カールとリース
木工ギルドでの仕事を終えたあと昼まで兄さんの所で作業を眺めてお昼を一緒に食べてから冒険者ギルドへ。兄さんに指名依頼された事を話したら『負けてられないな』って笑ってくれたんだよな。爽やかイケメンめ。俺は母よりで一応愛嬌がある顔なのだろうが、、、。普通である。
昼に冒険者ギルドの受付に行くとやはり人は少ない時間帯だが一つの集団が目に入る。机を挟んで向かい合って座っている。片方が1人で片方は4人くらい。明らかにアレ、面接だな。って横目に見てたらそのまま地下に行くように言われたので大人しく地下に行く。
そこにはギルマスとカールさんが居た。
「こんにちは、お待たせしました。」
「おう。来たか。指名依頼、受けたんだろ」
「はい。ギルマスが先に一緒に来てくれる話をしてくれたおかげですんなり。ありがとうございます。」
「とりあえず1年しっかりやんな。これで依頼回数はこなせるだろうし、それ以外は修行出来るわけだ。」
「うぐ。結構筋肉痛が、、、」
「とりあえず柔軟から始めるぞー」
無視かい!
「、、、アレク君、聞きたいんだが火や水魔法は生活で上がるのは分かるんだが、土魔法はどうやってあげたんだ?」
「あ、アレクでいいですカールさん、よろしくお願いします。土魔法は広場で遊んでたら上がりました」
「広場で遊んでただ?どうやって?」
ギルドマスターがキョトンとした顔で聞いてくる。
「見ててください」
両手を地面に翳してまず砂をかき集めるイメージをすると地面にぐるぐると渦を巻きながらみるみる土の山ができ始める。あとは粘土と同じように水魔法でとりあえず押し固めていく。自分と同じくらいの量の土山をあっという間に作る。
「こんな感じで水魔法と土魔法を使って固めてから兄が手を加えて色んな建物の形などで整えていってました。継ぎ足したりして。」
ポンと出来上がった土山に手をついてカールさんに見せる
「、、、なるほど、砂や土の扱いにはもってこいだな。普通の子供だと魔力量の加減で難しいだろうが遊べるほどあるならこれだけだと逆に物足りなかっただろう」
「ほーぅ。こんな感じで鍛えるのもありなのか」
「、、、土魔法の基本は出来そうだな。俺が得意としてるのはどちらかと言えば守りの魔法。その容量でいいからもう少し量を多くして岩のように硬い壁を想像して『ストーンウォール』作ってみな」
「はい。」
両手をさっきの山にかざす。かっちかちのコンクリートの壁。セメントの壁。自分より高く、分厚い。
『ストーンウォール』
《ドゴンッ》って音がして一瞬山が消えたと思ったら下からグンと土壁が。
「、、、少しみるぞ」
と言ってカールさんが壁に手を当てて腰を落とす。
「、、、フンッ」
ドカンッて音がしてパラパラと崩れ落ちる壁。
「、、、初めてにしてはなかなかの強度だ。正直もっとやわらかいと思ったが」
「す、素手で、、、」
「カールは盾役だけじゃなく、体術も得意だからな。護身はカールから学びな。対人は大事だぞ。」
「、、、ちなみに俺が作ると『ストーンウォール』触ってみな」
先ほどよりデカく分厚い壁が出来上がる。これこそ、コンクリートでは、、、???
「どうだカール、俺的にはここでやるよか実戦積ませたほうが早いと思うんだ」
「、、、確かに初歩の魔法の威力も申し分無しいし『ストーンウォール』も一回で使えたことを思えば魔法のコントロールもいい。ここでは体力作りと体術が中心でいいと思うが。そうなると、、、」
「あぁ、リースだろうな。」
「、、、本気出して帰ってくるなら三日後くらいにはこっちに着くだろう?どうするんだ?」
「もちろん、とりあえず殴るが?場合によってはお前も覚悟しとけ」
「、、、まぁ、今回は俺も参加するさ。流石にかばいきれん」
「さて。じゃあ今日はカールに任せるぞ」
そう言ってギルマスは上に上がって行った
「、、、俺も夕方ごろには買取口が混み合うから今日はそれまでよろしくな」
「お、お手柔らかにお願いします」
その日カールさんから教わったのはほぼ現代で言う護身術のようなものだった。相手が素手の時、武器を持ってた時、魔法を使って来た時。あらゆる場面に遭遇した時にはどうすればいいか。意外と楽しかった。想像してた激しい運動とかじゃなくあくまで話しながらゆっくり教えてくれたのは昨日結構動いたのを考慮してくれたのかもしれない。今後はもっと詳しくより実戦的に教えてくれるそう。結構口下手ではあるけど、教え方を端折ることは無い。どちらかと言えば《必要ないことは喋らない》といった人なのだろうな。
休憩するかと端に置いてある長椅子に座ってアイテムボックスからお茶が入った水筒を出す。ただの木の筒だけどアイテムボックスの中なら逆さになるような事もないし現代のパッキンなんてないから便利だ。木のコップも湯呑みに近い形にしてもらった。ちなみに兄作である。中身はほうじ茶だ。
「良かったらどうぞ」
「、、、やたら茶色いな」
「ほうじ茶って言うお茶の種類なんです。暖かくしても美味しいんですよ」
「、、、ふむ。これは美味しいな。ずいぶん前に貴族の家に招待された時に出された物とは違うようだが」
「え、それ、どんなのでした?」
「、、、覚えていないが俺はあまり好ましくなかったな。ミラースやサーレは気に入っていたようだが、、、」
「??」
「、、、ああ、ミラースはラインズの妻でサーレも元チームメンバーだ。確か、『テイチャ』の葉がどうとか言っていたな。」
「これはトウ木の葉を乾燥させた物を熱湯でこして氷魔法で冷まして作ってるんです。3種類くらいあるんですけどその一つですよ。」
「、、、なるほど、落ち着くな」
今度温かいお茶も提供しよう。そしてまだみぬお茶。女性陣に人気な上に貴族で出される嗜好品と考えるともしかしたら紅茶かもしれない。
「カールさん、リースさんってどんな人ですか?」
この際だちょっと聞いておこう。
「、、、俺とリースは似てないぞ。俺の母が早くに亡くなって、父と再婚相手の子がリースだ。あいつは母親似で10個年下でよく喋る。仲は良いとは思う。チームを作った時も、解散した時も、ラインズや俺の下以外には付きたくないし、かと言って自分1人で旅するのも頭張るのも嫌だと言ってついてきちまったような奴だ。書類仕事はラインズも俺も苦手だからそのまま副ギルドマスターとしてちょうど良かったんだが。まぁ、魔法や魔法具の事となると今回のように没頭してしちまうのがなぁ、、、」
「そうだったんですね。、、、魔法具ってギルドの連絡用の水晶のような物ですか?」
「ああ、今はなんだったか。食材を保存する箱などの小型化だったか、、、今朝に隣町の商会ギルドから連絡が来ててな。昨日凄い勢いで帰って行ったそうだ。勧誘の件も上がってきてて、正直、今回の件で魔法具商会に入れば良いんじゃないのかってラインズが本気で考えてるみたいだから荒れるかもしれないな」
「あー、、、そうだったんですね。流石に1ヶ月空けたのはまずいと思っちゃったんですかね」
「いや?たぶん勧誘の件が嫌になって逃げてきたんだろう。その話を出した途端『帰る』と叫んでいなくなったそうだ」
「え。」
「それにもしかしてどこからか君の事も耳に入ったのかもしれない。全属性の【特異】持ち、10歳にして既にB適性が2つ、スキルにも恵まれてる。」
「、、、リースさん自身、全属性持ちの【特異】に当たらないんですか?Aランカーってことは相当優秀なんじゃ、、、」
「、、、本人自身、Sにこだわっていてな、、、当時も魔法に関しては誰よりも熱心だったし、そこら辺はラインズも俺も信頼してるし、押し上げてやりたかったから良く修行に付き合ってたよ。威力が上がるたびにランクが上がらない事に落ち込んでたな。逆に3年経っても魔法ランクを維持してるのはあいつだけだよ」
ちょっと嬉しそうに話すカールさんを見ると本当に仲が良い兄弟のようだ。
「、、、リースさん、魔法商会の方が合ってると思いますか?」
「、、、アレクはいずれ知るだろうから言うが。あいつは人を選んでしまうんだ。仕事や趣味に関わる事以外、信頼した相手じゃないと態度にでちまう。向こうだとその場の研究員と議論したりはするが普通の雑談なんかは一言も喋らないだろうな。俺らの前じゃ子供、、、アレクの方が大人かもしれないな、、、まぁ、まだこっちのギルドじゃ冒険者や街の依頼人相手の依頼内容確認だとかの連絡事項や処理能力は高いんだ。、、、会えばわかるよ。先に言っとくが、本当に根は悪い奴じゃないんだ」
よく喋るのに本当に喋らなくなるんなら態度が違ってくるのもそうなのだろう。
「ちなみにお二人はおいくつですか?」
「俺は45でリースは35だ。解散した時散々まだ若いから冒険者続けてた方が良いって説得したんだけどな。そもそもここはラインズの故郷なんだ。俺も良い歳だったし相棒について来たんだよ。とりあえずアレクは明日の午前中だけ顔出してくれ」
「分かりました」
それからしばらくまた教えてもらってから家に帰る。2日後、ちょっとした事件が起きるのだけど。
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