アフターハートⅠ
人が寄り付かない日本国内のとある廃工場。
そこにはハートの仮拠点があった。
「おい! 早く治せ!」
「ひぃ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
その一室でアイズが荒れていた。
そんな彼女に怒鳴られて泣き出しそうになっているのは、ハートの8であるルーナ・エクティスだ。
目の下にはクマが出来ており、伸びっぱなしで手入れのされていないボサボサの紫色の髪。2サイズ大きいダボダボの白衣を羽織っており、その下には着古して所々に穴の開いた灰色のシャツを着ている。
彼女ももちろん魔女である。年齢は今年で26になる。
「腕は回収してきた。早くくっつけてくれ」
「あ、あのあの、わ、私、医者じゃないんです、けど……科学者なんです、けど……その、すみません……」
「なんでもいいから、さっさとやってくれ!」
「は、はい……すみませんすみませんすみません。や、やりますよぉ……だから、そんなに怒鳴らないでくださいぃ……」
ルーナは『私の方が年上なのに……』とブツブツと呟きながら、魔法で切断されたアイズの腕をくっつける作業に入る。
その間、アイズは燕時と最後にやり取りをした時のことを思い出す。
*
「じゃ、君はここで死んでもらおうか」
満身創痍のアイズに避ける余裕などなかった。
だから、そのまま燕時がクナイを持った手を彼女の首元に突きつければ、簡単に命を奪える。
そんな状況だった。
「ま、待って! ……下さい…………」
だが、それを止めるか細い声が2人の頭上から響いた。
見上げるとシェアハウスの2階からゼラがビクビク怯えながら2人のことを見下ろしていた。
「ひ、人殺し……は、ダメだと、思います。で、ですから、あ、あの……もう、その辺で……あの、お願い、します……はい……」
途切れ途切れではあるがゼラは勇気を振り絞ってそう言い切った。
その直後、精神力を使い切ったのか、倒れてしまったようだ。
「あの子が殺すなというなら、仕方ないね。今回は見逃してあげるよ」
「っ! ふざけるな!あの女に庇われて、生き残りたくなんかない! それなら死んだほうがマシだ! ……こっちはもう……戻れないところまで来ちまったんだよ……」
大声で叫んだあと、一気に声のトーンを落とし、項垂れる。
「残念ながら、ここは君の死に場所じゃない。この先、君が死ぬことになろうとも、生き永らえるにしても、その分岐点はここじゃない。それが出来るのはきっと彼と彼女だ。だから、今回はこのまま帰ってくれ」
「……ぁ……っく」
アイズは心を揺さぶられる。
だって、何故なら。
燕時が膝をつきながら、頭を下げた。
「…………次だ」
アイズは落ちた腕を拾い上げる。
「次は必ず殺す。いいな」
それだけ言い残し、その場から撤退した。
*
「っち! クソ!」
ルーナに腕を治してもらったアイズはイライラしながらも、幹部たちがいる奥の部屋へと入る。
「腕が治ったから、事後報告会に来てやったんだが……」
と、アイズは中に入って声も出していたのだが、彼女に目を向けず、別の話題できゃっきゃっ盛り上がっていた。
そこには培養液に浸かり治療を受けているハートの魔王候補とその部下であるエリザベート、そしてクリームヒルトがいた。
そこではなにやらガールズトークが繰り広げられているようだ。




