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(仮)転生したアラサー既婚OLは、夫に会うために友情エンドを目指すことにしました。  作者: 善最はち
第一章 転生前の記憶を取り戻しました
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エンカウント、発端(アメリア)

5歳の誕生日を迎える一週間前、アメリアは病に倒れた。

単なる風邪をこじらせただけかと思いきや、意識が戻らず、熱にうなされた。


三日三晩、高熱は続き、文字通り生死の縁をさ迷った。

寝込んでいる間、両親だけでなく、屋敷中の人間が代わる代わる看病をしてくれたらしい。

当然だ。

名だたる伯爵家の令嬢が床に臥せってしまったのだ。

当主は医者という医者を呼び寄せ、あらゆる手立てを講じたけれど、一向に目を覚まさない。



最悪の事態も考えながら、病床の少女の身を案じる。



そんな皆の心配をよそに、アメリアはとても長い長い夢を見ていた。

時々、自分を呼ぶ声があちこちから聞こえた気もする。

目を覚ましたいような、まだ眠っていたいような、不思議な心地の中で夢を見続けていた。


どこかの小さな教会。

隣には男の人がいて、顔はよく見えないけど、大好きな人だというのはわかる。

一緒にいるだけで心があったかくなるような、懐かしい感じ…。



一方で、目の前には全然知らない人。




初めて見る顔なのに怖くもなければ親しみも沸かない。

自分と同じくらいの男の子とも、お父様と同じくらいにも見える。


その男の子(人?)は、にんまりと笑って言ったのだ。



「証明して見せてほしいなあ、君の永遠の愛ってやつを」




えいえんのあい?

しょうめい?



さっぱり意味がわからない。




「今誓った愛が本物だというなら、君が本当に生涯かけて夫を愛すると言うなら、それを君の生き様で見せてほしいのさ」




いきざま?

ねえ、さっきから一体何の話をしているの?



愛って何?

証明ってどういうこと?

あなたは誰────?





「ぼく? ぼくはそうだな、君たち人間の言うところの“神さま”ってところかな」




神さま…?



「そう」



ぐにゃり、と地面が大きく歪んだ。

バランスが取れない。

立っていられない。

高いところからジャンプをしたときと同じような感覚だ。

お腹の中がふわっとして踏ん張りがきかない。


目を開けているのか、閉じているのかもわからなくなる。

ただ、少年のような、青年のような、高くも低くもない声が頭に直接響いてくる。




「この世界は君の知っている世界だよ。そして君が望む世界にできる────ただし、その愛が本物ならね!」




待って!



言いたいことだけを言って、勝手にフェードアウトしてしまいそうなその声に向かって叫ぶ。

まだ聞きたいことがあるの、と何を掴むでもなく手をのばした。


地に足がついていない。

平衡感覚も上下左右の感覚もない。



『わたし』って誰?




全てが覚束ない状態のまま、問いかける。

さっきまで、これは不思議な、長い長い夢だと思っていた。


でも、違う。

これは夢ではなく、記憶だ。

誰かの記憶だ。

これは、わたしの記憶だ。





わたしは『わたし』なの────?





この夢を()()だと認識した瞬間、自分(わたし)の中に違う自分(わたし)が重なっていく。




「君は君だよ、アメリア・スペンサー」




さっきよりもずっと遠いところから声が響き渡った。と同時に、身体と意識がぐるぐる渦巻く感覚に襲われる。まるで何かに引き戻されるように。







────────────────────────────────────


ハッと目を覚ましたとき、見知った顔も見知らぬ顔も神妙な面持ちでこちらを覗き込んでいることに驚き、わたしは思わず飛び起きた。


突然意識を取り戻したことにびっくりしたのは、彼らも同様だった。



「お嬢様!」

「エマお嬢様!」

「アメリア様!」

「ああ、良かった、エマ様…!」

「本当に…アメリア様、よくぞご無事で…」



口々にわたしを呼び、取り囲み、安堵の表情を見せたり涙ぐんだりしている。

いつも傍で面倒を見てくれるメイドたち以外にも、お父様に仕えている執事、月に一度くらいしか会わないお医者の先生や助手の人たちまでいて、よっぽど心配をかけたのだとわかる。



「お加減はいかがですか?」

「どうぞ、まだ起き上がらないでください」

「今、旦那様と奥様をお呼びしますね!」


皆が口々に声をかけてくれる。

どうやら随分と長い間眠っていたらしい。

体の節々が軋んで痛いし汗だくだ。


「熱を出されて、意識が全然戻らなかったのですよ」


近くにいたメイドがそう言いながら、濡れたタオルで額を拭いてくれた。


一体、何日くらい寝ていたんだろう。

喉も乾いたしお腹も空いている気がする。

そんなことを呑気に考えていると、ドアがバンっと開いて数人が部屋に駆け込んできた。


「アメリア!」

「エマ!」


血相を変えて飛んできたのは、父と母(正確には継母)だ。


「大丈夫なのか?もう、体は…」

「どこか辛いところは?痛いところはない?」


恐る恐る、壊れ物に触るときの慎重さで、ふたりの手が肩や頭を撫でる。

両親の心配が接したところから伝わってくる。


「3日も寝込んだままだったんだよ。どんなにか辛かっただろう、よくがんばったね、エマ」

「ああ、本当に…、本当に良かった…」


背中をさするだけだった父の腕が包み込むようにわたしを抱きしめ、そこへ母も身を寄せてきた。

結果的に両親ふたりに抱きしめられながら、じわっと胸が暖かくなる。

わたしは、「心配かけてごめんなさい、お父様、お継母様…」とだけ言った。


お父様もお継母様も少しだけ驚いた様子を見せたが、知らん振りをする。

他にもいろんな言葉をかけられたような気がするけど、それどころではなかった。

目覚めて、ずっと、わたしの気持ちは別のところにあった。



この3日ですっかり取り戻してしまったから。

アメリアになる前の、前世の記憶。

それも、たった5年の歳月など圧倒的に凌駕する、32年分。




わたし────アメリア・スペンサーは、もう今までのアメリアではなくなってしまったのだ。



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