2章6話 私の目指す世界
アケムと別れた後、ケペトは神殿に戻ってきた。夕日が神殿の白い石を美しく染めており、一日の終わりを感じさせる穏やかな時間だった。
「おかえり、ケペト。今日は遅かったなあ」
アケトが夕食の準備をしながら声をかけてきた。
「ただいまです!子どもたちとの歌の練習が、思いのほか盛り上がって♪」
「そうか。みんな楽しそうやったみたいやな。街の人たちが、今日のケペトの歌は特別やったって言ってたで」
アケトの言葉に、ケペトは少しドキッとした。確かに今日は、ハトホル様の力も加わって、いつもより特別だっただろう。
「えへへ、みんなが元気よく歌ってくれたからです♪」
「それにしても、なんや今日のケペトは輝いてるなあ。ええことでもあったん?」
アケトの鋭い観察眼に、ケペトは頬を赤くした。確かに今日は、ラー様との修行、ハトホル様との出会い、そしてアケムさんとの時間…たくさんの素敵なことがあった。
「うーん、そうですね♪ なんだか、毎日がどんどん楽しくなってる感じがします」
「そうか。それは何よりや」
神々からの夜の呼び声
夕食を済ませ、部屋で一人になったケペト。今日の出来事を思い返していると、左手首の痣が温かくなり始めた。
「あれ?」
窓の外を見ると、美しい光が漂っているのが見えた。金色の光と虹色の光…ラー様とハトホル様だった。
「ケペト」
心の中に、ラーの声が響いてきた。
「今日の成果を確認したいの。私たちの元に来てくれる?」
「はい、すぐに♪」
ケペトは静かに部屋を出て、神殿の屋上へ向かった。そこには、既にラーとハトホルが待っていた。
「お疲れさま、ケペトちゃん♪」
ハトホルが元気よく手を振っている。
「今日は楽しかったわ〜♪ あの騎士さんも素敵だったし」
「ハトホル様…」
ケペトは恥ずかしそうに俯いた。
今日の成果の確認
「今日のあなたの成長は素晴らしかったわ」
ラーが満足そうに頷いた。
「朝の修行で学んだことを、午後にはもう実践していた」
「そうそう♪ 私との音楽の調和も、とても自然だったわ」
ハトホルも嬉しそうに言った。
「でも、私はただ皆さんと一緒にいて、楽しかっただけです」
「それが大切なのよ」
ラーが優しく微笑んだ。
「力を使おうとして頑張るのではなく、自然に心を開いて、みんなのことを思う。それがあなたの一番の力なの」
「私も勉強になったわ♪」
ハトホルが手を叩いた。
「ケペトちゃんと一緒にいると、音楽がより優しくなるの。一人で盛り上がるよりも、みんなで楽しむ方
がずっと素敵ね」
イシスの到着と報告
「お疲れさまです」
美しい声と共に、イシスが現れた。手には温かいお茶とお菓子を持っている。
「あら、イシス。ちょうどよかったわ」
「今日の街の様子を見てきました。皆さん、とても幸せそうでした♪」
イシスが嬉しそうに報告した。
「花屋さんのお花は今まで以上に美しく咲いているし、パン屋さんのパンもふっくらと美味しそう。そして何より、人々の笑顔が輝いているわ」
「それは…私たちのおかげですか?」
ケペトが恐る恐る尋ねた。
「もちろんよ♪」
ハトホルが嬉しそうに答えた。
「でも、正確にはケペトちゃんのおかげね。私たちの力を調和させて、街全体に良い影響を与えてくれた」
他の神々からのメッセージ
「実は、今日は他の神々たちからもメッセージが届いているの」
ラーが少し改まった表情で言った。
「ネフティスとセトも、街の変化に気づいているわ」
「どんなメッセージですか?」
「ネフティスは『知恵の力も、愛と調和があってこそ真に役立つ』と言っているわ」
イシスが伝えた。
「セトは『変革の力も、皆の幸せのためにこそ意味がある』ですって♪」
ハトホルも楽しそうに付け加えた。
「みんな、ケペトちゃんから学んでいるのね」
「そんな…私の方が、皆様から学ばせていただいています」
ケペトは謙遜したが、神々たちは微笑んでいた。
アケムについての相談
「ところで、ケペト」
ラーが少しいたずらっぽい表情になった。
「あの騎士さんのこと、どう思う?」
「え、えっと…」
ケペトの顔が真っ赤になる。
「素敵な人だと思います。とても優しくて、誠実で…」
「それに格好いい♪」
ハトホルが茶化すように言った。
「ハトホル様!」
「でも本当よ♪ お似合いのカップルだと思うわ」
「まだそんな関係じゃ…」
「でも、お互いに想い合っているのは明らかね」
イシスも優しく微笑んでいる。
「彼なら、あなたを支えてくれる良いパートナーになりそうよ」
人間と神々の関係について
「実は、彼が私たちを見ることができたのには、理由があるの」
ラーが真剣な表情になった。
「心の純粋な人間は、時として神々を見ることができるの。特に、神々の調停者であるあなたの近くにいるときは」
「そうなんですか?」
「ええ。だから彼は、きっとあなたの大切な仲間になるわ」
「でも、秘密を知ってもらうのは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ♪」
ハトホルが楽しそうに答えた。
「愛する人を信じることも、調和の一つよ」
「愛する人って…」
ケペトはまた赤くなってしまった。
明日への準備
「そろそろ休む時間ね」
イシスが空を見上げて言った。
「明日も、きっと素敵な一日になるわ」
「ええ。そして明日は、もしかしたらネフティスにも会えるかもしれないわね」
ラーが予告した。
「ネフティス様にも?」
「彼女はとても頭が良くて、あなたのことをもっと詳しく知りたがっているの」
「でも堅苦しい人じゃないわよ♪」
ハトホルがフォローした。
「実は甘いもの大好きで、とっても可愛い一面があるの」
「楽しみです♪」
ケペトは嬉しそうに言った。
心の中の整理
神々たちと別れた後、ケペトは自分の部屋に戻った。ベッドに座って、今日一日のことを振り返ってみる。
朝のラー様との修行、午後の子どもたちとの歌、ハトホル様との出会い、アケムさんとの時間…どれも特別で、大切な思い出だった。
「私、本当に変わったんだな」
数日前までは、普通の神官だった自分。でも今は、神々たちと友達になって、特別な力を持っている。
「でも、怖くない」
そう思えるのは、きっと神様たちがとても優しいからだろう。そして、アケトさんやアケムさん、街の人たちという大切な仲間がいるからだ。
左手首の痣をそっと撫でると、温かい光が心を包んでくれた。
アケムからの手紙
その時、窓の外から小さな音がした。見ると、小鳥が小さな手紙をくわえている。
「あら?」
手紙を受け取ると、アケムからのメッセージだった。
『ケペトさんへ
今日は素晴らしい時間をありがとうございました。 神々の存在を知り、あなたの特別な力を見せていただいて、 改めてあなたの素晴らしさを感じています。
微力ですが、できる限りお手伝いさせていただきたいと思います。 明日もお会いできることを楽しみにしています。
アケム』
手紙を読んで、ケペトの心が温かくなった。
「アケムさん…」
きっと神様たちも、この気持ちを応援してくれているだろう。
窓の外では、美しい星空が輝いている。ラー様の太陽が休んでいる間、夜空の星たちが優しく世界を見守ってくれている。
「明日はどんな一日になるかな」
ケペトは楽しみで仕方がなかった。ネフティス様との出会い、アケムさんとの時間、そして街の人たちとの穏やかな日常。
すべてが愛おしく感じられる。
「みんな、ありがとう」
心の中で、神様たちと大切な人たちに感謝を込めて、ケペトは眠りについた。
夢の中での約束
その夜、ケペトは美しい夢を見た。
大きな花畑の中で、神々たちと人間たちが一緒に笑いあっている夢。ラー様の太陽が優しく照らし、イシス様の花々が美しく咲き、ハトホル様の音楽が響いている。
その中で、ケペトはアケムと手を繋いで、みんなを見守っていた。
「これが私の目指す世界」
夢の中で、ケペトはそう思った。神々と人間が、お互いを大切にし合い、調和の中で生きている世界。
「きっと実現できる」
そんな確信と希望を胸に、ケペトは安らかな眠りについた。
明日もきっと、素敵な一日になるだろう。新しい出会いと、深まる絆と、そして少しずつ大きくなる愛情と、すべてが美しく調和した世界へ向かって…。