絶対に、行かせない
「……エドガー様?」
ソフィアの声はかすかに震えていた。大きく見開かれた瞳が、信じられないものを見たように揺れる。
――もう、その瞳には俺は映っていなかった。
重厚な扉が静かに閉じる音が響いた瞬間、空気が一変する。
廊下から差し込む淡い光が、男の輪郭を際立たせた。
高身長で引き締まった体格、鋭い瞳。
無表情のくせに、存在そのものが空間を支配している。
あの、忌々しい男――エドガー。
胸の奥がざわめき、息が詰まる。
冷たい喪失感が、氷水を浴びせられたみたいに全身を駆け抜けた。
一度知ってしまったこの幸福を、もう失うかもしれない。
その恐怖が、骨の髄まで染みこんでくる。
いやだ……
心の奥で必死に叫ぶ。
何をしてもいい。どんな手を使ってもいい。
彼女と一緒にいたい。
彼女の瞳に映る世界に、俺だけを閉じ込めておきたい。
すべてを差し出せと言われたって、迷いはしない。
「――絶対に、行かせない」
その瞬間、俺はどんな顔をしていたのだろう。
ソフィアの血の気が一気に引き、青白くなっていく。
気がつくと、剣を握りしめていた。
そして、エドガーに向けて突き立てていた。
彼もまた、鋭い目でこちらを射抜く。
「彼女は……俺の宝物だ。
絶対に、渡さない」
その瞬間、彼女は悟ったのかもしれない――
目の前の男は、恐怖する存在なのだ、と。
そんな顔をしていた。
ああ、もう、どう思われたって構わない。
俺は、君が好きだ。
嫌われたって、拒まれたって、それでも傍にいたい。
……ねぇ、そんな俺じゃ、だめ、かな。




