鬱展開が嫌だと言ったら命を司る存在になったので、とりあえず燃やしてみる
命を司る神の鳥になったので、死んでも動く輩を燃やしてみた
調子に乗っておかわりです。
シリーズにしましたので、前の話が気になる方はそちらからどうぞ。
「ア゛……、ア゛ア゛……」
「あ、あれです! 冒険者の皆さん! と……、前村長の姿で毎晩うろつく怪物は……!」
「へっ! どこの低級霊だか知らねぇが、俺達に出会ったのが運の尽きだぜ!」
「安らかな眠りを妨げる悪霊よ! 成敗いたしますわ!」
「ぅ、うわ……」
案内した村長の言葉に、意気上がる冒険者達。
対象的に、駆け出しテイマーであるカドリーが怯えた声を漏らす。
相手は動く死体。
土気色をした人が、緩慢な動きとはいえうめき声を上げながら迫ってくるのだ。
十歳前後のカドリーが怯えても、誰も責められはしないだろう。
「安心しろ坊主。相手は所詮低級霊が操る人形みてぇなもんだ。動きも遅ぇし、魔法を使う訳でもねぇ」
「それにね、身体と魂の結び付きが弱いから、浄化の祈りで簡単に分離できるのよ!」
カドリーの頭を優しく撫でた男戦士が大楯を手に前に立ち、女聖職者が祈りを捧げ始める。
普通ならばこれで解決するだろう。
だが。
「っ!? は、弾かれましたわ!」
「何だと!? ……まさか……!」
二人の上げた声に応えるように、木陰から人影が現れた。
「くくく、残念でしたね。その程度の祈りではどうにもなりません。何せこの死体を動かしているのは、私が降霊術で呼び寄せた本人の魂なのですから!」
黒いローブをまとった痩せた男の言葉に、冒険者達は悔しげに顔を歪める。
「……くっ、本人の魂が動かしているとなれば、身体を破壊するしかない、が……」
「そんな二度も死を与えるような残酷な事を、しかも息子さんの前でしなければならないなんて……!」
「父さん……!」
場が絶望で満ちようとした時。
「……こんなの、かわいそうだよ……!」
カドリーが思いを口にした。
「ビレジさん、お父さんが大好きで、村の人もお父さんを大好きだったって言ってた……! そんなお父さんの姿で村の人をおどかすのが許せないって……!」
カドリーの心に力が満ちる。
「だから、助けたい! ビレジさんも、お父さんも……!」
依頼人とその家族を思う気持ちが、まるで堰を切った川のようにあふれ出し、流れ込んでくる。
我が主がそう望むのならば。
『よし、燃やすか』
「え!? ……ちょっとラヴァ……! それはひどすぎるんじゃ……!」
俺の念話に小声で抗議するカドリーを尻目に肩から飛び立つと、依頼人の父に赫い炎を放つ。
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
「わあああぁぁぁ! 父さあああぁぁぁん!」
「坊主! あの小鳥に何をさせたんだ!」
「い、いくら何でもこれはひどすぎますわ……!」
「あの、えっと……」
冒険者達に詰め寄られるカドリー。
だがその空気は、あっさりと打ち砕かれる。
「……ここは……? ワシは確か領主様に直訴した罪で、毒を飲んだはず……。いや、その後も墓地を歩いていたような……?」
「……父さん!? 父さあああぁぁぁん!」
「わ!? チエフ!? 何だ抱き付いたりして! ばっかもーん! いい年して恥ずかしいと思わんのかこのバカ息子! これでは安心して引退もできん!」
「あぁ父さんだ! この叱り方! 間違いなく父さんだ!」
「ち、チエフ! 何なんだ一体!」
「……え……?」
「……何が、どうなっていますの……?」
父親にすがりつき、涙を流す依頼人。
状況がわからない、元村長の父親。
あっけに取られる冒険者。
そして、
「な、何なんだお前! なぜ死んだはずの村長が自我を取り戻しているんだ!? 動物実験を繰り返し、やっと手に入ったこの身体と魂でもダメだったのに!」
木陰から飛び出し、先の余裕をかなぐり捨てて、俺が肩に戻ったカドリーに詰め寄る黒ローブの男。
男戦士と女聖職者が我に返ったらボコボコにされるというのに、そんな事は頭の片隅にもないらしい
「え、あ、あの、このラヴァが、ぼ、僕が使役してるんですけど、何か不思議な力を持ってて……」
「ならばこの鳥はあのような奇跡をまた起こせるのか!? 今魂をつなぎ止めている我が妻を蘇らせる事ができるのか!?」
「え、えっと、どうかはわからないけど……」
ちらっと俺を見るカドリー。
まったく、自身の身内の蘇生のためとはいえ、他人の親を実験台にするような外道なのに、カドリーの心は真っ直ぐに「この人を助けたい」と響いている。
ならば俺の答えは一つだ。
『案内してもらえ』
「……うん!」
こうして人騒がせな事件は幕を閉じた。
風の噂では、村に一組の夫婦が移住してきたそうだ。
亭主は歓迎されながらも何かにつけて村人に小突かれながら、事故の怪我で家にこもっていたという美人の嫁さんと、畑仕事に精を出していると聞いた。
そういえば欲張りと有名な彼の地の領主が、何故か大幅な減税を検討しているらしい。
「はぁ、お腹空いた……」
『そこの木の実は少し酸っぱいが食べられるぞ』
「ほんと!? ……うん! 酸っぱいけど美味しい!」
その全てが自分の手柄になっている事を、果実を無邪気にほおばるカドリーはまだ知らない。
読了ありがとうございます。
魂の救済?
別に、アイツを生き返らせてしまっても構わんのだろう?
アッハイ。
そんなあれな話ですが、楽しんでもらえましたら幸いです。