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倒れた男、そして高まる胸の鼓動

男の姿には覚えがある。


蓮華が最初に彼を見たのは、訓練時代、慰霊碑を掃除していたときのことだった。

_______

なぜか狐のお面をつけて接する蓮華の担当“水谷”、蓮華が水谷さん、と呼ぶ男―――であるが、それは苗字ではなくミズヤという名であるという。――が、彼の上官であり蓮華の兄である竜司令も含めて、周囲が姓名を混同して呼ぶ上に、本人も「本当の苗字のほうで呼ばれるとなんとなく気持ち悪い」と感じるらしく、そのままにしている……と水谷本人から聞いていた。


(でも、前任者と混同される、なんて)

以前、彼が受け持つ仕事のひとつ……救護班の担当をしていた人物が、水谷という姓であったという。その話を聞いて以降、その前任者のことも、蓮華はずっと気になっていた。

水谷潤(みずやじゅん)


その名前が、任務中の事故や負傷が原因で命を落とした者達の墓標――慰霊碑の片隅に刻まれていたことが、蓮華が慰霊碑に特別な感情を抱きはじめた大きな理由のひとつだった。―――どんな人物だったのか、そして、


(今の水谷さんとどんな関係にあるの――?)


ちょうど慰霊碑の掃除していた時に出会った者に、その人物の話を聞くことができていた。前任者である水谷潤の熱烈なファンだったらしく、前任者のことを水谷様と呼び、蓮華の担当の水谷のほうを「水谷様ほどじゃないが、あの人も優秀だ」と言っていた。


蓮華はもっと詳しく知りたかったが――それ以上語るのを止めた者がいた。その話を止めた者こそが、目の前に倒れている男で、それが彼との最初の出会いである。


(!)

ぱんぱん、と、蓮華の服の裾をはたく小さな手のひらを感じた。ふと見ると、今回の件で、いちばん最初に警告を発していた者……小学生というような雰囲気の、小柄で華奢な体格をした少女だった。……なぜか、作戦開始時から水谷と同じ狐の半面をつけていた――明らかに異様ではあったが、その件は、なぜか誰も突っ込まなかった。


(……もしかして、()()()も水谷さんの彼女のひとり、なんてことは……)

聞きたい、でも聞けない気がした。何より、今はそれどころではない。


「……このお面をつけていたら、水谷の息がかかってる証明になる。」

そうしていたら、子どもみたいに小さな女の子でも、やたらな扱いを受けることはないからね、と、少女は……ちょっと少女らしからぬ口調で蓮華にそう伝えた。


「……自分より弱いと見なした相手には横柄になって、平気で暴力振るえるような連中から、髪の毛わし掴みされることも、……土下座を強要されるみたいな真似されることもない。」

(!)


少々、怒りを帯びた口調に蓮華は驚く。……そしてそれは、異変が起こるより前……物品管理のトラブルが原因で、蓮華が受けた仕打ちの内容そのものだった。


「司令の妹、ってことまでは言わないにしても、……せめて担当の名前を出すとか、自分の身を守るために、言えることは言ったほうがいいと思う。」

倒れているこの男が助けてくれたから、あれくらいで済んだんだと思うよ、と少女は息をついた。


(そのとおり、だけど……)

目の前に佇む少女の雰囲気が、さっき……虫の襲撃を受ける前までとは変わったような気がして、蓮華は奇妙な動悸を感じていた。


(なんだろう……。()()?)

目の前の小さな少女に、なぜかドキドキしていた。きっと混乱しているせいなのだろう、恐怖と緊張で感覚がおかしくなっている。……少なくとも、自分よりずっと小柄で華奢で、見るからに非力そうな、可愛らしい少女に対して、()()なんてするはずがない。


「え………?」


ふっ、と、わずかに点いていた灯りが消えた。


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