黎明 サイドストーリー1 ゼルイド(1)
第2章、59話「贖罪」までお読みになった方のためのサイドストーリーです。
このサイドストーリーには本編の中に伏線として用意してある内容が記されています。そのため、59話までお読みになられてからの方が楽しめる内容となっております。
「ハッハッハ! 俺の夢は特級騎士になることだ!」
「……」
「アイデイン、俺はちゃんと言ったことは守るぞ! これは自信過剰なんじゃない。俺の運命なんだ!」
「…声大きいよゼルイド?」
王立第三高校からの帰り道、ゼルイド=クルスタスは幼馴染のアイデイン=マーキュリーに自分の進路を断言した。そうやって騎士になると言った者が、いままで何人いただろうか。そしてそのうち何人が、本当に騎士になれただろうか?
アイデインはそれを考えると、こういうものは公言するものじゃないと思うのだが、それは指摘しないでおいた。ゼルイドなら本当に成し遂げてしまうかもしれない。なぜなら彼ほど優秀な学生はそうそういないからだ。
「私の夢は…内緒ね」
「そのうち教えてくれよ!」
「フフフ…そのうちね」
高校2年生になってから、めっきりと男らしくなったゼルイドは、幼馴染の目から見ても魅力的だった。ある目標を突破したら、ゼルイドと共に。それがアイデインの夢だった。
もう自習期間は今日で最後、明日はいよいよ総合試験となる。だが2人には何も心配は無かった。
「ゼルイド、きっと驚くよ」
「なんだろうな、今から楽しみだ!」
「784点!? 俺より上じゃないか!?」
「あら、ゼルイドは760点だったのね? 良かったわ、2人とも総合試験は突破ね」
「アイデイン、すまない!」
「どうしたの?」
「俺はアイデインがこんなに点数が取れると思っていなかった。見くびっていたんだ。だからすまなかった!」
「フフフ。私、ゼルイドのそういう正直なところって好きよ」
「ハッハッハ! 嘘はつけない性格だからな!」
「すごく、いい性格だと思うわ。騎士向きね」
「ああ、2人とも適正試験は3日後だな! アイデインも加護が発現するといいな!」
「フフフ、そうね」
猛烈な量の学生たちが、ぎゅうぎゅうに後ろから押されながら黒殿へ入り、そして出て行く。ほとんどの学生たちは一生で一回だけ、この加護適正試験で王城の中へ入るのだ。
「白い螺旋の道を歩いてください! かなり早い速度で歩いていただかないと後ろがつかえてしまいます、そこの人! 立ち止まらないでください!」
「前へ進んでください! どんどん前に進んでください!」
係員たちは絶叫しながら学生たちの背中を押している。彼らは無償奉仕で来ているはずの係員だ。だが、黒水晶の前にいる試験官たちは神官職のはずだ。
「すごい人ごみだな、アイデイン!」
「ここまで押し込められるとさすがに不快感があるわ」
「おぅ、見えてきたぞ! あれが黒水晶か!」
「黒いただの板みたいね」
「すごいな、どんどん加護が発現してるぞ! 3割ぐらいの人が発現してる感じか?」
「票を配る神官は大忙しね。こんなのを毎年やってるなんて信じられないわ」
「…君、火1!」
「水2!」
神官は発現した学生にその場で加護の種類と強さを書いた票を配っている。票をもらった学生は喜びながら、黒水晶のすぐ傍に開いた下階への階段から下へ降りていくが、駆け下りなければならず喜びもすぐに消えていた。
「そのあたりから右手をかざしてください! はい! 前へ進んでください! 君、風4!」
「アイデイン、右手をかざすんだ」
「ええ、さすがに20メートルじゃあ発現はしないけどね」
「さあ、近づいてきたぞ!」
前触れも何も無く、ゼルイドの右手に黄色い光が黒水晶から飛び込み、やがて消えた。
「そこの君、地6! おめでとう!」
「おお、試験官殿、ありがとうございます! やったぞアイデイン!」
ゼルイドが後ろを振り返ると、1メートル後ろのアイデインにも同じ黄色い光が伸びている。
「あなたは地7! おめでとう!」
「なんだとぉぉぉぉ!?」
「あら。やっぱりね。ほらゼルイド、進んで進んで。怒られるわよ」
「そこ、立ち止まらない! 進んでください!」
「うわ、すいません! それにしてもアイデインが地7とは思わなかったぞ!」
「フフフ…」
下階へ降りると、神官がここでも叫んでいた。
「騎士を志望する方はこちらへ並んで学生証を提示してください! そうでない方は右手の出口から出て登録所へ…」
「はい! ゼルイド=クルスタス、騎士を志望します!」
「アイデイン=マーキュリー、騎士を志望します」
「なんだとぉぉぉぉ!?」
この日ゼルイドは、二度絶叫した。
「おっ、女性騎士だぞ!」
「何十年ぶりだ!? 珍しいな!」
「頑張れよ!」
その場にいた学生たちは、口々にアイデインを祝福した。だがまだ、王族に認められなければ騎士の称号は得られない。
「フフフ、ありがとう皆さん。王家に認められるよう、頑張るわ」
「アイデインが騎士志望だったとは…内緒ってこのことか!?」
「確認できました。ゼルイド=クルスタス殿、アイデイン=マーキュリー殿。ともに王立第三高校の生徒ですね。では、今の時間は火王様が面接を行いますので、上がってください」
神官は学生証を2人へ返却し、風伝でどこかへそれを登録している。おそらく階上の立会い王族へ知らせているのだ。
「ほらゼルイド、上に上がらないと」
「む、むう」
立会い席へ上がると、そこには火を模した小さめの王冠を被った、火王マーテル=ダブスが居た。
「火王様、本日はお立会いいただき、ありがとうございます!」
「……恐悦至極に存じます」
ゼルイドとアイデインがその場に跪くと、火王は微笑みながら問答に入った。
「ゼルイド=クルスタス。お主は何故、騎士になりたいのだ?」
「はっ、私は、いずれ太陽王が現れたときに、彼を助ける仕事がしたいからです!」
「ふむ、良い志望理由だ。ゼルイド、私の目を見よ」
「はっ…」
ゼルイドは顔を上げて、火王の目をまっすぐに見つめた。その目には嘘偽りのないことが見て取れる。
「うむ、ゼルイド、お主は嘘をつけない真面目な性格のようだな。騎士に向いているだろう」
「はっ!? そこまで分かるのですか!?」
「多くの学生を見ているとな、分かるのだ。ゼルイド=クルスタスを五級騎士と認めよう」
「ありがとうございます!」
「では、アイデイン=マーキュリー。お主は女性の身分で何故、騎士になろうとしている?」
「は。それは女性にも、未来を切り開くことが可能だと考えているからです。私は人類のために、その未来を切り開くことのできる人間になりたいのです」
アイデインは強いまなざしを火王に向ける。
「…お主、その強い想いをずっと心の中に秘めていたな?」
「は。おっしゃるとおりです」
「よくぞ、そこまでの強い想いをこの歳まで持ち続けられたな。合格だ。24年ぶりの女性騎士と認めよう」
火王マーテルは、相好を崩してアイデインに頷いた。
「は! ありがとうございます」
その言葉を聞いて、横にいた神官は騎士証を2人に授ける。
「ゼルイド殿、アイデイン殿。五級騎士証をお渡しいたします」
「ありがとうございます」
「2人とも、高い志を忘れずにいるのだ。騎士の道はつらく険しい。諦めそうになったとき、お互いに支えあうが良い」
「殿下、ありがとうございました!」
「初志、貫徹いたします」
「アイデインが騎士になるなんてな」
「このときを、ずっと思い描いていたのよゼルイド」
「内緒っていうのはそういうことか」
「いいえ、もう一つあるのよ」
「ん?」
「ゼルイド、私と結婚してほしい」
「なんだとぉぉぉぉ!?」
訂正しよう。ゼルイドはこの日、3度絶叫した。
ちょっと実験で、会話率を異常に高めてみました。
さて、この2人の物語はもう少し続きます。