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創作五枚会

その男、クレーマーかも

作者: 京元緋呂

第三回テーマ「退屈」 禁則事項「!と?の使用」「登場人物の名前記載」

 だから、とても退屈な作品だって言ってるんだ。

 僕はその中から少しでも、面白さとか、エキサイティングさとかを見つけだそうと努力していたに過ぎない。むしろ感謝してほしいくらいだ。ただ黙って棚に寝かせておくより、こうして熱心な誰かに見て貰うほうが、この作品にとっては幸せだろう。この店にとってもプラスになるはずだ。


 ところで、君はこの作品を観たことがあるか。

 ああ、店の人間だからって、商品を勝手に観てはいけないんだね。じゃあプライベートではどうだろう。

 そうか、シチュエーションが好みじゃないのか。まあそこは人それぞれだから、良しとしよう。

 君が観たことのない作品を僕が云々言うのもどうかと思うが、僕も僕の名誉のために、この辺はきちんと示して置かなきゃならないから。

 そんな嫌な顔をするなよ。大丈夫、五分もあれば済むさ。もう真夜中だし、幸い他に客はいないから問題ないだろう。


 まず、この作品の導入部。

 長い。ハッキリ言って長すぎる。

 どこまで焦らせば気が済むんだってくらい、下着のシーンがネチネチ長いじゃないか。

 そして、この彼女。ええと、役名はなんだっけ。いや、そんなものなかったかな。

 彼女の演技も酷い。顔は可愛いんだ。スタイルも良いし、声もちょっとロリロリしてて可愛い。だが、どんだけアレコレされてもお面みたいに微笑を崩さず、しかもマグロだ。

 これじゃあ一昔前のアイドル系演技だろう。こんな程度で、この過酷な時代を乗り切れるわけがない。

 同じ調子の喘ぎなんて、十分も聞いてたら飽きて来る。いや、それが好きだって奴もいるだろう。だが、そんなタイプの女優が主演だからこそ、ありきたりの展開じゃダメなんだ。

 世の中は常に刺激を求めている。男も女も、老人も子供も、オカマでもニューハーフでも腐女子でもそうだ。


 ふふふ、納得行かないようだね。眉間に深いしわが二本も寄ってる。小さな溜息も吐いてる。

 君は内心、こんな話は店長にしてくれって思ってるだろう。気持ちは分かるよ、僕もコンビニでバイトしてたとき、話し好きのお客さんに捕まって仕事を邪魔された経験があるから。

 でも僕はここで、僕の考えを君に充分理解してもらわないとならないんだ。別にクレーマーでも何でもないよ。僕は自分が行った行為に関して、正当な理由を話しているだけに過ぎないんだ。


 コホン、話を元に戻そう。


 この作品は、タイトルロールからラストのおまけシャワーシーンまで、およそ四十五分ある。

 主演である彼女のプロモートカットが、冒頭に三分。それから場所を室内に移し、ベッドに腰掛けプライベートな性生活に関する質疑応答を経て、男優とイチャイチャ始めるまで七分。

 脱衣しながら前戯が十五分。ここまでで既に二十五分経ってるのに、ま、まだ(パンティ)穿いてるんだぞっ。

 

 ゲホッ、ゴホッゴホッ。ああ失礼、急に声を小さくしたら、気管に唾が入ってしまったゲフッ。


 そこから行為に及ぶまで更に三分二十三秒も掛かってたら、どうなると思う。スタンバイしてるこっちは散々待たされて、逆に苛々してくる状態だ。

 それとも何か、そういう効果を狙った作品なのか。退屈な展開に焦らされて喜ぶような、微妙な感覚の客層を増やそうと企んでいるのか。それなら分かる。分かるが、そんな作品は決して売れない。ごくノーマルな一ユーザーとして断言しても良い。


 うわ。

 そんな「痛々しいなコイツ」的な目で見ないでくれ。

 僕はあくまでも説明しているんだ。僕がこの作品のどこらへんをオカズにしようとしたかは、君には関係ないし知らせる気もないから。ただ説明しているだけなんだから、そういう下世話な取り方は止めてくれ。


 つまり。

 こんな駄作の対価としては、君の提示した金額はあまりにも大きいと言うことだ。

 確かに、延滞していたことは申し訳ないと思う。それにもしかしたら、いや多分いないと思うけれど、僕が返却するのを泣きながら待っている客が一人くらいはいるかもしれない。だが、それにしたってどうだ。

 僕は至極真面目にこの作品を鑑賞した。そしてまっとうな、一般的な評価も下した。それは鑑賞する者として、この作品に真正面から向き合った結果でもある。

 ここまでこの作品を本気で観た客は、きっといないだろう。そして僕はこれからも年齢指定付きを含め、この店に置かれた数多の作品と向き合って行くつもりだ。僕みたいな客は稀少だ。きっと店にとっても有益な存在となり得るだろう。それをよくよく考慮してほしい。


 え、聞こえないな。

 なになに、延滞金合わせまして、10850円だとっ。


 ふーん、君はまだ僕の言うことを理解してくれていないね。

 分かった、そこに座りたまえ。もう一度最初から、ごく丁寧に説明しようじゃないか。


   【了】


 


ネタがこれしか浮かばなかった。もうダメかもしれない(パタリ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 語りの男からみた「退屈」とそれについて興味のない聞き手の「退屈」ですね。もっとも男がAVに対して本当に退屈していたかどうかはわかりませんが、「延滞をしている」ということを考えればただの言い訳…
2011/03/01 14:30 退会済み
管理
[良い点] 延滞した客の延々とした演説。 [気になる点] 客から見た店員の様子がもう少し描写してあれば、退屈具合がもっとよくわかったかも。 [一言] 大変楽しませていただきました。 これを聞かされた店…
[一言]  えーと。レンタルビデオね、というのはすぐに判って、そして、すぐに「あれ…? これ…、もしかして…?」うーん。どうしましょ。  そのサクヒンが退屈だった、と彼は言ってますが、本当に退屈してた…
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