混乱中
佐久間さんの言う多重人格と作り出したというのは絶対違う。19年別人で生きた記憶があるし。もしかして事故で魂が抜けて、この体の人格を押し退けて自分が入っちゃってるんじゃないだろうか?
側から見れば他人格が喋れば多重人格に見えるよね?体の奥に本人の魂が眠ってればその内出てくるのかな?いや、それはそれでどうしようだけど....でもそうじゃ無くて、魂押しのけちゃって自分と入れ替わってる可能性は?
なんか、なんとなくだけどそっちがしっくりくる。
「あの、自分?は雷事故で倒れたんですよね?じゃあ同じ頃バスの事故が有りませんか?」
「うーん?そんな大きな事故があればnewsに出るけど、記憶にないな。今は蓮のnewsで持ちきりだよ。」
佐久間さんは何か板のようなものを触った。するとベッド横の物凄い薄い機械、(テレビ?)がついた。
<続いては、人気アイドルグループ ルミエールのメンバーで、望月蓮さんが深夜コンサートのリハーサル中に雷にうたれた事故で、2週間後のコンサートに出演が危ぶまれる事態になりました。望月さんは命に危険は無いものの、現在意識が無く、関係各所では対応に追われています。>
画面にはさっき鏡で見た顔が歌って踊ってる姿が映っていた。
「うわあ凄い」
それは何て綺麗なんだろう。3人の洗練された動きが凄くてため息が出る。それにカラーが凄い鮮明で驚きだった。
「あの、この病院は凄いテレビを使ってるんですね。こんなに薄くてカラーテレビが綺麗なのは初めて見ました!音も凄いし、佐久間さんの持ってる板でテレビが付いたように見えました。それってリモートコントロールとかいうテレビ付ける機械ですか?まだ周りで使ってる家が無くて、便利ですね。」
「ぷっ板って」
私は素直な感想を述べたまでなのだが佐久間さんの反応は微妙な顔をしている。
「あの....私変なこと言いました?」
「いや、すまない。いつもの蓮とのギャップがすごくて。それに令和の時代にテレビにそこまで感動したの見たのは初めてで驚いたんだよ。はは」
--ん?....レイワ?....reiwa?
「あの、レイワって言いました? レイワって....今は昭和54年ですよね?」
「今は2025年 令和7、10月20日。蓮は丸一日寝てたんだ」
ちーん...思考が止まる。
「ご、ご冗談を」
「蓮...ほんとに別人格なんだな。2009年生まれなのに昭和の事よく知ってるもんだ」
佐久間さんは私の事をマジマジ見つめてうなづく。
あ、これ冗談じゃない。本心から言ってる。...も、...ムリ
「え?おい!蓮!....レン!!」
ただでさえ混乱していた頭がとうとうショートをおこして意識を離した。
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次に目が覚めたとき、手には荷物。病院の裏口、芸能事務所の車に乗り込むところだった。いや、正確には倒れて直ぐ起きたらしいが、ずっと夢うつつの感じだったらしい。そしてその状態で検査をし、右足に枝状の火傷が出来てしまったくらいで(一生残る傷ではあるが)、異常無しだった事から1泊して、計3日で退院の運びになった。そして現在。激しいカメラのシャッター音が響く。
「蓮さん退院おめでとうございます。」
「蓮さん!一時意識が無かったようですが、芸能活動再開はできそうでしょうか?」
「記者会見は開きますか?!」
カシャカシャ、次々とフラッシュがたかれる。
「すみません。まだこれからの事何も決まっていませんので後日発表させていただきます。蓮もまだ話せる状態ではありません。御理解ください。では!!」
ルミエールのマネージャーだと言う背の高いお姉さん『かなこさん』が容赦なく記者を押し退けスライドドアを閉める。
「あゝもう!病院の裏口から出たのにこんなに記者が居るなんて!もうちょっとセキュリティしっかりして欲しいわ」
かなこマネージャーがイライラを野太い声でがなる。その声におや?と思う。
「あの...かなこさんは その、..男の.......いえ女の人でしょうか? あ!ごめんなさい」私は慌てて口を抑えた。こういうのは聞かれたら嫌だろうに聞いてしまった。
「あっははは。そ、私男だったの!でももう手術して女になったのよ。声帯手術はまだだから声は太いけど、戸籍も変えたかられっきとしたお・ん・な♩」
「!!!」
衝撃だった。手術して女になれるのも驚きだが、戸籍も【女】?そんなことがレイワでは許されるのか?
「あの、この時代は戸籍も変えられるんですか?」
私は前のめりに迫る。
「え、ええ。でも条件があるわ。とりあえず事務所に戻りながらこれからの事も話しましょう。」
車がゆっくり動き出した。
「---それでさっきの話だけれど、戸籍変更はまず生殖器官の手術が絶対なの。20歳以上で、って今は18歳以上か?生殖機能を無くすこと、変わりたい性別に近い性器にすること。婚姻していない事。未成年の子供がいない事。それと医師2名の診断書が必要よ。」
「へー、子供のこと考えなければ出来そうですね。」
私はふむふむとうなづく。
「やっぱり蓮くんはジェンダーだったのかしら?私がルミエールのマネージャーになった時そうじゃ無いかと思ってたのよ」かなこさんは前のめりに見つめられる。
「い、いや、あの、え..っと....ジェンダー?---心と体が合わないと言う意味では身体の持ち主の蓮はそうだったかも知れないですが、今の私は女になりたかったのでこれでいいと言うか希望が叶ったと言うべきか?」
「ああーー、多重人格かあ。難しいわね。前の蓮が希望してルミエールで男として頑張っていたなら、今の貴方はどうしたい?」
「え?」
「仕事よ。仕事。とりあえずどうしても外せない残ってる仕事はこなして貰うけど、そのあとルミエールはどうするのかって聞いてるの?」
「私は...」
ーー私はどうしたらいいんだろう。
この身体は自分のものでは無い。だから元に戻らなきゃダメだ。探さなきゃいけない。でもどうやって? 時代も違う。知り合いは生きてるだろうか?
「私..は、どう、どうしたらいいんでしょう...ね?」
まだ頭がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
キッと車が止まった
「ごめんなさい。まだそこまでどうしたいか考えられてなかったのね。さ、事務所に着いたわ。とりあえず社長と副社長に会って、これからの事話し合いましょう」
「はい」
私は目の前のビルを見上げた。すごく立派なビルだ。