表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜中の烏  作者: アザとー
第1章 「喜」
1/23

始まりの夜

始まりの夜


 申し分のない月明かりが、その夜を明るく照らしていた。

 こんな夜には、人ならざる者たちが宵闇の中に降臨する。

 今まさに、一人の少女が地上に足をつけようとしていた。

 背中には巨大な鳥の翼が生えている。漆黒のソレは、異界より羽ばたき続けて疲れ切ってはいたが、ふわりと優しく地上に降り立った。

「よう、クルエボ。相変わらず美しい羽根だな。」

 コウモリの羽をひらめかせて隣に降り立った少年に、彼女は感情の無いガラス玉のような瞳で答えた。

「ここではその名前は不自然だ。『小夜子』と呼んでくれ。」

「小夜子ちゃんねぇ。美しい名前だな。俺にもこっち風の名前、つけてくれよ。」

「『チャラ男』」

 少女はそれだけ言い放つと、少年への興味を全く失ったかのようにそっぽを向き、何かをつぶやき始めた。その小さな唇の中であらしが吹き荒れるような音がもれ、巨大な翼がみるみる内に縮んで……ついには消えた。

 翼を持たない姿は、どこにでもいるごく普通の少女と何ら変わりない。

 よほど構って欲しいのか、その『変身』をじっと見ていた少年が、再び口を開いた。

「しっかし、めんどくさい事させられてんな。人間の『喜怒哀楽』を回収するんだっけ?」

「仕方ないだろう。人間の魂は、その大半が感情と言う成分でできている。だが、私にはいまだに『感情』というものが理解できない。」

「そうだな、だから落ちこぼれたんだもんな。」

 ストレートな悪口にも、少女はその美しい眉ひとつ動かさない。

「まあ、どうしてもダメなら?俺が嫁にもらってやるよ。」

「ありがとう、チャラ男。そうならないように善処する。」

「つれないねえ。ま、俺はその辺で適当に仕事をしてるから、困ったことがあればすぐに連絡してくれよ。」

「仕事は適当にやるものじゃない。」

「はいはい。『善処します』よ。」

 少年はいかにもチャラいしぐさで、ひらひらと手を振って飛び立った。

 すでに都会のネオンを移している彼女のガラスの瞳には、そんな彼の姿は映らなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ