赤髪騎士を味方につける
「おお、ソフィア様! 今日もなんと、太陽さえ嫉妬してしまいそうな、その輝かしいお姿!」
青空を切り裂くように響いたのは、赤い髪がまぶしく目を引く、私の専属騎士・カイルの声。
その存在感に思わず足を止め、振り返る。
(はぁ……また、これか。)
深い息をつくのを抑えきれない。庭を散歩するだけで、ここまで熱のこもった騎士に付きまとわれるなんて、私の人生はいったいどうなってしまったのかしら。
「このカイル・ローレンス、命に代えてもソフィア様をお守りいたします!
草の葉一枚たりとも、ソフィア様に触れさせはしません!」
胸を張って誇らしげに言い切るカイル。
彼の剣には、研ぎ澄まされた意志が宿っているかのように見える。
(どうして、こんなにも全力なの……?)
口元まで出かかった言葉を、私は無理やり飲み込んだ。
今ここで何か言い返せば、彼の熱がますます高まるだけだとわかっているから。
顔には無表情を貼りつけたまま、そっと歩みを再開する。
――こんなことになった原因は、例の「エドガーが突然、騎士をつけると言いだした日」に遡る。
普段と様子がまるで違うエドガーに押し切られる形で、カイルを専属護衛として受け入れてしまった私の“甘さ”が招いた結果なのだ。
あのときの自分に説教してやりたい。
しかし、いまは沈んでいる場合ではないわ。逃亡こそが最優先。
諦めてなるものですか。
(ゲーム本編だと、彼が護衛騎士になってから“甘々イベント”の嵐だったわよね。
好きになった相手には、まさに性格どおりにストレートで情熱的に迫ってくる――そういうタイプなのよね)
よし……カイルを利用してしまおう。
そんな考えがふいに頭をよぎった。
鬱陶しいところは相変わらずだけれど、もし彼と恋愛関係になれば、その熱意に乗じて私を国外へ逃がしてくれるかもしれない――そう、悪くない手ではないわ。
つまり、私が一人きりで国外逃亡を図るより、彼をうまく味方につけた方が安全かもしれない。
――問題は、どうやってカイルを完全に取り込むか、ということ。
考えを巡らせていると、私は思わず立ち止まっていた。
「ソフィア様、大丈夫ですか?」
背後から、カイルの心配そうな声がする。
その瞬間、私は静かに決心した。演じればいいのだ。儚げでか弱い乙女を――“守ってあげたくなる女性”を、ここでひとつ演じてみせる。
ゆっくり振り向くと、カイルの方へ目を向けた。
瞳をわずかに潤ませるように意識し、声を震わせながら切り出す。
一歩だけ、そっと近づいて。
「カイル、実は……」
この作戦なら、きっと……。
だが、その刹那。
「母上。」
まるで足元から響いてくるかのような、低く澄んだ声。
息が止まるほど驚いて視線を落とすと、そこには――私の義理の息子、アレクシスが立っていた。