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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第一章 雲散霧消
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第八話 霧狸の社探検隊とキング・ライダー③

投稿その四。

 カリムなど容易に引き裂くフォレストウルフの前足での爪撃。

 しかし、その一撃はカリムの身体を一切傷つけることなく、阻まれた。


「おいおいおい、危ないぜー、子ども達。命は大切にしなくちゃあいけないなあ。わかっているのか? 無駄死になんてしても一銭にもなりゃあしないんだぜ」


 その男は領軍の兵士と同じ服装をしていた。けれど、明らかにただの領兵とは違っていた。

 体つきはカリムがこれまで見てきたどんな領兵よりも大きく、他の領兵よりも頭一つ分くらい背丈が高い。ガルムは刻印騎士団の精鋭ではあるけれど、体格が優れているのではなく彼が持つ刻印術式が優れているだけで、体格はわりと普通である。顔つきは整っている。目つきは鋭く、相手を下に見るような口調も自然と様になるような男だ。

 これほど印象的な男がコウハクの別荘地を護衛していれば、すぐにでも気づく。だから、カリムは初対面の領兵だろうと判断した。

 他の三人は状況が分からないので、静観している。下手に喋って先ほどの二の舞はごめんだったのだろう。


「えっと、ありがとうございます」


 カリムを襲ってきていたフォレストウルフの死骸はなく、それなのに追撃してくる様子もない。不思議なことが起きていると思いながら、カリムは大柄な領兵に感謝を告げた。


「悪くねえ、どんな状況だろうと、どんな相手だろうと感謝を告げるって行為は美徳だな。言われた俺様も気分が良いし、救ってやった甲斐があるってもんだ。誇れ、若人」

「はあ……」


 これまでの畏まった態度の護衛とは明らかに違う不遜な態度。どちらかと言えば素の状態でいるガルムに近しいとカリムは感じた。


「あなたは刻印騎士団の方ですか?」


 唐突なカリムの質問に、男は目を丸くした。


「俺が刻印騎士だって? そりゃまたどうして?」


 違ったのか、と質問したことを後悔しながらカリムは言う。


「いえ、なんだか素の状態で話しかけてくるのが知り合いに似ていたもので……」


 口に出して、カリムは自分が失礼なことを言っているかもしれないと冷や汗をかく。


「知り合い? ……ああ、ガルムのことだな。あいつはまあ特別だろうさ。何てったってソーカルド領の最強の刻印騎士様だからな。強いからあんな自由が許されるのさ」

「じゃあ、あなたも?」

「はっはっは! そりゃあ俺様も特別に決まっているだろう? 俺様は誰にも縛られない。縛らせない男だからなあ。俺様に命令していいのは俺様だけさ……なんてな、冗談だよ。見ればわかるだろう? 俺はただの領兵さ。領主様に靴を舐めろと言われれば、喜んで靴を舐めちまうような腰抜けだよ」


 ギラギラした男の眼光を見て、カリムはこの男が絶対に腰抜けではないと確信した。齢五年の未熟者でも確信できてしまうほど、男には威圧感があった。

 男は不用心にも周囲への警戒を解き、品定めでもするかのように順番にカリム達の顔を見ていく。

 そして、最後にセナを見て、少し口角を上げ、彼女の前に膝をついた。


「なんとあなたはギルダ様のご息女であるセナ・ソーカルド様ではありませんか! いやはや驚きましたな。まさか、あなたのような方が霧狸の森で迷子になっているなど……。しかし、心配なされるな。この俺……ではなく私に任せていただければ、無事に屋敷に連れ戻して差し上げましょう? ええ、ええ、だから、心配なされるな。ここに来ていたことも領主様には内緒にしておきますとも! あなたが無事であることこそが何よりなのですから」

「え、えっと……ありがとうございます。で、でもっ、ノルトリムちゃんやみんなも、一緒がいい、です。ここは魔物も、いるし、危ない、から」

「当然ですとも。私にお任せください。……あなたの無事は保証しますから」


 男が小さく呟くが、子ども達には聞き取れなかった。しかし、彼は優しい笑顔を浮かべていたので、きっとあまり問題ないだろうと深くは考えなかった。

 セナが緊張している中、男は彼女の手を取って優しく立ち上がらせた。

 そして、大きく咳をする。


「セナ様、安心してください。私は何も一人でここに来たわけではないのです。私には仲間がいる。そして、彼らはすぐそこにいるのです。みなさんに怯えさせないように控えさせていたのですよ」


 男の言葉にセナは安堵の息を漏らす。緊張は続いていたが、命の危機は脱したのだとそう思ったのだ。

 カリム達も身体の力を抜き、安堵した。

 これで、助かると。

 

 濃霧の中から現れたのは統一感のない汚れの目立つ防具に身を包んだ不衛生な男達だった。

 その姿は領兵というより、明らかに賊という言葉が似合っていた。

 というより、山賊そのものであった。


「よいしょっと。刻印術式起動……うん、やっぱり子どもならこの方が早いな」


 領兵の姿をした大柄な男は素早くセナの頭に手を乗せて、セナの意識を奪ってしまった。

 力なく男の腕に体重を預けるセナを抱えて、男は現れた山賊の一人にセナを預け、呆然とするカリム達に目もくれず、領兵の鎧を脱ぎ捨てていった。

 そして、脱ぎ終わると、次いで別の山賊から全身の鎧を渡させ、装着。そして、大きな毛皮をローブにように羽織ってから、大きく息を吸って、吐いた。


「ああー、気持ち悪かったぜー! どうしてこの俺様が領兵なんて領主のペットが着てるような鎧を着なくちゃあいけないんだ! わかっているさ! 必要だった。運命的な幸運を確かに掴み取るために、この変装には意味があった。……しかーし! それと俺が不快であることは別問題だ! ああー、嫌だ、嫌だ。領兵の鼻につく匂いと石鹼の香りが染みついてやがる!」


 男は散々喚いた後、まったくついていけていないカリム達を見て、歯を見せて笑う。


「覚えておきな! 俺様の名はキング・ライダー。誇りだ、誉れだとか下らねえこと言っている貴族共を嘲笑い、好き勝手に悪行三昧している大悪党で、今を時めく山賊界のスーパースターだ。そこのセナ嬢をいただいて、今回はしょぼいソーカルド領から身代金で小遣い稼ぎでもしようと思ってなあ」


「ああ、勘違いしないでくれよ。別に日頃からこんな下らない悪事に手を染めているわけじゃあないんだぜ。黄爵家一行を襲って命と金品をいただいたり、白爵家の村を滅ぼしたり、しっかりと山賊やってるんだぜ。でも、まあ、今回はまあ……条件が良すぎたんだよなあ。スタンピードに自分から狩場にやってくる間抜けなガキ共。これで何もやらなくて何が山賊だ? だからよお、一応さ、小遣い稼ぎするかってこと。それだけのことさ」


 キング・ライダーはセナを抱えていない四人の山賊達に命令する。


「お前ら四人であのガキ共を始末しておけ」

「え、でもガキですよ」

「ガキでもだ。わかるか? 今日の俺達はツイている。しかし、だからこそ絶対に下らないミスで、災厄を引きつれてくるわけにはいかないんだ」

「ビビりすぎじゃないですか?」


 年の若い山賊がそう言い返すと、舌打ちと共にキング・ライダーは若い山賊を殴り飛ばし、その顔を何度も蹴り、若い山賊が動かなくなるまで続けた。


「不幸な事故が起きた。なあ、お前達、こんな不幸な事故はもう起きないよなあ?」

「「はい! キング・ライダー様に誓って!」」

「そうか、良かったよ! よし、みんなこの仕事終わったら酒を飲もう! ……なぜなら、俺達は深い絆で繋がった仲間なのだから!」

「「はい! キング・ライダー様に誓って!」」


 キング・ライダーは口笛を吹いた。

 すると、濃霧を裂いてキング・ライダーの体躯くらいの大柄な白い毛並みの虎が現れ、彼はそこに飛び乗った。

 続いて、フォレストウルフが一匹現れて、セナを抱えた山賊が乗った。


 衝撃的な出来事についていけなかったカリムやタムマインもセナが山賊に連れて行かれてしまうことに危機感を覚えて飛び出した。


「セナを離せ!」「おらああああ!」


 しかし、三人の山賊達がキング・ライダーとセナを抱える山賊、その前に立ち塞がっていて、二人を弾き飛ばす。

 何度も弾かれ、ときに蹴り飛ばれるが、二人は諦めない。

 

「いやあああああ!」


 しかし、必死の二人は気づかなかった。

 セナを助けることばかり気がいき、キング・ライダーから意識を逸らしてしまっていた。そのせいでキング・ライダーはついでとばかり暴れるノルトリムを気絶させ、抱えていた。

 絶望する二人に、キング・ライダーは自然体で踵を返し、セナを連れた山賊もその後を追っていく。

 腹立たしいことに、カリム達の始末するために残った山賊を信頼しているのかキング・ライダー達は悠々と歩き去っていく。

 しかし、カリムとタムマインは三人の山賊に道を塞がれているので、すぐにキング・ライダー達を追えなかった。

 ――追うには。


「なあ、カリム。こいつら……」

「ああ、邪魔だから、倒すぞ」


 念のため、護身用に持ってきていた木剣を二人は手に取った。

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