1話:悪しき装甲を纏うもの
「お前らっ!! 女といえど、この学校に入ったからにはしっかり訓練に励むのだ!」
校庭には教官の怒号が響き渡り、訓練生たちはひたすら校庭を走らされている。
現在の訓練メニューは「走り込み」。男女平等を謳う時代ではあるが、このような平等を歓迎する者は少ないだろう。
「はぁ、はぁ、椿ちゃん……疲れない?」
息を切らしながら隣で走るのは三年い組の狛坂小梅。
成績は悪くないが飛び抜けてもおらず、運動能力も平均的な彼女は、どこにでもいそうな普通の女学生だ。
「全然っ! まだまだ余裕だよ!」
元気そうに答えながら軽やかに走るのは桃枝椿。
彼女は学年トップの成績を誇るだけでなく、剣の達人としても知られる美少女で、校内では非公式のファンクラブまで存在しているという噂だ。
「はぁ、椿ちゃんってほんとすごいよね……私なんて全然だし」
「そんなことないよ! 小梅だって【神威装甲】を装着できる才能があるじゃない!」
【神威甲冑】――それは、侍たちに対抗すべく開発された特殊な装備だ。
使用者の身体能力を飛躍的に向上させるこの甲冑を装着するには、成績や体力以上に「適性」が求められる。い組の生徒たちは、その適性を持つ者だけが集められたクラスだ。
「……でもさ、その【神威甲冑】で既にトップの成績を残してる椿ちゃんにそんなこと言われると、なんか嫌味に聞こえちゃうよ」
小梅が自嘲気味に言うと、椿は苦笑いを浮かべた。
「そんなつもりじゃないよ、ただ本当に――」
「私語は慎め!! 3周追加だっ!!」
「ひぃぃっ!」
教官の怒号が飛び、小梅と椿だけが追加で走らされることになった。
二人の背中に夕日が射し、校庭には桜の花びらが舞い散っていた。
―――――
夕日が沈み、薄暗くなった校庭の隅で、ようやく訓練を終えた二人が倒れ込む。
「はぁ……死ぬかと思った……」
地面に大の字になりながら息を整える桃子に、椿は笑顔で水筒を差し出した。
「はい、飲んで。お疲れ様!」
「ありがとう……椿ちゃんは全然平気そうだね。ほんと、同じ人間とは思えないよ……」
「そんなことないよ。小梅だって、この訓練に耐えられてるんだからすごいよ!」
椿は励ますように微笑むが、桃子は返事をせずにじっと夜空を見上げていた。
「ねぇ、椿ちゃん。私、【神威甲冑】を使えるって言われても、やっぱり自信ないよ……」
「どうして?」
「だって、適性があるって言われたって、それを生かせるかどうかは別でしょ? 私、あんな重そうな甲冑を着こなすなんて、できる気がしないよ……」
弱音を吐く小梅に、椿は真剣な表情で答えた。
「小梅、適性があるっていうのは、ただのラッキーじゃないよ。それは『選ばれた』ってこと。自信がなくてもいい、まずはやってみようよ。私は、小梅の可能性を信じてるよ。」
その言葉に小梅は驚き、椿の顔を見つめた。彼女の真剣な目に、少しだけ勇気をもらう。
「……ありがとう。じゃあ、明日の訓練も頑張るよ!」
桃子の口元に少しだけ笑顔が戻った。その瞬間、教官の怒鳴り声が再び響く。
「お前らっ!! 何サボってる! 夜間訓練の準備をしろ!!」
「ひぃぃっ!」
小梅と椿は顔を見合わせた。