表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

4章12話 新しい絆の誓い


音の調和祭から3日が経った。

テーベの街はまだ余韻に包まれていたが、神殿では新たな問題が持ち上がっていた。


「えーっと、今日だけで50人?」

ケペトは神殿の受付で、訪問者の名簿を見ながら困った顔をしていた。


「そうなの」

アケトが苦笑いしながら答える。


「みんな音楽を習いたいって」


「嬉しいけど…でも50人は…」

その時、外から賑やかな声が聞こえてきた。


殺到する人々

神殿の外には長い行列ができていた。老若男女問わず、楽器を持った人たちが順番を待っている。


「おはようございます!」


「今日も練習お願いします!」


「私も参加したいです!」

口々に声をかけられて、ケペトは少し戸惑った。


「あの、皆さん…」


「ケペト様!」

一人の中年女性が前に出てきた。


「あの日の音楽を聞いて、私も音楽を始めたくなりました。教えてください!」


「私もです!」


「僕も!」

次々と声が上がる。その熱意に圧倒されそうになった時、


「みなさん、少し落ち着いてください」

ハトホルが現れた。


「ハトホル様!」

人々がざわめく。


「嬉しいお気持ちはよくわかります。でも、今日はちょっと人数が多すぎて…」


「そうですよね…」

がっかりした表情を見せる人たち。


「でも!」

ハトホルが手を上げる。


「せっかく来ていただいたので、今日は相談会にしませんか?」


「相談会?」


「はい。どんな楽器に興味があるか、どんな音楽をやりたいか、お一人ずつお話を聞かせてください」


個別相談

神殿の中では、神々と人間が協力して相談会を開いていた。


「私、昔から歌が好きだったんです」

一人の若い女性が話している。


「それなら、まず発声練習から始めましょう」

イシスが優しく答える。


「歌は心を込めることが一番大切よ」


別のテーブルでは、

「太鼓をやってみたいんですが、リズム感がなくて…」

中年男性が相談している。


「大丈夫だ」

セトが笑う。


「リズム感なんて後からついてくる。まずは楽しむことだ」


「本当ですか?」


「本当だ。俺だって最初は下手くそだった」


「セト様が?」


「ああ。でも、楽しいから続けられた。それが一番大事なんだ」


アケムの提案

相談会の合間、アケムがケペトに話しかけた。


「ケペト、ちょっと相談があるんですが」


「なんですか?」


「みんなの熱意を見ていて思ったんです。これだけの人が音楽に興味を持ってくれたなら、定期的に集まる場所があった方がいいんじゃないかと」


「定期的に?」


「はい。月に一度でも、みんなで集まって音楽を楽しむ会とか」

ケペトの目が輝いた。


「それ、素敵ですね!でも、場所が…」


「実は、王宮に相談してみたんです」


「王宮に?」


「ええ。王宮の庭園を月に一度使わせてもらえないかと。ネベト様に話したら、とても興味を持ってくださって」


「本当ですか?」


「はい。『街の人たちが音楽で心を一つにするなんて素晴らしい』って」


ネベトの登場

その時、神殿に若い女性が入ってきた。上品な服装から、身分の高い人だとわかる。


「ネベト様!」

アケムが立ち上がる。


「アケム、お疲れ様」

女性─ネベト王女が微笑む。


「噂の神官様にお会いしたくて」


「あ、私です」

ケペトが慌てて頭を下げる。


「ケペトと申します」


「堅くならないで」

ネベトが笑う。


「私も音の調和祭を聞いていたの。本当に素晴らしかった」


「ありがとうございます」


「それで、アケムから聞いたのだけれど、定期的に音楽会を開きたいって?」


「はい、でも、まだ案の段階で…」


「ぜひやりましょう!」

ネベトの目が輝く。


「王宮の庭園、使ってください」


「え?本当ですか?」


「もちろん。条件があるとすれば…」


「条件?」


「私も参加させてください」


王女の想い

「実は私、小さい頃から音楽が大好きだったの」

ネベトが話し始めた。


「でも、王女として、きちんとした音楽教育は受けたけれど…」


「でも?」


「堅苦しくて、楽しくなかったの。でも、この前の音の調和祭を聞いて、『あ、音楽ってこんなに自由で楽しいものだったんだ』って思ったの」


「ネベト様…」


「だから、皆さんと一緒に音楽を楽しみたいんです。身分なんて関係なしに」

ケペトは感動した。

王女でありながら、こんなに純粋な気持ちを持っている。


「もちろんです。一緒に音楽を楽しみましょう」


「本当?ありがとう!」


計画始動

その日の夕方、神々と人間が集まって会議をしていた。


「それじゃあ、月一回の音楽会、正式に始めることにしましょう」

ラーが司会を務める。


「場所は王宮の庭園」


「参加者は制限なし」


「楽器ができなくても、歌えなくても、聞くだけでも参加OK」


「指導は神々と、上達した人たちで協力」


「いいですね」

イシスが頷く。


「みんなで音楽を楽しむ場所」


「名前はどうしましょう?」

ハトホルが提案する。


「うーん…」

みんなが考え込む。


「『心の調和会』はどうですか?」

ケペトが提案した。


「いいね!」


「賛成!」

みんなが拍手する。


「それじゃあ、『心の調和会』で決まりですね」


第一回心の調和会

一週間後、王宮の庭園で第一回心の調和会が開かれた。

「うわあ、綺麗な庭園ですね」


「王宮って初めて入りました」


「緊張します」

集まった人たちは、王宮の美しさに感嘆していた。


「皆さん、ようこそ!」

ネベトが手を振る。

普段着姿で、とても親しみやすい。


「今日は堅苦しいことは抜きです。みんなで音楽を楽しみましょう」

最初は少し緊張していた人たちも、ネベトの気さくな人柄にすぐに打ち解けた。


「それでは、まず簡単な歌から始めましょう」

ハトホルが提案する。


「知ってる歌はありますか?」


「『テーベの朝』は?」


「あ、それなら知ってます」


「私も」

街の人なら誰でも知っている歌だった。


みんなで歌おう

「それでは、『テーベの朝』を歌いましょう」

最初はぽつぽつと歌声が聞こえる程度だった。

でも、だんだんと声が大きくなり、最後にはみんなで大合唱になった。


「素晴らしい!」

ネベトが拍手する。


「みんなで歌うと、こんなに楽しいものなんですね」


「そうでしょう?」

ハトホルが嬉しそうに答える。


「一人で歌うのも素敵だけど、みんなで歌うともっと楽しい」


次に、楽器の演奏。


「できる人から、順番に演奏してみましょう」

最初は上達した人たちが演奏し、初心者は聞いているだけだった。でも、


「あの、私も参加したいです」

一人の老人が手を上げる。


「でも、楽器はできないんです」


「大丈夫よ」

イシスが微笑む。


「手拍子だって立派な楽器よ」


「手拍子?」


「そう。リズムを刻むの。一緒にやってみて」

老人が恐る恐る手を叩く。最初はぎこちなかったが、だんだんとリズムに乗ってきた。


「上手です!」


「私もやってみたい」


「僕も!」

気がつくと、楽器ができない人たちも、手拍子や足拍子で参加していた。


心をつなぐ音楽

演奏が進むにつれて、不思議なことが起こった。

楽器の得意な人も、そうでない人も、自然に一つの音楽になっていく。


「これです」

ケペトが小さくつぶやく。


「これ?」

アケムが聞く。


「本当の音楽。技術じゃなくて、心で作る音楽」

ケペトの力で、みんなの心がゆるやかにつながっていた。

でも、音の調和祭の時ほど強くはない。みんなが自然に、自分の意志で心を開いているからだ。

演奏が終わると、みんなが満足そうな顔をしていた。


「楽しかった」


「また来月もやりましょう」


「今度は、新しい歌も覚えたいです」


アケムとの会話

会が終わった後、ケペトとアケムは庭園を散歩していた。


「今日も素晴らしい会でしたね」アケムが言う。


「はい。みんな、本当に楽しそうでした」


「ケペトさんがいるからですよ」


「そんなことないです。みんなの気持ちが素敵だから」

二人は池のほとりのベンチに座った。夕日が池に映って美しい。


「ケペト」アケムが少し真剣な表情になる。


「はい?」


「あの、僕…ケペトさんともっと一緒にいたいんです」

ケペトの心臓が早く鳴る。


「え…?」


「あ、いえ、変な意味じゃなくて!」

アケムが慌てる。


「その、友達として、もっと色んなことを一緒にやりたいって」


「友達として…」

ケペトは少し寂しそうな表情を見せる。


「あ、でも…」

アケムが赤くなる。


「もし、ケペトさんが嫌じゃなければ…友達以上になれたらいいなって」


「友達以上?」


「その…恋人、とか…」

ケペトの顔が真っ赤になった。


「あ、あの…」


「すみません、急すぎましたか?」


「いえ、そんなことは…」

二人とも恥ずかしくて、しばらく黙ってしまった。


素直な気持ち

「あの」

ケペトが勇気を出して話し始めた。


「私も、アケム君ともっと一緒にいたいです」


「本当ですか?」


「はい。アケム君といると、とても安心するし、楽しいし…」


「僕もです」


「でも、私、恋愛とかよくわからなくて…」


「僕もです」

アケムが笑う。


「でも、一緒に学んでいけばいいんじゃないでしょうか?」


「一緒に?」


「はい。ゆっくりと、お互いのペースで」

ケペトは微笑んだ。


「それなら…お願いします」


「本当ですか?」


「はい」

アケムの顔が明るくなった。


「ありがとうございます。大切にします」


「私こそ、ありがとうございます」

二人の間に、温かい空気が流れた。


神々の反応

神殿に戻ると、神々たちが待っていた。


「おかえりなさい」

イシスが微笑む。


「お疲れ様」


「はい、ありがとうございました」


「どうでした?初めての心の調和会は」

ハトホルが聞く。


「とても良かったです。みんな楽しそうでした」


「それは良かった」

ラーが頷く。


「これで定期的に続けられそうね」


「はい」

その時、セトがにやりと笑った。


「ところで、アケムとはどうだった?」


「え?」

ケペトが赤くなる。


「おや、顔が赤いぞ」


「セト!」


「もしかして、何か進展があったのか?」


「そ、それは…」

みんながケペトを見る。


「あの…」

ケペトが小さな声で言う。


「お付き合いすることになりました」


「やったー!」

ハトホルが飛び上がる。


「おめでとう」

イシスが拍手する。


「良かったじゃないか」

セトがにこりと笑う。


「ケペト、幸せそうね」

ラーが優しく微笑む。


「でも、結婚はまだ早いからな」

ネフティスが茶々を入れる。


「ネフティス!」

みんなが笑った。


音の調和祭の余韻

翌朝、いつものように神殿に向かうケペトの足取りは、いつもより軽やかだった。


「おはようございます!」

元気な挨拶に、街の人たちも笑顔で応える。


「おはよう、ケペト様」


「今日も良い天気ですね」


「次の心の調和会、楽しみにしてます」

温かい声をかけられながら神殿に着くと、みんなが待っていた。


「おはよう、ケペト」


「おはようございます」

そして、少し遅れてアケムもやってきた。


「おはようございます」


「おはよう、アケム君」

二人の挨拶を見て、神々たちが微笑む。


「さて、今日も始めましょうか」

ハトホルが手を叩く。


「今日は何をしましょう?」


「そうですね…」

ケペトが考える。


「今日も、みんなで素敵な一日にしましょう」


「それが一番だな」

セトが笑う。


こうして、神々と人間、そしてケペトとアケムの新しい関係を含めた、新しい調和の日々が始まった。

音の調和祭は終わったが、本当の調和はこれから始まるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ