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6. 決意

 

 

 ハードディスクの中から動画ファイルを選んで、DVDライターを起動した。

 本当はグラウベが映ってるところ、中でもブラジリアン・キックのシーンだけを抜き出したほうが短くまとまるし、そうするつもりだったんだけど、玲央が待っているのでまとめて全部放り込むことになった。ファンの彼女にしてみれば他のシーンだって見たいだろうし。

 外付けの高速ドライブにまっさらのディスクを挿し込んで、画面の〈開始〉をクリックした。

「よし、あとは焼き終わるのを待つだけ、と。――どうしたの?」

 玲央はボクのベッドにちょこんと腰掛けて部屋の中を見回していた。何故か、眉間にすごく深いシワが寄っている。

「きったなぁ……」

 ボソリとした呟き。玲央はベッド脇のテーブルに載せてあるプレイステーション2のカバーを指で撫でた。白い綿のようなホコリが指先に纏わりついている。

「なんコレ、ホコリだらけやん。あーあ、もう幻滅。亮太ってもうちょっときれい好きって思っとったとに」

「あ、いや、その……」

 ボクは彼女の部屋――というか、彼女の家の中を思い出した。仕事が忙しくて家のことをできないお父さんと二人暮らしならば、家事はぜんぶ彼女がやっているということになる。なのに、散らかったり汚れたりしている様子はまったくなかった。

 指先をティッシュで拭うと、玲央はそれでプレステの本体の汚れも拭き取った。意識してやってるというより、そうするのが当然のような手つきだった。

「そんなにひどい?」

「時間があったら掃除したいくらい」

「オトコの部屋なんて、誰だってこんなもんだと思うけど?」

「知らんって。男の子の部屋とか入ったことなかし」

 玲央の目には呆れの色が浮かんでいた。自分の部屋がどうだろうと他人にとやかく言われる筋合いなんてないのに、ボクは首をすくめて恐縮するしかなかった。

「そんなに掃除が好きだったら、バイト代払うから片付けてよ」

「してあげてもよかけど、ベッドの下のエッチな本とか見つかっても知らんよ?」

「ないよ、そんな物」

 少なくともベッドの下には。

 これ以上、玲央を不機嫌にするわけにはいかないので、ボクは彼女をリビングに連れて行った。そこだって玲央の家に比べればかなり雑然としているけどボクの部屋よりはマシだ。K-1の放送を見るかと訊いたら「録画予約してるから見ない」という返事が返ってきた。

「もうちょっと時間かかるから、それまでゲームでもやんない?」

「えー、アタシ、ゲームせんけんよう分からんよ。プレ2とか持っとらんし」

「大丈夫、教えてあげるから。何やろうか?」

 玲央はボクが置いたゲームディスクのケースを覗き込んだ。そのうちの一枚に彼女の目は釘付けになった。

「ねぇ、これやろっ!」

 彼女が取り出したのはK-1のゲームだった。ホント、好きなんだな。

「それ、操作がややこしいよ?」

「教えてくれるっちゃろ?」

「そうだけど……」

 基本的な操作のレクチャーと、彼女のコントローラーだけ一発で大技を出せるように設定してから試合は始まった。

 ハンデということでボクは日本人ファイターしか使わなかったけど、初心者の彼女がまともな操作なんかできるわけがない。ジェロム・レ・バンナvs.武蔵という苦戦必至の組み合わせでもハイパー・バトル・サイボーグはあえなく撃沈した。

「あぁん、ちょっと待ってってッ! なんで武蔵がそんな前に出てくると!?」

「ゲームだから」

 ボクは含み笑いを浮かべながら冷たく言い放った。こんな機会でもなければボクが彼女を負かすことなんてありえないので、大人気ないと思いつつ手を抜いたりはしなかった。

 結局、選手を変えながら五試合をこなした。マーク・ハントvs.中迫剛で中迫の右ハイキックをかわしたハントのロングフックが炸裂したときにはヒヤリとしたけど、結局はボクの全勝だった。

「……ふーんだ、しょせんゲームやけんねぇ」

「負け惜しみはみっともないよ」

 玲央がプウッと頬を膨らませる。ボクは笑いを噛み殺した。

 

 

 時計を見るとちょうど一時間くらい立っていた。部屋に戻るとDVDは焼き上がっていた。インデックス画面からちゃんと再生できるかを確認して、ディスクをハードケースに収めた。

 リビングに戻ると、玲央はテレビのニュースをつまらなそうに見ていた。ボクは玲央の前にDVDを置いた。

 そのとき、玄関のほうで鍵を開ける音がした。無意味に陽気な声がそれに続く。

「たっだいま~っ!!」

 リビングと仕切りなしで繋がってるダイニングに姉貴が顔を出した。

「あー、遅くなっちゃった。――あれっ!?」

 姉貴は家を間違えたように目を丸くしている。玲央は立ち上がると頭を下げて「こんばんわ、お邪魔してます」と卒のない挨拶をした。

「……こんばんわ。えーっと、亮太のお友だち?」

「道場で一緒なんだよ。DVDを貸してあげることになったんで、取りに来てんの」

「何よ、そんなにつっけんどんに言わなくてもいいじゃん。あんた、この頃、態度悪いよね」

「うっせえよ。バイトはどうしたのさ?」

「あんたに関係ないでしょ。あたし、遊びに行くけど、ゆっくりしていってね」

「バカじゃねぇの? もう帰るに決まってんだろ。それになんだよ、これからまた出かけるって?」

「トモコんちだから変な想像しないで」

「どうだか。例のヤンキー彼氏とデートじゃねぇのかよ?」

「ホントだってば。信じないなら別にいいけど。あ、でもあんた、ママに妙なこと吹き込んだりしたらタダじゃおかないからね!」

 それだけ言うと、姉貴はさっさと自分の部屋に引っ込んでしまった。

 振り返ると玲央が何とも気まずそうな顔をしていた。当然の反応だ。よその家に遊びに行って家庭内の諍いを見せられれば誰だってそうなる。

「……ゴメン、気にしないで。いつものことなんだ」

 玲央は何か言いたそうな顔をしていたけど、何も言わなかった。

 家に帰る彼女を送っていくために、ボクは部屋に薄手のパーカーを取りに行った。Tシャツとハーフパンツの玲央にも何かあったほうがいいだろうと思って、クローゼットの中を引っ掻き回した。

 賃貸マンションらしい薄い壁のせいで、隣の部屋の姉貴の声が聞こえてきた。携帯電話で誰かと話しているらしい。内容は聞き取れないけど、声の弾んだ感じは最近付き合い始めた彼氏との会話のように思えた。さっきまで一緒にいたのに――バイトなんて嘘だ――さらに電話で話さなきゃならない理由がボクには理解できない。

 出かけるときはちゃんと鍵をかけていけとドア越しに怒鳴ってから家を出た。自転車で送ろうかと思ったけどボクのマウンテンバイクは二人乗りには向かない。なので、行きは押して歩いていくことにした。

「DVD、ありがと。お礼は何がいい?」

「今日のご飯で充分だよ。あと、ちゃんと蹴れるようになったら見せてくれれば」

「亮太、練習台になってくれん?」

「カンベンして。まだ死にたくない」

 玲央がカラカラと笑う。このままずっとその笑顔を見ていたいけど、そういうわけにもいかなかった。

 マンションの敷地を出たところで、玲央が急に眉をひそめた。

 視線の先の路肩にライトを消した黒塗りのグロリアが停まっていた。街灯の下でも中が見えないスモークガラス。ドドドドド、という不機嫌な野良犬の唸り声のようなエグゾーストが洩れている。金色のモールドと大げさなエアロパーツのおかげで品の悪い霊柩車みたいだ。

「――行こう。関わるとロクなことないよ」

 ボクは玲央の袖を引っ張った。幸い、グロリアは彼女の家に向かう道とは反対側に停まっている。

 向きを変えようとしたとき、グロリアの運転席が開いた。降りてきたのはクルマと同じくらい――いや、それ以上に品のない男だった。

 アロハのような派手なシャツの胸元を大きくはだけていて、そこに大振りなネックレスがキラキラ光っている。スキンヘッドと言っていいほどのボウズ頭には細い刈り込みの線が何本も入っている。夜だというのに黄色いシャープなサングラス。ピアスと短いヒゲのセットも忘れていない。全体的に痩せた感じなのに、シャツの肩周りや袖から向きだしになった部分は筋肉で大きく盛り上がっている。

 ヤンキーはタバコを吹かしながら携帯電話で誰かと話していた。顔見知りではないし名前も知らないけど、まんざら知らないわけでもない。このヤンキーはボクの姉貴、三浦春香の最近出来たばかりの彼氏なのだ。

「――そいでっさぁ、ムッカついたけんあん奴、ぼてくりこかしてやったって。おう、たぶん入院しとうっちゃないか?」

 声には愉快そうな響きが含まれていた。会話の内容からして、電話の相手は姉貴じゃなさそうだった。姉貴はボクや父親がK-1やPRIDEを見ているだけで機嫌が悪くなるくらい、その手の荒事にアレルギーがある。

 だったら、こんな男と付き合わなきゃいいのにと思うのだけど。

「あいつ、どっかで見たことある気がするとよねぇ……」

 歩きながら玲央がポツリと洩らした。

「どこで?」

「それが思い出せんとやけど。まぁ、地元の不良なら見たことくらいあったっておかしゅうないけどね」

 玲央はそれっきり押し黙ってしまった。何かを思い出そうとするように眉間に深いシワが寄っている。

「――えっ、俺? 今、彼女ば家まで送ったとこ。――ああ、ヒマばってんが。マジで? 行く行く!!」

 品のない銅鑼声は静まり返った夜の住宅地ではよく通った。近所迷惑という単語はこの男の辞書には載っていないのだろう。それ以前に辞書を持っているかどうかすら怪しいものだけど。

 ヤンキーは電話を終えるとグロリアに乗り込んだ。その場で乱暴にターンすると爆音を残して走り去った。とりあえず、姉貴がこの後、トモミとかいう友だちと一緒なのは本当らしい。

 ボクらはそのまま歩き出した。やがて、大通りに出たところで玲央が口を開いた。

「ねぇ、亮太。出すぎたことかもしれんけどさ」

「なんだい?」

「亮太のお姉さんが付き合いよるヤンキーって、さっきのあいつやない?」

 ボクは玲央の顔をマジマジと見た。目線が上を向くせいで何だか諭されているような気分になる。

「……どうしてそう思うのさ?」

「うーん。あいつを見よる亮太の目が、すっごく怖かったけん、かな?」

「ボクが?」

 自分があいつをそんな目で見ていることに、ボクはちょっと驚いていた。



 一ヵ月ちょっと前。

 たぶん、向こうはボクの顔なんて覚えていないだろうけど、あの男とは顔を合わせている。初めてあいつと姉貴が一緒のところを目撃したとき、声を掛けてきたからだ。姉貴はボクに見られてまずいと思ったようだけど、あいつはそんなことは気にしていなかった。

 姉貴が目だけであっちに行けと言ってきたので、ボクは適当な素振りだけしてその場を離れた。それはまぁ、どこの姉弟でもそんなに変わらない対応だと思う。

 けれど、ボクは相手が姉貴の彼氏というのとは別に、見ちゃいけないものを見たような気分であいつから目を背けていた。何故、そんなことをしたのか。

 有り体に言えば、怖かった。これでも要領はいいほうで、苛められたりカツアゲされたこともないけれど、自分のひ弱さ――暴力に対する恐怖心は拭えなかった。

 それが微妙に変化したのは、あの霊柩車もどきを香椎駅の近くで見かけたときだった。

 塾が終わって帰ろうとしていたときで、グロリアの周りにはあいつとあいつの仲間がたむろしていた。ボクがいるところは向こうからは見えづらいところだったけど、そもそも周囲を気にしている様子もなかった。

 グロリアの横にはどこかの高校らしい制服の女の子が座り込んでいた。何を話しているのかまでは聞こえなかった。でも、遠目にも肩が大きく上下して、彼女が嗚咽を洩らしているのは分かった。

 取り囲む男たちは下卑た笑い声を上げていた。やがて、そのうちの一人が女の子を無造作に蹴り上げた。女の子はグロリアのボディに倒れ掛かり、あいつは慌ててその子の髪を掴むと、そのまま右で殴り倒した。顔を上げたとき、女の子の鼻腔からはダラダラと血がしたたっていた。

「おう、マコト。そう言えば、おまえん新しか彼女――」

 男たちの一人が口を開いた。あいつはその男のほうに向き直った。

「ハルカんこつや?」

「そうそう。あれはどがんするつもりや?」

「どがんって……まぁ、そのうち、押し倒すつもりじゃおるけど」

「あの子、結構良かとこのお嬢さんじゃなかとや?」

「お嬢さんっていうわけやなかばってんさ。でも、親はどっかの一流企業の福岡支店長とか言いよったぜ?」

「やったら、あんまり長引かせんと、さっさとやることやってカネ巻き上げたほうがよかっちゃなかとや?」

「まぁな。ま、あんまり焦って逃げられたっちゃアレやし、俺のタイミングでどげんかするよ」

「どげんかって?」

 あいつはニタリと笑って腰を卑猥に前後させた。男たちは顔面を血だらけにして倒れる女の子を尻目に、ヒューヒューとそれを囃し立てる。もちろん、その場での前後運動の被害者になるのは彼女だ。

 気がつくと、ボクは手のひらに爪の痕が残るほど拳を握り締めていた。

 もちろん、その場で飛び出していったところでボクに何かができたわけじゃない。余計なケガ人が一人増えただけだ。彼女のためにボクにできることは警察を呼ぶことで、事実そうした。

 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくると、あいつらは女の子を残してその場を逃げ去った。そして、その女の子も口許をハンカチで押さえながらよろめく足でその場を離れた。警察に保護されるわけにはいかなかったんだろう。たとえ被害者でも警察と関われば親や学校に連絡がいってしまう。

 ボクは逃げ去った女の子と姉貴を重ね合わせていた。

 たぶん、あの子はそれまであいつらを楽しい遊び相手くらいに思っていたんだろう。しかし、実際にはヒツジの皮をかぶった狼――いや、ただの野良犬に過ぎなかった。そして今、姉貴もその野良犬の群れの中にいる。

 何としても、今のうちにあいつらと縁を切らせなくちゃと思った。

 けれど、家に帰ったボクが見たのはあのヤンキーと楽しそうに携帯で話している姉貴の姿だった。それはどんなに愚鈍な人間でも「こりゃ話しても信じてはくれないよ」と悟ってしまうほど、姉貴は二人だけの世界の中にいた。


 ――どうすればいい?


 ボクは眠れないまま、ずっと考えを巡らせた。



 途中の公園に寄って少し休んだ。

 玲央が自転車を貸してくれと言うのでハンドルを渡した。彼女は器用にマウンテンバイクを操って、前輪を上げたままホッピングで階段を下りてみせた。やったことがあるのかと聞くと、玲央は初めてだと言った。

「……まだ小さかった頃、団地のエレベータが故障して、ボクと姉貴と二人で中に閉じ込められたことがあってさ」

 玲央は黙ってボクのほうを振り返った。

「今、思えばほんの一〇何分の話なんだけどさ。でも、中のボクらにそんなこと分かるわけないし、もう、ホントに怖くってね。今でも、そのときのことはよく覚えてるんだ」

「それで?」

「灯りも切れちゃってるから真っ暗で、ボクはもうビービー泣いちゃってさ。でもね、姉貴がそんなボクを懸命に宥めてくれて。ギュッて抱きしめたまま、ずっと「だいじょうぶだから、だいじょうぶだから」って繰り返すんだ。自分も怖かったはずなのに」

 小さかったときのうっすらとした記憶。どこまでが本当でどこからが思い込みなのか、まるで判然としない。それでも、姉貴が繰り返す「だいじょうぶだから」はしっかりとボクと心に残っている。

「だけん、お姉さんを守ろうって思って空手始めたってわけ?」

「我ながら単純だとは思うよ。そんなすぐに強くなれるわけじゃないしね。でも……後悔したくないんだ」

「後悔?」

「本当は僕の思い過ごしで、姉貴が酷い目に遭うことなんてないのかもしれない。あったとしても、そのときにボクがその場にいられるとも限らないしね。それは確かにそうなんだ。――でも、ひょっとしたら姉貴に助けが必要なとき、その場に居合わせることができるかもしれないよね」

「絶対ないとは言えんよね」

「うん。――それなのに、今のままのボクじゃ何の役にも立たない。それが嫌なんだ。後になって、ボクが強かったら姉貴を救えたのに、なんて馬鹿げた後悔をしたくないんだ」

 誰にも言うつもりはなかったのに、ボクは玲央に本心を打ち明けてしまっていた。

 玲央はボクの前に出ると、急に真面目な顔になった。睨んでいるといってもいいほど鋭い視線。

「でもね、亮太。ケンカってそがん甘かもんやなかよ?」

「分かってるよ、そんなこと」

「ううん、分かっとらんよ。道場で鍛えた立ち技の強さと路上でのなんでもありの強さはまったく別のもんやけんね。こがんこと言いとうないけど、亮太があのヤンキーに立ち向かうとは子猫が虎に噛み付くごたるもんよ。アタシは何か他の方法を探したほうがよかと思うっちゃけどねぇ」

 ボクは玲央を睨み返した。

「……もちろんそうだね。ボクがやってることはただの自己満足なのかもしれない。笑いたきゃ笑ってくれても構わないよ」

 ボクは自転車の玲央を追い越して歩き出した。そんなことは分かってる。でも、分かってるからって逃げ出せるはずがないじゃないか。

 背後で玲央が自転車を押しながらついてくる気配がする。それがやがて、スピードを上げてボクの隣に並んだ。

「お姉さんのこと、そがん好いとうと?」

「人をシスコンみたいに言うなよ」

 ボクは小さく溜め息をついた。玲央がクスッと笑う。

「見てのとおり、仲は良くないよ。顔を合わせれば文句ばっかり言ってる。でも、たった一人の姉貴だからね」

「よかねぇ、そういうと。アタシ一人っ子やけんねぇ。羨ましかよ」

「そうかな?」

「そうって。あ~あ、アタシも守ってくれる亮太みたいな弟が欲しかったぁ」

 弟、ですか。

「ねぇ、亮太」

「なんだい?」

「明日から実戦的な練習、始めるけんそんつもりで準備しとって。まずはディフェンスの練習から」

「……どうしたのさ、急に?」

「だって時間がなかとやろ? チンタラ基礎からやっとったら、あいつに勝てるくらいになった頃にはあんたヨボヨボになっとうよ?」

「いや、それはいくらなんでも言い過ぎだろ?」

「どうだか。とにかく、ビシビシ鍛えるけんそんつもりでおってね」

「マジ? あの……どうかお手柔らかに……」

「なんで肝心なとこで気弱になると!?」

「いや、その……」

 脳裏に甦るのは初めて道場で会った日のゆらゆらと揺れるサンドバッグの影だった。あれと同じ運命を辿るのは正直怖ろしい。

「まぁ、よか。そがんとこも含めて、徹底的に鍛えちゃるけんね!」

 そう言って玲央はニヤリと笑った。

 

 

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