孤独を抱く手の温もり
暫くの沈黙が落ちた。
それはほんの数秒のはずなのに、息をすることさえ忘れるほど長く感じた。
胸の奥で、心臓が不規則に鼓動を打つ。
迷いは、確かにあった。けれど――今ここで言わなければ、また決意が揺らいでしまう。
唇を開こうとした瞬間、喉の奥がひどく乾き、掠れた音しか出てこない。
「エ……エドガー様」
震える声が、静寂を裂いた。
自分でも驚くほど頼りない響きだった。
エドガー様はすぐにその異変を察したのか、わずかに眉をひそめる。
その瞳がまっすぐに私を射抜いた瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
――きっと彼は、私が何を言おうとしているのか悟ってしまったのだ。
「待て、ソフィア……」
低く掠れた声。
その声音には、焦燥とも恐怖ともつかない揺らぎがあった。
彼は一歩、私に近づく。
瞳の奥には、必死に何かを訴えようとする光が宿っている。
「私は――」
言葉を紡ぎかけたその瞬間、彼の声がそれを遮った。
「君は今、本当に正常な判断ができる状態じゃない」
息を呑む。私はすぐに首を横に振った。
「いいえ。これは……私の意思です」
声は震えていたが、心は確かだった。
けれど彼は、静かに首を振る。
「いや、ここにいたら危険だ。早く戻ろう」
焦りを隠しきれない声音。
いつもの冷静さは消え、代わりに剥き出しの感情が滲み出ている。
「いいえ……」
その言葉に、彼の顔色がさっと変わった。
理性的だったはずの瞳がわずかに揺れる。
――彼は私を守ろうとしている。
その優しさを知っているからこそ、胸が締めつけられた。
けれど、それでも私は決めたのだ。
エドガー様には、私がいなくても支えてくれる人がいる。
忠実な部下も、可愛い息子も。
けれど――あの人には。
視線を横に向けると、そこに赤い瞳の彼がいた。
微動だにせず、ただまっすぐに私を見つめている。
その瞳は、炎のように赤く、しかしどこか脆く、孤独を覆い隠すような哀しみを湛えていた。
彼の手が、私の手を強く握る。
その温もりは、この世の最後の拠り所のように、離したくないと訴えていた。
――彼には、きっと私しかいない。
彼の過去も、心の闇も、何も知らない。
けれど、「孤独」だけは分かる。
あの空虚な目。
かつての私も、あの目をしていた。
エドガー様、アレクシス、カイル……
彼らに出会って、私はようやく変われた。
けれど彼は、まだその暗闇に取り残されたままだ。
――だから、放っておけない。
その思いだけが、胸の奥で静かに熱を帯びていく。
彼の手がいっそう強くなるたび、私の決意もまた確かなものへと変わっていった。




