職人テスト
さぁ、今日は兄の成人祝い兼職人テスト?です。あれだけの物を作れたんだから俺は心配してない。今日の夜はそのまま家族で外食する予定。南地区の食堂で食べようって事になった。兄は母にもあの棚を見せたいらしく父も了承して家族で総出で木工ギルドへ。
受付の建屋へ入ると受付嬢2人と応接席にレイブンさんとトビーさんが向かい合って座っていた。
レ「お、クララじゃねぇーか。久しぶりだな!アランの品見にきたのか?坊主もよく来たな!」
ト「お久しぶりですね、クララさん、元気そうで何より」
お久しぶりですと挨拶する母さん
「母さん達、知り合いだったんだ?」
レ「何だ、教えてなかったのか?坊主、クララは昔うちの受付嬢だったんだ。」
え!職場内恋愛だったの!?!?
母「あら?アレクには話してなかったかしら」
朝から衝撃である、、、父さん、職場内恋愛だったのね、、、
ト「まずアラン君、成人おめでとう。お披露目の品、期待してますよ」
レ「じゃあ早速見に行くか」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
朝からちょっと緊張気味の兄、珍しい姿である。
家族総出+マスター達がゾロゾロと移動すると何と他の職人さん達や見習いの人も集まってた。こりゃ緊張するわな。
兄は自室の小部屋を開けると前見た所にある棚に布がかけられてあった。
「マスター、お願いします」
「見させてもらう」
バサっとマスターが布をめくって出てくる棚。おぉ、と周りが呟く中で副マスターが話しかける。
ト「商品棚のようですね。何故これにしたか聞かせてもらっても?」
「自分の作ってみたい物、やってみたいこと、自分の得意な事をコレに詰め込みました。商品棚と決めつけるだけでなく、単純に棚としても丈夫で長持ちする木を選んで組み立てて、『味も』買ってくれた人と成長する様に願いを込めました。」
マスターが無言で棚を見ている。さっきまでとは違い真剣な表情は厳しいものだった。まさか、このクオリティでダメなのか??
「触るぞ」
「はい」
マスターが棚の至る所を触る。結構大きめの棚だけどひょいって持ち上げてみたり、下の収納扉を開け閉めしたり、ポケットから丸い球を取り出して棚の中央に置いてみたり。
そうだよな。お客さんは見た目だけで買う訳じゃない。立て付けが悪かったり微妙に斜めになってたりしたら嫌だもんな。
「、、、トビー、この棚は商人ギルドの大店か貴族向けとして売り出せる。最低金貨15枚。それ以下は売らない。細かい取り決めはお前に任せる」
「畏まりました。おめでとう、アラン」
わぁ!と周りから祝福の声が上がる。父さんもどこかホッとして、母さんは兄に抱きついて嫌がられてる。
「いやしかし、やたら値が張る木を集めてるとは思ったがよくできてんじゃねぇか。扉んとこの飾り模様、貴族の眼にも留まるだろうよ」
さっきとはうってかわってガハハと笑うレイブンさん。変わりすぎやしないか?
「そうですね、ここからは私の腕の見せ所です。うちの期待の新人の初作品だ。良い値で売り出しますよ」
ニコニコ笑ってるトビーさんはきっと凄い値段で売ってくれそう。きっと最低値だけマスターが決めて、そこから底上げして行くのだろう。兄の為に頑張ってくれ、トビーさん。
そして俺はアイテムボックスから例のアレを出す。
「おめでとう!兄ちゃん、コレ、俺からの祝いの品だよ!開けてみて!」
「え?くれるの?、、、まさかこの前の」
「いいから!開けてみて!」
兄が箱を開ける。母さんは知ってたけど、父さんには「いい物が見つかった」としか報告してないからね。父も気になったのか後ろから見てくる。てか、この場で渡しちゃったからみんなの注目を浴びてる。
「これ、、、高かったんじゃないか?」
と言って箱から取り出す。
レ「ほう!鉋じゃねぇか!」
兄が嬉しそうにしてくれている。それだけで買ってよかった。
父さんはちょっと驚いてて兄さんの持つ鉋を見てる。周りも「よかったな」とか「いいね」って声が上がって照れ臭い。けど1人だけ固まってる人がいたんだ。
ト「、、、すみません、アラン君、アレク君少し見せてもらっても?」
「アレク、いい?」と俺に確認してくる兄さん
「もう兄さんのだよ」と軽く笑って頷くとトビーさんに鉋を渡す。
「ありがとうございます」
と言ってすぐさま鉋をひっくり返して鉋の刃の裏側をじっと見るトビーさん。
「なんでぃ、トビーどうかしたのか」
「、、、名工、ダリアスの品です」
シンっと静まり返る工場。
あ、これまずいかもしれない。
「、、、おいおい、どうしたトビーいくらなんでもダリアスの品を坊主が買えるわけないだろう」
「いえ、この複雑な印はダリアスにしか打てません。これはどこで、いくらでお買い求めに?」
とそのままレイブンさんに見せるトビー。あのレイブンさんが固まっちゃった。
「ひ、東の露店売り場で、母と一緒に祝いの品を探してる時に、ドワーフの人から買いました。その人が前に作った品で納得いかない物だから本来なら売り物にしない様な物だけど売りに出す事にしたらしいです...兄の成人祝いの品を探してるって伝えたら銀貨8枚で売ってくれて」
「「「「「銀貨8枚!?!?!?」」」」
「、、、この街の鍛治師でドワーフと言えば数名しか居ないはず。名工相手の贋作は考えにくい。あ、そこ、今から露店に行こうとしても無駄ですよ。もういないでしょうし、ダリアスは滅多なことがない限り工房から出ないし、そもそも普通の依頼でもお客様を選んでらっしゃるみたいだから諦めなさい。これをダリアスの品と知らずに買ったのならきっとそう言う事でしょう。とりあえずアラン、これは大切に使いなさい。アレク君も、本来なら5倍と言っても過言ではない買い物ですよ」
それからわいのわいのどこら辺にいたやら、どんな見た目してたやら、あとどんなのが売ってたのかと質問攻めだった。
父さんが、兄さんに後で使わせてくれってこっそり言ってた気がした。
その後、母と俺は夕方までの間どうしようかって話になって一度家に帰ってからまたここにくる事になった。ちょっとここから離れたかったのもあるから大賛成だ。
しかし、やっぱりあのドワーフのおっちゃん、すごい人だったんだな。
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