表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜中の烏  作者: アザとー
第4章 「楽」
21/23

〈5〉

 数日もすると、小夜子の存在は『タケの彼女』という事で周りに知れわたった。

 彼女は『カレシ』のそばに常に寄り添い、その笑顔を飽くことなく『観察』した。

 タケは相変わらず笑っていた。そんな彼のもとへは人が集まる。今日は隣の病室の、若いあんちゃんが話相手だ。

「それにしても、どうやってこんな美人の彼女、捕まえたんだよ。」

「ナンパですよ。ま、ウチの場合は逆ナンですけど?」

 あんちゃんは「ぎゃはは」と、豪快に笑った。

「俺を差し置いて、おいしい目、見てんじゃねぇよ。」

 ちょっと乱暴なスキンシップに、タケは笑顔で応えた。

「僕、病人ですよ。もっと優しくしてくださいよ。」

「俺だって病人だよ!」

「あ、そうでしたっけ。」

 笑い声がより大きくはじけた。

 小夜子はそんな笑いのさなかにいて、にこりともしない。ただじっとタケの楽しげな姿を見つめていた。

 昼食の時間になり、あんちゃんは自分の部屋へ帰って行った。

 タケと小夜子、二人だけの病室は静かだ。

 小夜子は昼食を頬張るタケから目をそらさず、唐突に聞いた。

「ちゅー位はした方がいいのか?」

 タケがゴフっとむせた。

「ちゅーなら機能的にも問題は無いぞ。私は『彼女』なのだから、そのくらいはした方がよいのだろう?」

「その言い方は、萌えるって言うか、萎えるって言うか……」

「どっちなんだ?」

「いや、いいよ。そこまでしてくれなくて。」

 小夜子はずいっとタケに詰め寄った。

「ならば、何をすればいい?何をすればお前は楽しくなる?」

「今のままで、十分楽しいよ。ほら、僕、笑ってるよ。」

「ウソをつくな。お前は笑っている最中に、すごく哀しそうな顔をする。」

 タケが力なく「ははっ」と笑い声を吐いた。

「良く見てんなぁ。敵わないよ。」

「あれは、楽しいのか、哀しいのか、どっちなんだ?」

「どっちもだよ。」

「どっちもじゃだめだ。タケには、楽しい気分でいてもらわないと困る。そのためなら何でもしてやるぞ。何をすればいい?」

 タケの首筋で、チョーカーの石がチカリと青く光った。

 その光はタケが小夜子に向けた、とびきり明るい笑顔にまぎれて消えた。

「じゃあさ、もうこれなら絶対楽しいって、鉄板の物があるんだけど。」

 タケは部屋の隅にある冷蔵庫からカップのアイスを取り出すと、小夜子のすぐ隣に腰を下ろす。

「これ、ちょーうまくってさあ。でもなかなか売っていない、とっておきのレアモノなんだよね。」

「それを食べると、楽しくなるのか?」

「美味しいものはさぁ、誰かが一緒に食べてくれると、もっと楽しくなるよ。」

 タケはその、ひと匙を小夜子の形良い唇に流し込んだ。

 いつものように成分を味わっている余裕はなかった。小夜子の口の中でとろけていくそれは、冷たく、あまく、そして、タケの笑顔がほろ苦い。

「うまい……」

 小夜子の言葉に満足そうに頷くタケをみていると、何だか鼻の奥がしょっぱいような、そんな気持ちになる。

 小夜子は意味もなく窓の外へ視線をそらした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ