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プロローグ もしくはテンプレ転生者対応女神のうっかり

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

この作品は四月一日に投稿を開始しました。

不定期投稿の予定ですが、気長におつきあいいただければ幸いです。

「どうか落ち着いて、よくお聞きください。――驚かれるかもしれませんが、あなたは死亡しました」


 神々しく、だが穏やかにいつもの台詞を言い切ると、その存在を見つめる。

 神々の目に人間の外見などほぼ意味を持たない。今もそう――人の知覚レベルに落として表現するならば――、光の球のようなものとしてそれは存在している。


 神に直接相対する栄誉に浴したのだ。五体投地で敬え、祈りを捧げよ、貢ぎ物を持て……、とまでは言わない。

 錯乱する者――中には発狂したように暴れ出す者もいないわけではないが、それは存在自体が脆弱であるというだけのこと。その者自体の罪とするのはやや哀れな気もする。

 ただ、昨今は彼我の存在の格すら認識できぬのか、おこがましくも神を害そうとした者もいたようだ。それにお調子者のアレ(ピー)とかソレ(ッピピー)とかが、邪神ロールプレイとか称して神器をこっそり供与していた事例が発生し、一時期騒然としたこともあった。

 さすがにお調子者連中に批判が集中したせいで、一時期ほど流行りではなくなってはいるというが……。


 どうやら、今回の存在は理性的なようで、光も形もゆらいではいない。


「本来であれば中有(ちゅうう)を旅したのち輪廻の輪へと入るのだそうですが、あなたはその常道を踏み外してしまいました」

「……」

「お気づきではないかもしれませんが、ここはあなたの世界のはるか彼方」

「……」

「もはや、あなたが元の世界に戻ることは不可能です。そして、このままでは魂の消滅も避けられますまい」


 再び言葉を切って注視すれば、その光はわずかに陰ったようだった。


 どんなに冷静を装っていても、絶望を突きつけられて動揺しない人間など、ほとんどいない。

 そこに希望の糸を見せつければ、爆釣りは間違いないというもの。


「ですが、可惜(あたら)人の子の魂を、ただ消滅するままに見送るというのもしのびない(面白くない)。――あたらしき始まりを、あなたにさしあげましょう」


 消滅するところを救ってやったのだから、ありがたく思え。そんな内心を隠して美しく微笑んでみせた。


「あなたからみれば、これからあなたが活躍をされるのは異世界、ということになります。むろん、あなたのいた世界とは勝手も違うでしょう。不満を感じることもあるかもしれませんね」

「……」

「ですが、まだ生に未練がおありなのでしょう?星辰の流れに従わず、こうも大きく道を外れ、このようなところにまで辿(たど)りついたということは、それだけ何か強く求めることがあるのでしょう?それを、この世界でかなえてみてはいかがですか?」

「……」


 存在はわずかにゆらいだようだった。

 だけどそれは、『異世界転生キターッ!』『待ってろマイハーレムっっ!』『成り上がりスローライフでざまあ溺愛ーっ?!』などと、よくわからない思念を撒き散らしながら、喜び勇んで示した先へと突っ込んで、全損炎上していったこれまでの存在とは、比べものにならぬほどの塩反応だった。

 

 いや、むしろ無関心に近い。

 それはまずい……っ!


 ただでさえ昨今はコンプライアンスにうるさいのだ。当人の同意を得ない限り、転生の輪廻に送り込むことも、新しい身体を作ってやって疑似転移をさせることもできない。

 ということは、時間の無駄が増えてしまうということだ。何人異世界に送り込めたかで報酬の決まる出来高制なのに、ただ働き同然の時間ができるなど冗談ではない。

 とっとと仕事を終えて、リラックスできる格好でごろごろだらだらする至福の時間、いや神の刻を盗み去ろうとする者は、たとえ上司であろうと許すまじ……!


 とはいえ、以前罰則を受けた同僚のことがある。

 たしかコミュ障の相手にじれ、極端な接触をしたせいで魂に傷を付けてしまったのだったか。

 そのままではむこうの魂が砕けて無に返ってしまうというので、同僚が受けた罰は転生だった。

 砕けかかった人間の魂を抱え、その傷が癒えるまでずっと記憶を保持したまま、生まれ変わり死に変わり続けなければならないという恐怖の刑罰。

 それを考えれば、さすがに対応ぐらいは考える。


「どうすれば受け入れてくださいますか?」


 対象に上半身を近づけのぞき込む。胸の谷間はアップだが、それ以上下は覗けないよう深淵へSAN値直葬モードにしてある。なお顔は右斜め27度。この角度が一番愛らしく見えるのは確認済みだ。


「……」


 そこまでやってやったのに、反応はない。

 一瞬いらっとしたが、ここはあくまでも親切な神のように接するところだ。


「チートスキルが欲しいんですね?」

「……ぁ」


 小さいが、今度は反応があった。

 やはりここが攻めどころなのは間違いはない。

 ならばためらいなど突き飛ばす勢いで、後押しをくれてやればいいのだ。

 ゆらぎを肯定としてずんずん解釈を推し進め、ハイかYESで答えなさいというのも、応酬としては正しい。罰則の対象にもならないはず。

 

「何を求めますか?」

「……」


 どうやら迷っているようだ。


「なしとげたいことはありますか?」


 したいことがはっきりしていれば、そこから逆算して、必要な武器や能力というものは絞ることができる。

 だがその曖昧な反応を見ると、どうも目的意識というものはないようだ。


「迷うようでしたら、まずはつつがなく生活全般を快適にできるようにしていきましょう」

「……」


 とりあえずは定番で固めていくことにしよう。


「『インベントリ』――自分の手に取ったものを、しまおうと意思するだけでしまえます。容量はそうですね、最初は屋敷一つ分で。大きすぎても持て余すでしょうから、新しい世界に馴染まれるごとに増えるようにしておいてあげましょう」

「……」

「『清潔』は汚れた身体や衣服、持ち物なども自動で綺麗にしてくれるものです。衣服と持ち物は僅かですが、新しくなるようにもなっているので、かなり丈夫になるでしょう」

「……」

「ああもちろん、『健康』は大切ですね。『回復力増加』も必要でしょう。それと『好感』。『魅了』と言うほど強くありませんが、同性にも受け入れられやすく、敵愾心(てきがいしん)(いだ)かれにくくなるものです」


 むしろ『魅了』スキルは厄ネタになりやすい。オレハクワシインダーと別の同僚が荒れていた時があるから、たとえくれと言われても与えるつもりは最初からなかったが。


「あとはそうですね……。あなたが元の世界で身につけてこられた知識と経験、これをもとに決めておきましょう」

「……」

「こちらとこちら、それからこのあたりは『インベントリ』のように、成長するタイプのスキルです。新たに積んだ経験によって、さらに伸びていくことでしょう。転移と転生、どちらがいいですか?――転移ですね。ですが亡くなったときのお身体では……」


 さすがにここまで手間を掛けさせておいて、あっと言う間に逆戻りしてこられては徒労感がひどすぎる。


「そうですね。10代……ええ、では15才ぐらいに調整をいたしましょう。ご要望は以上でよろしいですか?ご質問は?」

「……」


 思ったよりも素直で助かった。内心安堵しながら最後の注意事項を言い渡す。


「新しき世界では、経験こそが輝けるものとなるのです。――もし、あなたの目に不思議な輝きを宿して見えるものがあったら、触れてみるとよろしいでしょう。あなたのかつての知識や経験の欠片もまた、世界には降り注いでいるのです。すべてがあなたのこれからの人生の糧となりましょう」

「……」

「では、よき人生を」


 微笑みも対象が去れば無用のもの。

 きれいさっぱり無表情に戻り、次の作業に取りかかった彼女は気づかなかった。

 先ほどの存在の申し送り事項に『ただし重度認知症あり』と記されていたことに。

認知症又はその疑いによる行方不明者の数は、R5年度で19,039人。

それに対しR6年度におけるトラックによる交通事故の死亡者数は161件。


……転トラ転トラというけれど、認知症による行方不明者の方が100倍以上多いんですがぁ?!

異世界まで徘徊していかないでいただきたい、そんな気持ちでのエイプリルフール始まりです(出来心)。 

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