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“特殊能力(ちから)”の使い方

“君に振り分けられた仕事は、もともとは、戦闘員だった。”

そう、担当の水谷は言っていた。


記憶のない蓮華にはよく分からない。それでも、蓮華には強い特殊能力があるのだという。そのため、本来は“特殊能力”に特化した存在という扱いで戦闘員になるはずだった。


だが裏で動いた水谷の横槍によって、蓮華は戦闘補助職とされたらしい。

そんな彼は、蓮華がこうして戦闘補助……物品管理と輸送その他を担うポーターとして働くことにも難色を示していたのである。だが、水谷の上官であり、蓮華の兄でもあるという司令の命令で、それはどうにもできなかったらしい。


……出会った初日に、突然、死角からクマのぬいぐるみでイタズラをしかけてくる、試すような言葉を投げ掛ける、既にたくさんいるらしい……公認の彼女のひとりにならないか、とセクハラ発言はする、奇妙なキツネの仮面をつけて素顔を見せようとしない、本当の名前を明かさず前任者の名前で通そうとする。……色々とメチャクチャな男ではあるが、蓮華を本気で心配し親身になってくれていることだけは、出会ってから訓練期間を終え今日に至る……経緯のなかで分かっていた。



(水谷さん……)

だが、その彼は今はここにはいない。どうすればいいのか尋ねることもできない。このままでは、誰かが死んでしまう。


(強い“力”があるなら、虫くらい駆除できる……?)


蓮華の特殊能力――この世界でいう“能力”は、簡単に言えば、“能力を持つ人間が、どんな技を出したいのか、強くイメージすることで発揮できるもの”……らしい。


もちろん、なんでもできるわけではなくて、各々の能力の性質や向き不向きによってできることとできないことは存在する。その能力の強さも個人差が大きくて、さらに、すべてのものには“特殊能力の感受性”というものが存在し、“能力がどれくらい効くか”という効果に影響してくるらしい。


蓮華にも、よくわかっていない。

それでも蓮華は訓練時代にあったトラブルもあり、自分に能力が()()ことだけは、すでに分かっていた。ただ、“能力”を使いこなせるかというとそれは別である。


蓮華は、虫を高熱で焼き払うようなイメージをしようとした。だが、虫が減った様子もなければ、動きを止める雰囲気もない。何も起こっていない以上、当然、効くわけもなかった。


(どうして。“力”ってどう使えばいいの?)


以前――訓練時代に、いたずら半分で襲われたとき、はなんとなく感覚的に、どうすればいいのかわかる気がした。だが今回は、なんのイメージもわかないことに蓮華は困惑していた。


(なんで? “力”そのものは強いんじゃなかったの?)


特殊能力と、感受性の関係……対象の感受性の高さと、それへの影響効果は正比例する。ゆえに、特殊能力がもっとも影響を及ぼすのは、感受性が高い人間などであり、 感受性が低い虫などはその効果を受ける程度も非常に限定される。

しかも、イメージのなかで対象を明確に絞りこみ、そこに力を集中させることができてはじめて発揮できる能力である。


なんの準備もなく視界を覆い尽くすほどの数の虫に発揮できるものではなかった。


そうして、ようやく虫が減ってきた……そう思えた頃に、立ち上がった蓮華たちが目にしたのは、負傷し正気を失って奇妙に笑っている戦闘員の女と、女から奪い取ったらしい小銃を抱えたまま、体に空いた穴から血を流しつつ、地面に伏せていたひとりの男の姿だった。



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