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この時、倉庫の壁穴から密かに中を窺う黒スーツの男が居た。
神崎直也である。
「強い霊波を感じて来てみたが…大昔の戦で敗れた悪霊と彼の心境がシンクロしてしまったようだな…」
1歩踏み出しかけ、右手で顎に触れた。
「待てよ…我歌ちゃんを試す良い機会か。もう少し様子を見てみよう」
神崎の視線の先で、八岐に取り憑いた悪霊がすさまじい邪気を放出している。
霊に関しては素人の愛里沙と恵美も、この只ならぬオーラに恐怖し、震えだした。
「キャーーーッ!」
「何これーーー!?」
地面にのびていた大熊たちが、這って逃げだす。
たった1人、我歌だけが八岐と対峙していた。
(すごい悪気! こんなん見たことない!)
さすがに険しくなった我歌の顔に、悪霊の邪気が暴風の如くぶつかってくる。
(いつもみたいに祓えるやろか!?)
霞の構えを取るが、身体が萎縮し、思うように動かない。
(まずい! 全然、勝てる気がせん!)
八岐は両眼を光らせながら、構えもせず、ユラユラと近寄ってくる。
「負けたくない…殺す…殺す…」
八岐の口から、八岐でない声がする。
(あかん! どうしたらええの!?)
その時。
愛里沙と恵美が我歌の背中に触れた。
怯え、震える2人の手。
瞬間。
我歌の折れかけていた気持ちが、ギリギリで立ち直った。
(そや、ウチは…2人を守る!)
湧き上がった想いが、我歌の全身を駆け巡った。
四肢に力が戻ってくる。
何故か、かつて父から聞いた自分の名前の由来を思い出す。
我が歌とは つまり我が人生
誰に邪魔されることなく
媚びることなく
我が歌を唄え
(ウチは自分の信じる道を行く。こんな…こんな自分勝手な理由で人を傷付ける奴に負けたない!)
そう思った刹那。
突如、爽やかな風が舞った。
八岐の邪気をはね除ける、緑色にきらめく涼風。
(あなた、面白いね)
我歌の頭の中に、少女の声が響いた。
(え!? 誰!?)
(力を貸してあげる)
その声と同時に、八岐の額にコイン大のエメラルド色の光が輝いた。
(何も考えずに、あそこを狙って)
(ええ!?)
(早く!)
我歌の身体が自然と動いた。
八岐が雄叫びをあげ、木刀を振り上げる。
悪霊に憑かれる前とは、比べ物にならないほど速い。
しかし、今。
無心で前に出る我歌の動きは。
それよりも、さらに速い。
電光の如き、瞬速の突きが八岐の額、エメラルドの光を完璧に捉えた。
「ぐぎゃあぁぁぁ!」
絶叫と共に八岐の邪気が吹き飛び、両眼の妖しい光が消えた。
白目になって、その場に崩おれる。
我歌が突きの体勢を解いた。
ホッと胸を撫で下ろす。
「我歌ちゃん、すごい!」
「今の何!? 速すぎて見えなかったよ!」
愛里沙と恵美が歓喜の声をあげ、我歌に左右から抱き付く。
「あー…ウチも、よう分からん」
「何それ!?」
「あはは!」
3人が笑い合う。
その様子を倉庫の外から、神崎がじっと見ていた。
「合格だよ、我歌ちゃん。さっそく、精霊に認められるとはね。さすが帯刀の血筋」
爽やかに微笑む。
「僕も指導係として、気合いを入れないとね」
神崎が見守っているなど露ほども知らず、我歌たちはかしましく、倉庫を後にした。
翌日の放課後。
我歌と愛里沙と恵美の3人が商店街を歩いている。
各々の手にはソフトクリーム。
「カラオケ行く?」と我歌。
「今日はアクセサリーが見たい」
「そか。ほな、そうしよか」
「アタシは鼻が赤いお爺さんを捜したい!」
「アンタはカンフー映画の主人公かっ!?」
「あはは!」
3人が楽しそうに笑い合う。
愛里沙と恵美の笑顔を見て、我歌は(2人を守れてホンマに良かった)と改めて喜びを噛みしめた。
さてさて今回の事件で新たな力を覚醒させた我歌がこの後、新米の魔狩りとして活躍することとなるのだが、それはまた別の話。
「ワックスかけて、ワックスとりたい!」
「もうええ! どうでもええ!」
「あはは!」
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます( ゜Д゜)ゞ
コラボにご協力いただきましたシゲ兄さん、ホントにありがとうございました( ☆∀☆)