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赤い瞳の婚約者は、私を監禁して幸せそうです



私は、「愛している」という言葉が怖かった。

それを信じれば、裏切られたとき、もう二度と人を信じられなくなる──そんな予感が、心の奥底から離れなかった。


その言葉は、私を陥れ、踏みにじるものなのだと、ずっと思ってきた。

この屋敷で、「愛している」という言葉ほど恐ろしいものは、他になかったから。

だから、好意的な言葉を向ける相手ほど、私は心を固く閉ざしてきた。


そう、これは過去の私の話。

転生の記憶が蘇ってから、ほんの少しだけ気持ちが変わった。

もう、あの頃の何も信じられない自分じゃない──そう思えた。


でも、違った。

私は、まだあの頃の呪縛から抜け出せずにいる。

そのことに、改めて気がついてしまったのだ。


♦︎


「ひいっ……!」

思わず声が出た。


目を開けた瞬間、赤い瞳がじっと、無表情でこちらを覗きこんでいたからだ。

まぶたを開いたその一瞬で飛びこんできたのは、仏頂面と、「話しかけるな」という凄まじい圧力。


──え、だ、誰!?


ベッドの上、横たわるその男の姿に一瞬、思考が止まり、次の瞬間、昨夜の記憶が一気に蘇る。


「あっ……お、大きい声、出してごめんなさい……」

「おい、びっくりするだろ。」


低い声でたしなめられ、私は固まる。

そうだ、私は……屋敷へ連れてこられたのだ。


身支度を終え、「……メイドを呼びます」と呟いて、扉へ目を向けたその瞬間──。


ガチャ、ガチャ、ガチャ。

次々と響く金属音。一つ、二つ、三つ……いや、鍵、多すぎない!?


それはまるで、牢獄の扉が開く音そのものだった。


「朝食をお持ちしました。」

静かに運びこまれる朝食。メイドは一礼し、あっという間に立ち去る。

その後、ゆっくりと後退していく扉の向こうには、ずらりと並ぶ護衛騎士たちの姿があった。


……え、何これ。

もしかして、私たち、閉じ込められてる……?


疑問が形をまとい始めたその瞬間、低い声が後ろから響いた。


「おはよう。さっきは悪かった。」

その次の瞬間、彼の腕が、私をぎゅっと包みこんできた。


「……え!?」

「俺の嫁だし、くっついててもいいよな。」


そう言いながら、まるで猫のように頬をすり寄せてくる。

それは、呆気にとられるほど自然で、満足げで──。


「え、な、何してるの……!?」

「まぁ、結婚式まではここで、ふたりきりだ。ゆっくり仲を深めていこう。」

「……は? え、何言ってるの!?」


「生活に必要なものは全部ある。広いし、退屈もしない。贅沢だってできる。」

「いや、そういうことじゃなくて……! あなた、これ、状況わかってる!?」

「わかってるよ。」


そう言って、彼はほんの少しだけ照れたように頬を掻きながら呟いた。


「俺、恋愛というものをしたことがないから……。ずっと、可愛い嫁をもらうのが夢だったんだ。」


「……はい?」


頭の中で、情報が処理できず、固まる。

可愛い嫁……?

それで、結婚式までここから出られない……って、どういうこと?


え、つまり、今の状況って……?


「つまり、俺の夢が叶っている、というわけだ。」

そう言うと、彼の表情は心底満足そうで、どこまでも嬉しそうで──。


私は、呆然とその姿を見つめながら、言葉を失うしかなかった。

あんな仏頂面から、こんな笑みに変わるなんて、予想できるわけもない。


何なの、これ。どうして私は、こんなヤバそうな男と、

一週間も『監禁同棲』する羽目になっているの?


もはや、意味がわからない。

一体、どんな運命なの、これ……?


この屋敷で、私は──無事でいられるのだろうか。



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