表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

11章31話 新たなる愛の調和


ケペトとアケムの婚約から一ヶ月が過ぎた。神殿には今まで以上に温かい雰囲気が流れているが、同時に新しい課題も見えてきていた。


「おはようございます、ケペト様」

愛の精霊が元気よく挨拶したが、その光は以前よりも複雑な色合いを見せていた。


「おはよう、愛ちゃん。今日も早いのね」


「はい。最近、神殿にいろんな人が相談に来るようになったので、お手伝いの準備をしてるんです」

確かに、ケペトの「愛の力の真実」について噂が広まってから、神殿を訪れる人々が増えていた。恋人同士の悩み、夫婦間の問題、親子関係の摩擦…様々な「愛の悩み」を抱えた人たちが、助けを求めてやってくる。


「今日はどんな方が来られるのかしら」

ケペトは身支度を整えながら、少し複雑な気持ちだった。人々の役に立てるのは嬉しいが、最近の相談内容は以前よりもずっと複雑で、簡単な「調停」では解決できないものが多い。


朝の相談者

朝食後、最初の相談者がやってきた。中年の夫婦で、表情は暗く、お互いを見ようともしない。


「私たちの結婚は、もう終わりなのでしょうか」

妻のサリアが重い口調で尋ねた。


「二十年一緒にいましたが、もう何も話すことがありません。愛も冷めてしまったようで…」

夫のカイも疲れた様子で頷いた。


「最初は愛し合っていたんです。でも、日常に流されて、いつの間にか他人のように…」

ケペトは二人の話を静かに聞いていた。以前なら、愛の力で二人の気持ちを引き出そうとしたかもしれない。でも今は、より慎重に考えている。


「お二人は、今でもお互いのことを大切に思っていらっしゃいますか?」


「それが…分からないんです」

サリアが困惑した表情で答えた。


「愛してるのか、習慣で一緒にいるのか…」

カイも同じような表情だった。


ケペトは少し考えてから言った。

「愛にはいろんな形があると思います。最初の燃えるような恋の気持ちから、深い信頼と安らぎの愛へと変化することもあるんです」


新しい愛の発見

「でも、何も感じないんです」

サリアが悲しそうに言った。


その時、イシスが静かに現れた。

「失礼いたします。少しお話に加わらせていただいてもよろしいでしょうか?」


イシスは夫婦の前に座ると、優しく微笑んだ。

「私たちも神々ですが、長い年月を共に過ごす中で、愛の形が変わることを経験しています」


「神様でも?」

カイが驚いた。


「ええ。セトとネフティス様を見ていると、最初の情熱的な愛から、今はお互いを支え合う深い絆に変わっています」


ケペトが続けた。

「愛は感情だけではないんです。相手の幸せを願う気持ち、一緒にいて安らげること、困った時に支え合えること…それも愛の形なんです」


サリアとカイは顔を見合わせた。

「確かに、彼が病気の時は心配でたまらなかった」


サリアがつぶやいた。

「私も、彼女が悲しんでいると、何とかしてあげたいと思う」カイも気づいたように言った。


「それが愛ですよ」

イシスが優しく微笑んだ。


深い対話の力

「でも、どうすればその愛を日常で感じられるようになるのでしょう?」

サリアが尋ねた。

ケペトは愛の力を使いたい衝動を抑えて、別の方法を試してみることにした。


「お二人で、一緒に何か新しいことを始めてみませんか?」


「新しいこと?」


「例えば、一緒に料理を作るとか、散歩をするとか。相手のことを改めて知るような時間を作ってみるんです」

その時、ハトホルが音楽を奏でながら現れた。


「音楽はどうかしら?一緒に歌ったり、踊ったりすると、心が通じ合うのよ」


「でも、私たち、もう若くないし…」

カイが照れた。


「愛に年齢は関係ないわ」

ハトホルが明るく言った。


「心が若ければ、体だって軽やかになるもの」

実際に、ハトホルが奏でる音楽に合わせて、サリアとカイの表情が少しずつ柔らかくなっていくのが見えた。


「あなた、昔よく一緒に歌ったわね」

サリアが懐かしそうに言った。


「そうだったね。君の歌声、好きだったんだ」

カイも微笑んだ。


愛の調停者の新しい役割

夫婦が帰った後、ケペトは仲間たちと振り返りの時間を持った。


「今日は愛の力をほとんど使わなかったけれど、うまくいったみたいね」


「そうですね」

イシスが頷いた。


「お二人の心の中にあった愛を、言葉と音楽で引き出せました」

「私たちみんなで協力したからね」ハトホルが満足そうに言った。

愛の精霊がくるくる回りながら言った。


「ケペト様の愛の力も大切ですが、みんなの知恵と経験を合わせると、もっと深い愛のお手伝いができるんですね」

ケペトは新しい発見をした気持ちだった。


「愛の調停者って、一人で問題を解決することじゃないのかもしれないわね」


「そうですね」

ホシが現れて言った。

「星座も、一つの星だけでは美しい物語を作れません。たくさんの星が協力して、初めて素晴らしい星座になるんです」


午後の新しい挑戦

午後には、また違った相談者がやってきた。今度は若い女性、リナだった。

「私、誰かを愛したことがないんです」

リナは20歳くらいの美しい女性だったが、表情は寂しげだった。


「周りの友達はみんな恋をしているのに、私だけ何も感じなくて…私っておかしいのでしょうか?」

ケペトは困った。

今まで受けた相談は、愛があるけれど問題があるケースばかりだった。愛そのものを感じられないという相談は初めてだ。


「おかしくなんてありませんよ」

ケペトは優しく答えた。


「人にはそれぞれのペースがあります」


「でも、みんなは『恋は素晴らしい』『愛は人生で一番大切』って言うんです。私には分からなくて、疎外感を感じてしまって…」


その時、ネフティスが現れた。

「私も昔、同じようなことを思ったことがありますよ」


「え?」

リナが驚いた。


「知恵の女神として、理論的に物事を考える癖があって、愛というものがなかなか理解できませんでした」

ネフティスは静かに続けた。


「でも、愛には色々な形があることを学びました。恋愛だけが愛ではないんです」


愛の多様性

「どういう意味ですか?」

リナが興味深そうに尋ねた。


ケペトが説明した。

「友情も愛です。家族への愛もあります。自然への愛、芸術への愛、学問への愛…愛には本当にたくさんの形があるんです」


「そういえば…」

リナが考え込んだ。


「私、本を読むのがとても好きで、図書館にいると幸せな気持ちになります」


「それも愛ですよ」

ネフティスが微笑んだ。


「知識への愛、物語への愛です」


「動物を見ると、とても癒されるんです」

リナが続けた。


「生き物への愛ですね」

イシスが現れて言った。


「とても美しい愛の形です」

リナの表情が明るくなってきた。


「私にも愛があったんですね」


「もちろんです」

ケペトが頷いた。


「そして、そんなあなたなら、きっといつか素敵な恋愛もできるでしょう。焦る必要はないんです」


アケムとの新しい絆

夕方、アケムが神殿を訪れた。最近は婚約者として、ケペトの仕事を手伝うことも多くなった。


「今日はどんな相談がありましたか?」

ケペトは一日の出来事を話した。アケムは真剣に聞いていた。


「愛って、本当に奥が深いんですね」


「そうなの。私も調停者として、まだまだ学ぶことがたくさんあるって実感してる」

二人は神殿の庭園を歩きながら話を続けた。


「ケペト、僕たちの愛も、これからどんな風に変化していくんでしょうね」


「どんな風に変化しても、お互いを大切に思う気持ちは変わらないと思うわ」

アケムがケペトの手を取った。


「僕も同じです。でも、変化を恐れずに、一緒に成長していきたい」


「私も」

二人は星空を見上げた。


「結婚式の準備も少しずつ始めないといけませんね」

アケムが言った。


「そうね。でも、派手な式じゃなくて、みんなの愛に包まれた温かい式にしたいの」


「僕もそう思います」


愛の学びの場

その夜、神殿では神々たちが集まって話し合いをしていた。


「最近の相談内容が複雑になってきましたね」

イシスが指摘した。


「そうですね」

ケペトが頷いた。


「一人で解決するより、みんなの知恵を合わせた方がいい結果が出ることが多いです」


ラーが威厳ある声で言った。

「それは良いことである。愛とは一人で理解できるものではない。多くの経験と知恵が必要だ」


セトが腕を組んで考えた。

「俺たちも、人間の愛について、もっと学ぶ必要があるかもしれないな」


「私たちが学ぶ?」

ハトホルが驚いた。


「そうだ。俺たちは神だが、人間の愛の形は俺たちとは違うこともある。だから、一緒に学んでいけばいいんじゃないか」

アポピスが静かに言った。


「以前の私のように、愛を知らない存在もいます。そういう存在にも、愛の素晴らしさを伝えていけたらいいですね」


ケペトは嬉しくなった。

「みんなで一緒に、愛について学んでいく…素敵ね」


新しい企画

「それなら」

ホシが提案した。


「神殿で愛についての勉強会みたいなものを開いてみませんか?」


「勉強会?」


「はい。いろんな人が集まって、愛の体験を分かち合ったり、悩みを相談し合ったり」

ネフティスが目を輝かせた。


「面白そうですね。愛の図書館みたいなものも作れそうです」


「音楽で愛を表現する会もできるわ」

ハトホルが付け加えた。


「料理で愛を伝える方法も教えられますね」

イシスが微笑んだ。


ケペトは感激した。

「みんな、ありがとう。愛の調停者として、一人でできることには限界があったけれど、みんなと一緒なら、もっと多くの人を幸せにできそう」


愛の精霊がキラキラと光った。

「愛の学校みたいですね!素敵です!」


明日への準備

その夜、ケペトは部屋で一人考えていた。愛の調停者としての新しい役割が見えてきて、心がワクワクしている。

一人で問題を解決するのではなく、みんなで愛について学び合い、支え合う。それが新しい愛の形なのかもしれない。


「愛ちゃん」


「はい?」


「明日から、私たちの愛の学校を始めましょう」


「はい!楽しみです!」

窓の外では星が美しく輝いている。新しい愛の冒険が、明日から始まろうとしていた。


朝の準備

翌朝、神殿では「愛の学校」の準備が始まった。中央広場に椅子を並べ、各神殿では専門分野の準備が進む。


「愛の音楽教室」「愛の料理教室」「愛の星座教室」「愛の図書館」…


ケペトは嬉しそうにその様子を見回した。


「みんな、ありがとう」


「お礼なんて」

イシスが微笑んだ。


「私たちも楽しいですから」


「でも」

セトが少し心配そうに言った。


「うまくいくかな?」


「大丈夫よ」

ケペトが自信を持って答えた。


「愛は分かち合うことで大きくなるもの。きっと素晴らしい学校になるわ」

愛の精霊が嬉しそうに回りながら言った。


「新しい愛の冒険の始まりですね!」

神殿に響く笑い声は、これまで以上に明るく、希望に満ちていた。愛の調停者ケペトの新しい挑戦が、今始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ