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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第四十八話 骸塚

 二度目のワクチン接種で体調崩していました(´;ω;`)ウゥゥ。

 今回は主人公は登場しませんが、重要な回になります。



 武舞祭が中止となった翌日のこと。

 王都の北方に位置する天地宮。一般的には王都の最北である天地宮にはその先がある。

 底の見えない、円形の巨大な大穴。

 高濃度魔素噴出口。俗称、黒穴と呼ばれるその穴からは、絶えず可視化できるほどに濃密な高濃度魔素が噴火する火山のような勢いで立ち昇り続けている。

 一部の例外を除き、生物には猛毒になるそれだが、四方に広がる魔素は粒子の光と消えて、天へと伸びる漆黒の柱は雲へと届く前に粒子へと姿を変え、アマガハラ中に広がり続けている。

 黒穴に設けられた柵の外からはこの漆黒の柱は見えないように結界が張られており、天地宮からは満開の梅と桜の花しか見ることはできない。


 アマガハラ王と護衛である王剣百士、そして王が許可した者以外立ち入り禁止である天地宮の中に黒いローブで身を包んだ二人組がいた。

 

「まるで異世界にでも迷い込んだみたい」

「これが奴の言っていた年中枯れない木々か。国の地鎮を続けながら、こんなものを維持するなんてやはり化物だな」


 二人組は一人が周囲に人気がないことを確認してから、フードを外して、素顔を晒す。

 褐色の肌に、肩口で切り揃えられたサラサラの髪、そして小柄な体躯の端正な顔立ちの少女。

 そして、同じく褐色の肌をした大柄な少年。

 先日まで王立術理院で、カリムのクラスメイトであった二人、アルタイラとモンドであった。

 二人は目的があって天地宮に忍び込んだ。

 天地宮に隠された王の力、その継承方法の解明。それこそが二人の目的であった。

 しかし、二人とも乗り気ではなかった。


「交換条件とはいえ、どうして私達が奴らのために働かないといけないのよ」

「仕方ないだろう。奴らは王の力の継承方法さえ知れれば、バルバリアントへの魔道具の融通を確約している。俺達がいくら徒党を組もうと、現時点でアマガハラ王国の軍事力には敵わない。……力がいる」

「あんたに言われなくてもわかってるわよ。……あと、バルバリアントって呼び方はやめなさい。腹が立つから」

「ああ、わかった」


 天地宮の奥へと進むも、いくら歩いても梅と桜の木々が続く。

 そのことに先に違和感を覚えたのはアルタイラだった。

 彼女は木々に触れて、「なるほどね」と何か納得する。


「理術をくらった感覚なかったけど……ここ自体に方向感覚を狂わせる効果があるみたいね。見栄え重視じゃなかったみたい」

「解除はできるか?」

「できるけど、バレると思う。やるなら無効化ね」


 そう言って、アルタイラは自身に手を当てる。手から幾何学模様が浮かび、体内へと沈む。

 アルタイラは同様のことをモンドにも行う。


「これで奥に進めるわ」


 ――そして、二人は天地宮の中のもう一つの門を見つける。

 内外を隔てるように塀が直線に並び、古びた木製の門からは光の粒子が隙間からこぼれている。

 アルタイラとモンドは息を吞む。

 

「絶対にここよね?」

「だろうな。ここはアマガハラ王国の中枢だ。いくらアルタイラが優秀であろうと、長いはしかたくない。進もう」


 モンドは懐から黒い箱を取り出し、門へと添える。

 箱は協力者であり、依頼人である男から支給された魔道具である。

 なんでも結界を破ることに特化した魔道具であるらしい。


「本当に効果あるんでしょうね?」

「さあな。奴らの知識を集めてつくられているらしいが、聖人相手にどこまで通用するかは未知数だ」

「効果がなかったら、絶対にボコボコにしてやるわ」


 二人が会話している間にも、箱型の魔道具は効果を発揮していた。

 門と魔道具との間に幾重もの幾何学模様が浮かんでは消える。大小も様々な幾何学模様が消える度、カチカチと歯車が動くような音が鳴る。

 最後に一際大きな音がして、門が開く。

 光の粒子が突風に乗って、二人の身体に打ちつける。

 二人が腕を交差して耐えていると、刹那の間に頭上を風で形づくられた鳥が飛び去っていく。

 その一瞬をアルタイラだけが目で追っていた。


「モンド、不味い! 今、中から理術が飛び去った。すぐに追手が来る!」

「……すぐに中を調べて逃げるぞ! 奴らは中にすら入れていない! 多少の情報でも満足するだろう!」

「ああ、もう! 最悪っ!」


 門の中へと駆けて入ると、景色が一転する。

 まず、視界いっぱいの漆黒の柱。黒穴から噴出する高濃度の魔素の集合体。そして、その黒が次々に白い粒子へと変わり、門の内側を溢れんばかりの光で満たす。

 次いで、黒穴の前に一本の黒い桜の木。天地宮とは反対に一切の花が咲いていない。

 そして、その木は異常だった。黒い木であるということもそうだが、根が地表を覆い、塚のようなになっている。そして、根と根の間からは無数の骨が落ちている。

 骸骨から、腕、足の骨、十や二十では足りない量の骨が桜の木の下に積み重なっていた。


「何よ……これ?」

「人の骨……なのか?」


 二人は言葉を失い、呆然とする。

 悍ましい光景に追手が来るかもしれないという危機感すら頭から失せていた。


「骸塚」


 背後から声がして、振り向くも誰もいない。


「こっちじゃ」


 今度は桜の木がある前から声がして、目を向けると王がいた。

 長い黒髪を靡かせて、頭には王冠を被ったシャムトリカ・アマガハラがいた。

 

「ここは骸塚。代々王が代わる度、無数の王家の庶子の命と引き換えに王の力を維持し、継承するための聖域じゃ。貴様らのような有象無象が踏み荒らしていい場所ではない」


 シャムトリカの目に怒りが宿り、その視線からは物理的な圧が伴い、二人は膝をつく。

 だが、アルタイラは歯を食いしばって睨み返す。


「なんでそんな大事なことを私達に教えたの?」

「決まっている。――ここで始末するからじゃ」


 悪寒を感じて、アルタイラはモンドを抱えてその場を退く。

 すると、すぐに地面が数センチ陥没する。

 アルタイラは粗雑に後方へとモンドを投げ捨てる。

 

「よりによってアマガハラ王と戦うことになるなんて!」


 アルタイラはシャムトリカを警戒しながら、腕から魔力で可視化した牙を自身の首に突き刺す。

 血は出ない。


「化物相手に手加減なんてしないわよ。……神威術式『山狼』」

 

 アルタイラを魔素で形成された薄緑の狼の鎧が包み込む。

 

「ほう……神威獣を纏うとはよほど好かれておるな」


 アルタイラが神速でシャムトリカに殴り掛かるが、いつの間にか彼女の周囲に展開されていた球体型の結界に阻まれる。


「なんで割れないのよ!」

「ふむ、随分削られるな。地鎮を維持しながら貴様の相手を続けるのは危険じゃな。昨日のアレで力を使いすぎているし、長引くと不利か……」


 アルタイラは結界から生じた衝撃波で吹き飛ばされる。

 次いで、彼女の四方から火、水、風、土、雷、氷の槍が着弾していく。

 回避をする隙を与えず、次々と着弾していき、しばらくして槍が止む。

 爆風が晴れると、そこには狼の鎧がなくなり、息も絶え絶えのアルタイラがいる。

 彼女には傷はない。狼の鎧が彼女を守っていた。

 しかし、その強力な鎧は既に消え失せていた。だからこそ、シャムトリカの攻撃も止んだのだが……。


「ここに立ち入った大罪人に何の痛みもなく死を与えることはできん。骸塚は聖域にして、墓地。我が糧になった庶子の命には貴様の苦しみで償おう」


 シャムトリカから火炎が放たれる。

 雷装を発動し、アルタイラは何とか回避するも、火炎は蛇のようにうねり、アルタイラの顔を当たる。

 

「あああああああああああああああ!」


 粘性のある火がアルタイラの左目辺りを焼く。条件反射で水を生み出し、消火。

 しかし、水が染みてアルタイラはまた絶叫する。

 反撃がなくなり、シャムトリカは冷淡な目つきで見下ろす。


「…………痛い……。……マイン、……て。た……て」


 虚空に手を伸ばすアルタイラに、シャムトリカは巨大な火炎を生み出し、アルタイラへと狙いをつける。


「命が惜しいなら、ここへ来るべきではなかったな、小娘」


 シャムトリカが火炎球を放とうとする直前……。


「こっちだ! アマガハラ王!」


 声で遮ったのはモンドだった。アルタイラに後方へと投げられてから、モンドは気配を殺して骸塚の奥へと歩を進めていた。

 シャムトリカは気づいていたが、あくまでアルタイラへの対処を優先。彼女からすれば、アルタイラと違い、モンドなどいつでも対応できる雑魚に過ぎなかった。

 だからこそ、不意を突かれる。

 彼の懐から投げられた紅い箱型の魔道具への対応が遅れる。魔力をトリガーに発動する魔道具は見る見るうちに赤熱していき、内に秘めた熱量を無差別に発散しようとしている。

 目を見開いて驚くシャムトリカに、モンドがアルタイラの所に駆けつけながら叫ぶ。


「そいつに構っている場合か? 放っておけばそれはここを破壊し尽くすぞ?」

「貴様!」


 紅の魔道具が爆発するのと同時、シャムトリカは慌てて火炎を取り消し、魔道具へと対処する。

 その隙にモンドは意識を失ったアルタイラを担ぐ。


「アルタイラが動けないとなると、俺がやるしかないか」


 モンドは身体強化を行い、一瞬で天地宮を抜け出す。

 そして、全てを置き去りにして、王都を囲む壁を垂直に駆け上り、森へと姿を消した。

 彼が王都から抜け出すまで、正確に位置を把握していたシャムトリカだったが、爆発する魔道具を抑え込んだ後は動かないでいた。


「これ以上、余は動けない。これ以上は地鎮が揺らぐ故、後は其方らに任せた」

「はっ」


 シャムトリカの言葉に、返答だけが響く。

 戦闘が終わり、静かになった骸塚を見て、シャムトリカは安堵して、微笑む。


「死後まで騒がしくしてすまなかった。我が糧になった子らよ、安らかに眠れ」


 ***


 王都の外。壁外の東側には理術学派の学び舎がある。

 名を東理学院。

 理術学派の座主、クウガが学院長を務めるアマガハラにおける理術学派の総本山。

 その敷地内にある薄明かりの地下室で、顔を負傷したアルタイラを抱え、今にも倒れそうなほどボロボロになったモンドがいた。


「頼んでおいてなんだが、よく生き残れたものだ」


 膝をつくモンドに、見下ろす影。


「ふざけたことを言うな。理術学派座主、クウガ」


 名を呼ばれて、影はフードを外して、顔を見せる。

 長い黒髪を首元で一つに括った鋭い目つきの男。

 彼こそがアマガハラ王国における理術学派の最高権力者であるクウガその人だった。

 そして、クウガこそアルタイラとモンドに危険な依頼をした張本人であった。


「治療を頼みたい」

「先に王の力の継承方法を教えなさい。治療はその後だ。……安心したまえ、話を聞いてからでも治療はするとも。私は君達に死なれると困る。バルバリアントにはこれからもアマガハラ王国を混乱させるために動いてもらわないといけないのでね」


 仕方なく、モンドは骸塚についてクウガに告げた。


「なるほど。庶子の命をその桜の木によって凝縮し、継承時に受け継ぐわけか。となると、先王シャルムの死因は継承で力が失われたことが原因なのかもしれないな。……モンド君、君達は確かに契約を守ってくれた。改めて約束しよう。我々理術学派は君達バルバリアントへの魔道具を必ず送り届けよう」


 モンドはそこで力尽き、倒れ伏す。


「追手は王剣百士だったろうに……まったく、よく逃げ切れたものだ」


 サワリムが散々言っていたのはこのことでした。(; ・`д・´)

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