1話:悪しき装甲を纏うもの③
―― 司令室 ――
「桃枝椿および、狛坂小梅。只今到着いたしました!」
二人が教官に駆け込むと、校長兼司令官と部下たちと同級生たちが険しい表情で整列していた。
『うむ、たった今【もののふ】が現れたとの情報があった。担当地区の警備隊には連絡したが、出動が遅れるようだ。我々がそれまでの間、食い止める事になった。直ちに【装甲】を使える者は出動せよ!』
(椿ちゃん、いきなり実戦になりそうだよー!)
(ある程度の危険はあるけど、倒すのが目的じゃないなら……まだ大丈夫だとは思うけど……)
そうは思いつつも、椿の胸に不安がよぎる。
嫌な予感がする——。
「了解!桃枝椿、出撃します!」
鋭い眼差しで司令官を見つめる椿に続き、小梅も一歩前に出た。
「行くよ、小梅!」
「うん、椿ちゃん!」
二人は司令室を飛び出し、現場へ向かう。
―― 武装庫・装甲展開室 ――
重厚な扉が開き、機械的な音が響く広い空間に入る。
壁には無数の訓練用の【装甲】が収納され、それぞれの装着者を待っていた。
「桃枝椿、【紅陽】、展開!」
「狛坂小梅、【青葉】、展開!」
二人の刀が認証されると、対応する装甲が自動降下。
訓練用の装甲が装着された。
(やっぱり、この装甲を身につけると気が引き締まる……)
(久々の実戦…でも、怖がっていられない!)
装甲のシステム起動を確認し、二人は戦場へと向かう。
―― 市街地近郊 ――
薄暗い空の下、二人は建物の屋上に降り立つ。
地上では、三体の【もののふ】が黒き鎧をまとい、静かに佇んでいた。
無機質な甲冑の隙間から、不気味な鬼火のような光が漏れ、鈍く光る刀をゆっくりと持ち上げる。
まるで時代を超えて蘇った戦国の亡霊——。
(出た……! 【もののふ】……!)
一瞬にして、椿の背筋が凍る。
『グアァァァ……!!』
突如、一体が咆哮を上げ、地を蹴った!
轟音とともに、瓦礫が跳ね上がり、衝撃波が周囲に広がる。
「来る……!」
椿と小梅は即座に刀を構え、装甲を最大展開。
猛スピードで迫るもののふの一撃をかわしながら、椿は刀を振るった。
しかし——。
キィィィンッ!!
もののふの刀が瞬時に応じ、激しい火花を散らす!
強烈な衝撃に、椿は後方へ跳びながら体勢を整えた。
「くっ……! 速い!」
「小梅、気をつけて! こいつら、いつもと動きが違う!」
「分かってる! ……ッ!」
小梅もまた、別のもののふと刃を交えていた。
彼女が斬撃を放つと、もののふは一瞬怯む。
その隙をついて、梅子が鋭い斬撃を繰り出す!
シュバァッ!!
斬撃はもののふの肩口を捉えた——が、貫通しない。
「——なに!?」
それまでの【もののふ】なら、装甲を貫けば停止に至るはずだった。
しかし、この個体はまだ動いていたのだ。
(えっ、嘘……!?)
「小梅、下がって!!」
椿の警告と同時に、別のもののふが背後から迫る。
咄嗟に回避しようとしたが、すでに斬撃の間合い——!
「しまっ……!」
ズバァァァン!!
椿が斬撃を放ち、もののふの一撃を弾き飛ばした。
「助かったよ、ありがとう!」
「お礼は後で! 今はまずこいつらを抑える!」
二人は背中合わせになりながら、四方から迫るもののふたちを見据える。
「今日のもののふは、何か一味違う……」
「うん……それに……背後に、何かもっと恐ろしい気配が……」
椿は不安を振り払うように、刀を強く握る。
そのとき——。
『ギギギ……』
もののふたちが、不自然に静止した。
まるで、誰かの指示を待つように——。
「……ッ!? 椿ちゃん、上!!」
小梅の叫びと同時に、屋上の影がゆらめいた。
視線を上げた瞬間——何かが高速で降下してくる!
ドォォォン!!!
地面に突き立つ巨大な刃。
爆発的な衝撃が走り、瓦礫が舞い上がる。
粉塵の中、黒き鎧を纏った四体目が姿を現した。
他のもののふとは異なり、金色の装甲を見に纏い、その刀身からは禍々しい光が滲んでいる。
「……こいつは……」
椿の背筋に、先ほどまでとは比べ物にならない悪寒が走る。
このもののふは、ただの戦闘兵ではない。
まるで、司令官のように他のもののふを従えている——。
(こいつが……今日の異変の元凶……!?)
「——いくよ、小梅!」
「うん、全力でいくよ!」
二人は一気に跳躍し、新たな敵へ向かって斬りかかる——!