまで適応できる存在は、ミーナリア・フォン・フォールハウトただ一人。
彼女の口にしている言葉は事実そのものであった。
そして、それ故に――
「わたしが皆を愛するから……レンが愛する事のできない人たちまで。だからレンは、そんなわたしを愛してほしい……一つ余さず、総てを」
たった一つ――それこそが、必要な答えだったのだ。
それを認め、誠人はその場から大きく飛び離れる。
これより始まる力の胎動に対応できる、強い力を創り上げる為に。
ミーナリアは煉の背中から降り、そっとその手で彼の両頬に触れる。
どこまでも優しい慈母のような表情に、煉はようやく、一つの答えを見出した。
「ああ、そうか……簡単な事だったんだな」
不必要な人間なんて愛せない。九条煉はそれほどまでに壊れた存在であったから。
けれどそれ故に、ミーナリアを愛するというただ一点において、煉はどのような存在よりも優れていた。
煉にとって、ミーナリアは誰よりも何よりも、この世で最も必要な存在だったから。
そんな単純な事にも気付けなかった自分に苦笑し、そしてミーナリアを抱き寄せながら煉は曲げていた身体を起こす。
その視線の先には、誠人が悠然と佇んでいる。
「……世話をかけちまったな、誠人」
「ああ、全くだ」
「けど、付いてきてくれるんだろう?」
「そうだな……損な性分だ。だが、悪い気はしないさ」
言い放ち、二人は互いに笑みを零す。
対極であるが故に、最大の敵であり最高の友である二人は――高らかに、宣言する。
「お前の諫言、感謝する。だから、お前は俺と共に来い、誠人! お前だけは、俺と対等な存在で居続けろ!」
「いいだろう……さあ見せてみろ、煉! お前の力を、お前の本当の理を! オレがそれを見届けてやる!」
魂が脈動する。
世界を覆い尽くす理を、それに相応しい力を創造する為に。
二つの祝詞が、響き渡る。
「 Nature immense, impénétrable et fière,
自然よ、誇り高く巨大で測り知れぬ万象よ
Toi seule donnes trêve à mon ennui sans fin.
お前だけがこの終わりなき渇望を満たす
Sur ton sein tout-puissant je sens moins ma misère,
お前だけが我が傷ついた総てを癒す 」
初めに響き渡るのは煉の祈り。
他でもない、ミーナリアへと向けて語られる愛の唄。
彼女が総てを愛するならば、それこそが煉にとっての世界の総てなのだから。
「一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 百 千 万 八百万 然すらば出でよ造化の理
古天地未だ剖れず、陰・陽、分かれざりしときに、渾沌たること鷄の子の如くして、溟涬に牙を含めり」
対し、誠人が謳い上げる祝詞はまるで忠臣であるかのように。
二人が総てを包むのであれば、誠人がそれら総てを集め、護る刃となる。
その刃の護る場所こそが、二人の座すべき場所なのだと。
「 Je retrouve ma force, et je crois vivre enfin.
この力は甦り、満たされた命の価値を知る
Oui, soufflez, ouragans! Criez, forêts profondes!
故に嵐よ吹き荒べ 深淵なる森よ、葉擦れの音を響かせよ
Croulez, rochers! Torrents, précipitez vos ondes!
強き流れよ、森羅の総てよ、その身を飲み込み我が身と成せ 」
煉の言葉は続く。
ミーナリアの総てを愛し尽くす為。彼女の総てが、己のものであるようにと。
子供じみた独占欲、そこから始まった願いは今、一つの形を成そうと唸りを上げる。
「其れ清く陽なるは、薄靡きて天と爲り、重く濁れるは、淹滞いて地と爲るに及びて、
精しく妙なるが合えるは摶り易く、重く濁れるが凝るは竭り難し」
そしてそれに対抗するかのごとく、誠人の祝詞にも強大な力が宿る。
九条煉という宇宙の極点、その力の総てが集束する場所。
即ち、煉の力が増すほどに、誠人の力も増すのだから。
その総てを制御する為には、今のままでは足りない。それ故に――己が身を、遥か高みの領域へと押し上げて行く。
「 À vos bruits souverains ma voix aime à s'unir.
貴方の至宝の福音に、唱和することの喜びよ
Forêts, rochers, torrents, je vous adore! Mondes
貴方の包む森羅の総て 貴方たちを愛しましょう
Qui scintillez, vers vous s'élance le désir
輝ける偉大な世界、わたしは貴方を片時も見逃さないから 」
そして、競い合うようにミーナリアが唱和する。
己が最も愛する少年の為に。そして、彼と一つになる事の出来る喜びに身を震わせながら。
その姿は、在るべき力を成すために、徐々に変貌してゆく。
背中の中ほどまでしかなかった髪は、足首に届くほどまでに長く伸び、そして瞳と同じ黄金に染まる。
その姿は、かつての《読心》の持ち主によく似ていた。
身に纏うローブすら白くゆったりとしたドレスに変わり、ミーナリアはゆっくりと黄金の眼を開く。
「時に、天地初めて判るるときに物有り。葦牙の若くして空中に生る。
造化、別天津、神世七代と連なりて、集い響き渡れ開闢の調べ」
続く誠人の姿もまた、徐々に変貌を重ねてゆく。
人造人間として蒼く染まっていた髪と瞳、それが黒く染め上げられてゆく。
それは、神代誠人が本来持っていた色。魂に刻まれていた、神代誠人のあるべき姿。
白く染まる甲冑もまた、その集束の理に導かれて彼の魂に飲み込まれ、それと共に変貌して再び現れる。
中央に輝く宝玉は、森羅万象の総てを集め、浄化するかのような輝きを放つ。
「 D'un cœur trop vaste et d’une âme altérée
どうか共に―――無限に広がり続ける私たちの魂は、
D'un bonheur qui la fuit.
終わりなき至福を求め廻り続けるのだから 」
そして二人の変貌を受け、ミーナリアの祈りを聞きながら、煉の姿も変化してゆく。
黒い外套と、手足に現れる銀の装甲。そして白銀狼の加護として得ていた蒼い瞳は、その髪と同じく白銀に染まる。
白いドレスを身に纏うミーナリアが黄金の女神ならば、黒と銀を纏う煉の姿は白銀の魔王。
神々しき二つの神威が、今ここに顕現する。
「諸の枉事、罪、穢れを祓ひ給へ清め給へと申す事の由を、天津神国津神八百万の神等共に
天の斑駒の耳振り立てて聞食せと 恐み恐み白す!」
そして黒白の姿を持つ斬神は、己が一部となった刃を振るい、二人の視線を見つめ返す。
創世の力を確かに見届け、それを護り通す事を己が魂に誓い――その形を今、ここに成す。
『超越――――』
「超越……ッ!」
無限に広がる螺旋の愛、それらの総てを極点に集束させる神代の剣。
二つの新たな理が、その産声を上げる。
『――――《無限螺旋:至宝福音・森羅万象》』
「――――《極点集束:高天原・天之常立》」
――そして、三柱の神威が完成した。
黄金と白銀を纏う螺旋と、黒白に集束する極点。
超越者という括りにすら収まりきらない、圧倒的なまでの力の総量。
そしてそれは、今この瞬間にも増大し続けている。
無限螺旋とはそういう理だ。常に互いを愛し、肥大化し続ける。一つの宇宙を埋め尽くせば、その上の領域にまで。
そんな理を体現した煉は、ゆっくりと眼を開きその視線を誠人へと向ける。
「……ありがとう、誠人」
「礼には及ばんさ。これは、オレの為でもある」
その視線に力が込められれば、それだけで宇宙の一つなど消し飛ぶだろう。
けれどどこまでも穏やかに、煉は笑みを浮かべていた。
「生憎、俺たち本体が戻る訳には行かないようだが……いずれ、何とかするさ。それまでは、お前の作ってくれた場所で大人しくしていよう」
「……済まんな」
「いいさ、お前たちなら会いに来れる。それに、ミナがいるからな」
ミーナリアを抱き寄せながら、煉は苦笑を零す。
二人はこの宇宙そのものであり、その総体そのものが二人であるといっても過言ではない。
故に、元いた場所に戻るには、二人の存在はあまりにも強大すぎるのだ。
だからこそ――
「また会おう、誠人。それまでは、しばしの別れだ」
「ああ……あまり、時間を掛けるなよ」
「俺たちに、時間なんてものはあって無いような物だけどな。まあ、善処するよ」
「マサトも、気をつけて」
そんな言葉を告げ、二人の姿はゆっくりと薄れてゆく。
二人の座す場所は、誠人の作り上げた神々の領域、高天原。
そこへと至る扉の鍵を握りながら、誠人は消えてゆく二人の姿をしっかりと眼に焼き付けていた。
「……さあ、ここからが始まりだ」
小さく呟く言葉は、何も無い空間に消えてゆく。
強大なる神威を胸にある宝玉に集束し、押さえ込みながら、誠人はゆっくりと空を仰いだ。
彼らの願いは唯一つ。
「我らの楽園よ永遠なれ。この楽園を、永劫護り続ける為に――」
それはきっと、永遠に終わる事の無い戦い。
けれど、誠人は満足していた。それこそが、彼の願い続けた世界の形だったのだから。