表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

エピローグ 二ヵ月後。


着替えをもって、母に会いに行った。しかし、病室はもぬけのからだった。人が暮らしていたとは思えないほど、綺麗に片付けられている。

「…………」

目の前の光景が理解出来なくて、思わず、郁はカンバスを手にしたまま呆然と立ちすくんでしまった。

そこへ、いつぞやの看護婦がやってくる。目が合った。

「母がどこだか知りませんか?」

「希望通り大部屋へ移しましたよ。5029号室です」

大部屋?

ああ、そういえば、そんなことも言っていたような記憶がある。

言われた病室に移動する。母は、同室の人たちと朗らかに会話していた。

「ああ、郁。いらっしゃい。あら、何を持っているの?」

母の視線が郁の手元に注がれる。郁は苦笑しながらも持っていたカンバスを母に見せた。

描かれているのは、裸足の少女。顔は煤けていて、服はぼろぼろの布切れ同然。ごたごたしたビル街の真ん中で、無気力に佇んでいる。しかし、その目は生き生きとしていた。不幸など微塵も感じたことが無いような眼差しで、絵を見るものをまっすぐに見つめ返してくる。

「…いい、……絵じゃない。なんだか暖かい気持ちにさせられるわ」

母が簡単の溜息を漏らす。

「うん。この前コンクールで優勝したんだ。それは複製だけど」

「複製?」

「うん。基本的に、応募した作品は返ってこないから」

「ふぅん」

母は何か呟き、それからまじまじと郁を見つめた。

「郁、何か良いことがあったの?」

「え? …うん、あったと言えば、あったかな」

少し話をしようと、郁は思った。

それは、とある喫茶店の店員と、不思議な女の子との物語。主人公の店員は、突然の事故で父を失います。病弱な母を助けるために夢を諦めたけれど、それは言い訳で、新しい世界に足を踏み入れることに臆病になっていただけでした。店員の母親は、暗に、「自分は一人でもやっていけるから、もう私の心配はせずに、自分の夢を追いかけなさい」と、言いますが、その店員はその言葉が聞こえない振りをしていました。そんなある日、乞食の様にみすぼらしい、しかしとても綺麗な瞳をした女の子が店にやってきます。その女の子に勇気をもらった店員は、紆余曲折の末、もう一度夢を追いかけると誓ったのでした。

この物語のシメは、こうしようと思う。

それは、あの少女が店に顔を出さなかった理由。その微笑ましい種明かし。

十二日目にして漸くやってきた女の子は、千二百円のスペシャルケーキセットを注文したのでした―――


更新が遅れて申し訳ありません。

急遽実家に帰らなくてはいけなくなり、バタバタとしていました。

作品自体はずっと前に完成していたので、データも実家に持って帰っていれば更新できたのだと、今更気が付いたり……

それはともかく、これにて「夏のわらし」―――

完結です!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ