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退却時期の見誤り

約3時間前、突入後およそ1時間が経過した頃だった。

今回の班のなかで、治癒回復の役割を果たす………一応そう言われていた、戦闘補助者が騒ぎはじめた。


「違和感があります。」


見た目としては小学生にすら見える彼女は、任務開始時点からずっと担当の水谷と同じ狐面の半面をつけている。……が、その点については、誰も突っ込むものはなかった。


基礎訓練で男性戦闘員候補生に混ぜられしごかれた蓮華とは異なり、腕力も体力も小さく華奢な体に相応のものだった。……が、意外にも先程の蓮華が受けたような仕打ちは受けていない。


「いったん、出入り口付近、せめて中央や複数の他班と交信できる位置に戻りませんか?」


それでも、本人の実力が認知されているのとは別の理由だったのだろう。乱暴な扱いこそ受けなかった、それでも彼女の意見にはほとんど誰も意見に耳を貸そうとはしなかった。__案内役への信頼のほうが大きかったから、というのもあるだろう。


「当初の予想と若干のずれはありますが、誤差範囲内です。」

案内役の男が言った。

「……気になるとは、具体的にどういう部分でしょうか?」


今回の任務では、無人小型ヘリにより空中から収集されたデータや人海戦術で得られた情報を解析、それから割り出した3D構造図をもとに、それぞれ侵入する出入り口とルートが各班に割り振られていた。


内部に入ってからは通信が不可能となる場合も多く、データ解析に引っ掛からない程度の規模の兵器や仕掛けへの対処は必要だった。また初期データと現実との誤差の確認のため、案内役として、データ処理班から各班に1名ずつ割り振られた。その案内役が彼であった。


「さっき、非常扉を3つ目過ぎてから、床や天井に変な穴が開いています。」

少女は指摘する。


「構造の意図は不明ですが、ただの穴です。少なくとも、電気的な構造を伴う仕掛けはなさそうです。むしろ、閉鎖空間の通気のための構造なのかもしれません。」


「あんな形であの位置に均等に開けるのなんかおかしい気が……しませんか。何かの意図を感じるような……」

そこまで伝えて、少女はハッとしたように口をつぐむ。


(……“能力(ちから)”を()()()()?)

なぜ、そんな発想が浮かんだのか。蓮華にもよく分からない。だが何となく……そんな気がした。プライドにさわったのか、案内役の男が片眉をつり上げる。


「具体的にどういうことですか? 」


「わからないけど、何か出てきそう……」

ゴニョゴニョ、とごまかした少女に、男は息をついた。


「ガスなどですか?確かに閉鎖空間では有効ですが、自陣でその構造を作るのは危険行為です。少なくとも、あの扉は防火はできても有毒ガスを漏らさないなんて事ができる構造ではなかったです。」


「でも、なんか……」

「女の勘ってか?……いちいちうるせえよ。」

思わず洩れた舌打ちを慌てて隠すように背を向ける。


(……何が怖いのかな。)

蓮華は男の態度を(いぶか)った。


――――

そうして30分ほど過ぎた後で、データ処理班の男は言葉を失う。誤差の範囲とは到底言えないレベルの構造を先に見つけてしまったゆえである。


「一旦、退却しましょう。」


もとの道を戻ろうと踵を返しはじめたとき、ざわ、と全身総毛立つ。

無数の針金で壁を引っ掻いているような音と気配が迫ってくる。その異様な空気感に、全身が総毛立った。()()は、もと来た道から近づいてきていた。明かりもチラチラするようで、全体が暗くなってくるように感じ……迫りくるものを見たもの達は一様に顔面蒼白となる。



「嘘だろ」

「キモっ」

「いやぁ虫っ!!」


床や天井をびっしりと埋め尽くしそうな、艶のある焦げ茶と薄茶まだら模様の何かが押し寄せてくる。それは膨大な、ゴキブリを3倍くらいの大きさにしたような色や形の羽のある昆虫の群れだった。



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