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真夜中の烏  作者: アザとー
第2章
7/23

[2]

翌日、男はコンビニのレジで『愛想』を売っていた。

 目の前の客はもう三十分もわめき続けている。

男は怒りを腹に押し込み、笑顔を装備した。

「申し訳ございませんでした。」

何度こうして頭を下げただろう。そして、すでに退勤の時間を大幅に過ぎた俺は、いつ帰れるのだろうか……

ふつふつとした怒りと戦いつつ、男はさらに深く頭を下げる。

彼が店で笑顔の仮面を脱ぐことは無い。それも仕事の内だという事は重々承知だ。

たとえ同じ話を延々とリピートするクレーマーに会おうとも、決して笑顔を崩さない事がプロの証だと彼は考えていた。

「ともかく、返金してもらえるんだろうね!」

 クレーマーはやっと終わりの言葉を口にした。

「はい、そのように対応させていただきます。」

 男は手早くレジを繰った。

「本当に申し訳ありませんでした。今後はこのようなことが無いよう……」

「いいよ!もう二度と来ないから。」

 客はマニュアル通りの詫びの言葉を終わりまで聞こうともせず、大股で店を去った。

 男はもう一つのレジを打っている若いバイトに声をかけた。

「こっち、終わったから。おれ、もうあがるから。」

「あ~、お疲れっす。」

 男は気の抜けた挨拶を終わりまで聞こうともせず、大股でその場を去った。

 更衣室に飛び込み、引きちぎるように制服を脱ぎ捨てると、ポケットに入れておいたブレスレットが床に転がり落ちる。

 男はそれを拾い上げ怒りのままに壁に投げつけようとした。

だが、大きく振りかぶった腕を振り切ることはしない。

 いくら更衣室とはいえ、ここはまだ店の中だ。

 男は、その中で一番輝いて見える石をパチンと指ではじいて、荒れ狂う心を慰めた。


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