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真夜中の烏  作者: アザとー
第3章
13/23

(3)

「あんまりそういう『力』を使うなよ。」

女を見送る少女の傍らに、コウモリのハネが降り立った。

「あれを受け取ってもらうためには仕方がないだろう。」

 少女は相変わらずの無表情に見える。が、少年はその些細な変化を見逃さなかった。

「もしかして、イラッとした?」

「イラッと……する、か。」

少女は漆黒の瞳を閉じて、頭の中でその単語を反芻した。

「自分の思い通りに行かないときに発生する感情だな。確かに自分の思い通りにはいかない状況ではあったな。」

「そうじゃなくて!『イラッとした』かって聞いてるんだ。」

 少年は、いつものようにへらへらと笑ってはいなかった。

「お前の質問は……不可解だな。」

 小夜子の顔はすでに、完全なる無表情を取り戻している。

「そうだよね。不可解だよね。」

 少年は取り繕うかのように、ヘラっとわらった。だが、少女の堅い表情には何の反応もない。

 小夜子は規則正しい歩調で歩きだした。

「あれ、どっか行くの?」

「観察だ。人間をよく見ろと言ったのはお前だろう。」

「そうでしたネ。ま、がんばって。」

 コウモリのハネが大きくはためき、少年の姿を、星すらも見えない都会の空へと連れ去った。そして、小夜子の足取りは何者にも乱されることなく、その姿を星のように輝く街明かりの中へと連れ去った。


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