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(仮)転生したアラサー既婚OLは、夫に会うために友情エンドを目指すことにしました。  作者: 善最はち
第一章 転生前の記憶を取り戻しました
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世界線を探ろう①

ベッドで大人しく静養する生活も3日目。

最初は、寝込んで体力が落ちてしまったのか、起きていられる時間も短く、寝たり起きたりを繰り返していた。

しかし、だんだんと体力を取り戻し、身体が元気になってくる頃には部屋に籠もり続けるのもそろそろ飽きてきた。


なんせ、会える人間はごく近しい人間と、身の回りを面倒見てくれるメイドの数人くらいだ。

両親も合間合間に顔を見せにくるものの、寝食は基本ひとりきりで、静養生活というより入院生活の気分だった。


持て余した元気を放出したくても、部屋の外や屋敷の中をうろうろするには、まだお医者の了承が出ていない。

そのため、今この無限にある時間を有意義に使わなければならない。

時間があると、考え事は捗る。

捗るのだが、先日の大号泣事件のように、つい夫を思い出して悲しくなってしまう。



わたしは5歳の身体には大きすぎるベッドの上で、ゴロゴロと何回転もしてみる。




そうだ!

状況を整理しよう。



いつまでも悲しんでいられない。

何事も現状把握が大事だ。

そのうえで問題点と解決策を出していこう。

仕事でも同じようにマネジメントしてきたんだから。



うん、そうしよう。



とは言っても、この場には転生前に使ったようなノートPCもなければタブレットもない。

何かにまとめるには―――やはりアナログの紙とペンだ。

幸い、習い事のための筆記用具はたくさんあるので、わたしは可視化していくことにした。


まず、ここは「異世界」だ。

タイムリープや転移も考えてみたけど、時代も科学も常識も、何もかもが転生前に生きていた世界とは全く異なる。


別の環境=異世界というのは確かだ。


さらに、二度出くわしたあの神さま(的な何か)は、ここを「わたしの知る世界」だと言った。

つまり完全オリジナルではなく、少なくともわたしの知る「異世界」設定がベースにあるはずだ。


わたしの覚えのある異世界とは―――、映画かアニメか漫画か小説かゲームか。


とにかく、転生前に楽しませてもらったいずれかの二次元と、同じ世界線。

フィクションを浴びるほど読み漁り、鑑賞してきたサブカル女にとって、無限の候補作品から世界線を絞り込むのはかなり難しい。


なんせ、子どもの頃に読んだ御伽噺や絵本ですらも可能性にあるのだから。



わたしはまず、『設定から探る』と書き出した。


【設定から探る】

・魔法的なもの→あり

・超能力→なし

・王族・貴族社会→あり

・時代背景(前世にあるような歴史感)→特になし

・妖精、魔女などの人外→なし

・舞台以外の外国→あり

・庶民的な暮らし、下町など→あり

・生死や時間を左右する力→特になし

・生死→あり(普通に死ぬし、新たな生命も生まれる)

・娯楽文化→あり(本・演劇など)

・法律的な決まりごと→あり。国独自のしきたりもある。

・言語→国を越えても変わらないようである。



―――ざっと、こんなものかしら?



5歳になる前までの、アメリアのもともとの記憶で分かる範囲はせいぜいこのくらいだ。

あとは動き回れるようになってから探るとして、さらにペンを走らせる。


今度はわたし―――アメリア自身のことをまとめるために『登場人物から探る』と書いた。

記憶が戻ってからこっち、ずっと寝込んでいるせいで身内以外に接触できている人間がまだ少ない。

わたし自身の置かれている立場もそうだけど、世界線同様、人物についてもアメリアの元の記憶で探るしかない。



【登場人物から探る】

・アメリア→5歳になったばかり。

・スペンサー家→公爵家。父、母、兄、弟ふたり

・父→アンダーソン、やさしい。

・母→どうやら継母。シャーロット。

・ノア→3つ上の兄。

・ルーカス(ルーク)→同い年の継弟。シャーロットの連れ子。

・アルフレッド(アルフィー)→3つ下の義弟(まだ2歳)

・実母は死別

・セバスチャン→父付きの執事

・ソフィー→お付きのメイド

・トム→セバスチャンの息子




うーん。

これだけじゃどうにも、何の世界線だか…。




もしかすると、その他にも関係者はいるかもしれない。

まだ5歳だから、今後交友関係が広がってきて、どんどん出てくるのかもしれない。

キーマンとなる人物にまだ出会えていないだけかもしれない。



しかし、今のわたしが知りうる限りでは、書き出された彼らの名前とこれらの設定がせいぜいだった。




交友関係ねぇ…・




むう、と低く唸る。

前世を思い出したあと、わたしの一挙一動に対して、両親や周囲の人間がいちいち驚いた。

そしてその原因は、それまでのアメリア・スペンサーという少女の性格にあるということに気づいた。


どうやら、5歳になるまでの、高熱で寝込む前のアメリアは、極度の人見知りで引っ込み思案だったらしい。


家に誰か訪ねてきてもろくに挨拶もできずいつも兄の後ろに隠れ、両親とも最低限の会話ができるくらい。

甘えた盛りで本当はかまってほしいのに思ったことが言えず、好きなものを好きとも言えず、指示されたことには文句も言わず従うだけ。

同い年のルークやまだ小さな義弟のアルフィーとも、満足なコミュニケーションがとれていないようだ。



家族にさえそんななのだから、当然、友だち付き合いもない。



4〜5歳の少女ってそんなもの?

前世のわたしなら幼稚園で違うクラスの子まで友だちだったというのに。

社交界デビューもまだない伯爵家のご令嬢だから?



それにしたってコミュ障すぎる。

ヒントが少なすぎるわ、アメリア・スペンサー!


これだけの情報じゃ一体何の世界に転生したんだか、どうやったら夫に会えるのか、わからないじゃない。




殴り書きした設定の紙を裏返し、今度は設定から絞り込んだ作品名を連ねる。

前世の現実世界と離れているなら、ファンタジーや貴族社会がベースにある作品のはずだ。

前世でドハマリした映画、アニメ、漫画、ラノベ…タイトルをとにかく書き出していく。


しかし、伯爵令嬢の設定で、『アメリア・スペンサー』という名前の主人公が出てくる二次元作品は、まったく思いつかなかった。



となると、ゲームの世界観か…。

ゲームの中に閉じ込められる系のラノベは読み漁ったけど、ゲーム自体はあんまり詳しくないのよね…。



ロールプレイングがすきな夫とは違って、わたしはもっぱら格闘ゲームばかりやっていた。

いわゆる乙女ゲームも実は手出ししたことがない。


でも、ゲームの世界線で「転生」ジャンルといえば、近頃の流行りなら乙女ゲームのヒロインもしくは悪役令嬢とかだよなあ。

平民の少女が王族男性を攻略して成り上がる話なら多少覚えがあるのに…伯爵令嬢だもんな。




そういえばわたしの愛称って『エマ』だったな。

エマと呼ばれる女の子が出てくるライトノベル、なーんか読んだ覚えがあるんだよなぁ。

とてつもなくシャイで、主人公ヒロインと物語中盤まで仲良くなれなかったコミュ力の低い子が確か「エマ」じゃなかったっけ…?


家柄のことだったか、兄弟のことだったかで嫌味を言われる場面で、ヒロインに助けてもらって、それがきっかけで親友ポジションになるやつ…。


何だっけ。

ヒロインの名前はエマでもアメリアでもなく、「クレア」だ。これは覚えている。

平民の身分ながら魔法を使えるという、主人公の王道設定だった。

魔力や特別な才のある人間が入学できる学園で、14歳のときに出会ったのだ。




ん?

あれって逆ハーレム展開でとにかく出てくる男子キャラがみんなクレアを好きになるんじゃなかった?

ご多分に漏れず親友の兄弟たちも揃ってクレアのことを好きになるんじゃなかった?

んん?

なんなら親友の婚約者の王子までがヒロインを好きになってしまって、想いあったふたりのために最終的に身を引いたんじゃなかった?



その女の子が「エマ」じゃなかった?



あれ?

あのラノベって乙女ゲームの原作じゃなかったっけ?




――――――まさか!





わたしは新たな紙を出して、『確認事項』と書き殴った。



思い当たったエマの出どころは、乙女ゲームの原作小説かもしれない。

しかし、ラノベを読んだのは一度きりだし、結局ゲームはプレイしていない。

記憶も曖昧だ。

今いるこの世界線が本当にあの物語なのかどうかを確かめるためには、現時点でわかり得る要素でもって、判断する他ない。




クレアとの出会いは14歳だから、まだ9年も先になる。

とりあえずはアメリア自身のことからだ。




わかる人たちに聴取しまくらなきゃ!




わたしは、自室での静養命令などすっかり忘れて、紙とペンを片手に部屋を飛び出した。

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