赤い瞳の婚約者は、私を監禁して幸せそうです
私は、「愛している」という言葉が怖かった。
それを信じれば、裏切られたとき、もう二度と人を信じられなくなる──そんな予感が、心の奥底から離れなかった。
その言葉は、私を陥れ、踏みにじるものなのだと、ずっと思ってきた。
この屋敷で、「愛している」という言葉ほど恐ろしいものは、他になかったから。
だから、好意的な言葉を向ける相手ほど、私は心を固く閉ざしてきた。
そう、これは過去の私の話。
転生の記憶が蘇ってから、ほんの少しだけ気持ちが変わった。
もう、あの頃の何も信じられない自分じゃない──そう思えた。
でも、違った。
私は、まだあの頃の呪縛から抜け出せずにいる。
そのことに、改めて気がついてしまったのだ。
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「ひいっ……!」
思わず声が出た。
目を開けた瞬間、赤い瞳がじっと、無表情でこちらを覗きこんでいたからだ。
まぶたを開いたその一瞬で飛びこんできたのは、仏頂面と、「話しかけるな」という凄まじい圧力。
──え、だ、誰!?
ベッドの上、横たわるその男の姿に一瞬、思考が止まり、次の瞬間、昨夜の記憶が一気に蘇る。
「あっ……お、大きい声、出してごめんなさい……」
「おい、びっくりするだろ。」
低い声でたしなめられ、私は固まる。
そうだ、私は……屋敷へ連れてこられたのだ。
身支度を終え、「……メイドを呼びます」と呟いて、扉へ目を向けたその瞬間──。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
次々と響く金属音。一つ、二つ、三つ……いや、鍵、多すぎない!?
それはまるで、牢獄の扉が開く音そのものだった。
「朝食をお持ちしました。」
静かに運びこまれる朝食。メイドは一礼し、あっという間に立ち去る。
その後、ゆっくりと後退していく扉の向こうには、ずらりと並ぶ護衛騎士たちの姿があった。
……え、何これ。
もしかして、私たち、閉じ込められてる……?
疑問が形をまとい始めたその瞬間、低い声が後ろから響いた。
「おはよう。さっきは悪かった。」
その次の瞬間、彼の腕が、私をぎゅっと包みこんできた。
「……え!?」
「俺の嫁だし、くっついててもいいよな。」
そう言いながら、まるで猫のように頬をすり寄せてくる。
それは、呆気にとられるほど自然で、満足げで──。
「え、な、何してるの……!?」
「まぁ、結婚式まではここで、ふたりきりだ。ゆっくり仲を深めていこう。」
「……は? え、何言ってるの!?」
「生活に必要なものは全部ある。広いし、退屈もしない。贅沢だってできる。」
「いや、そういうことじゃなくて……! あなた、これ、状況わかってる!?」
「わかってるよ。」
そう言って、彼はほんの少しだけ照れたように頬を掻きながら呟いた。
「俺、恋愛というものをしたことがないから……。ずっと、可愛い嫁をもらうのが夢だったんだ。」
「……はい?」
頭の中で、情報が処理できず、固まる。
可愛い嫁……?
それで、結婚式までここから出られない……って、どういうこと?
え、つまり、今の状況って……?
「つまり、俺の夢が叶っている、というわけだ。」
そう言うと、彼の表情は心底満足そうで、どこまでも嬉しそうで──。
私は、呆然とその姿を見つめながら、言葉を失うしかなかった。
あんな仏頂面から、こんな笑みに変わるなんて、予想できるわけもない。
何なの、これ。どうして私は、こんなヤバそうな男と、
一週間も『監禁同棲』する羽目になっているの?
もはや、意味がわからない。
一体、どんな運命なの、これ……?
この屋敷で、私は──無事でいられるのだろうか。




