第四十七話 サワリムの見舞い
今回は重要な内容に触れている話です。(; ・`д・´)
「見慣れた天井だ」
カリムは目覚める。
場所は王立術理院本校舎にある医務室。アルタイラと朝練をしていた頃、加減ができていなかった当初はよくここにお世話になっていたカリムだった。
外は晴れている。
すぐに医務室付きの教員が現れ、カリムは昨日の出来事を聞くことになった。
そう、昨日の、である。
どうやら一日中カリムは眠っていたらしい。
武舞祭はジュリアンの暴走で中断。二、三年の部はシャムトリカ王の許しを得て、後日観客なしで、第二演習場にて行われることになったらしい。
他にも政でも色々あったそうなのだが、教員が説明を嫌がったので、カリムは深く追求しなかった。
また、どうやらタムマインは昨日の夕方には目を覚まし、教員の静止を無視して王都の祭りを堪能しに出ていったらしい。丈夫な友人である。
だが、カリムはゆっくり医務室で休むことにした。身体能力が異常なタムマインに合わせて行動しても、身体がもたないことは容易に想像できるからだ。カリムはそこのところ、既に自覚できている。
「仮にジュリアンに勝てたとしても、あいつには負けていただろう」
気落ちしていると、扉がノックされる。周囲を伺うが医務室付きの教員は外出中らしく、カリム以外に誰もいない。
「入ってくれて構わないぞ。教員はいないから治療はできないが」
入室してきたのはカリムの見知った男と知らない女だった。
一人はカリムの出来の良い弟、サワリム。ブーツにズボン、上半身にはローブを羽織ったカリムと同じ白髪の少年。サワリムはベッドで安静にしているカリムを見て、鼻で笑う。
おそらく、サワリムに馬鹿にする気はないのだろうが、カリムは久方ぶりに見た弟が無性にムカついた。
「鼻で笑うな」
「おっと、すまない。久しぶりに見たら、借りてきた猫のように大人しくしていたものだからな。笑えてきた」
「病人だぞ、当然だろうが」
カリムはサワリムの腰に抱きつくおかっぱの少女を見て、言いづらそうに口を開く。
「まさかとは思うが……もう子どもをつくっ……」
おかっぱの少女はトマトみたいに顔を赤くして、悪鬼のような形相でカリムを睨みつけてくる。
「いや、ないよな。すまない」
サワリムはおかっぱの少女に頭をポンポン叩く。
「オリョウ、落ち着け。緊張しすぎだ」
オリョウと呼ばれた少女はサワリムの後ろから出てきて、上目遣いでサワリムを睨みつけ、もう一度カリムを睨みつけ、少しだけ頭を下げた。
赤と白の袴姿の少女は、何かの巫女のようだった。
「すいませんでした。オリョウです。宜しくお願いします。サワリムのお兄さん」
謝られたのにどこか怒りをぶつけられたような気分になったカリム。
「悪いな、オリョウは緊張すると相手を睨みつける癖があるんだ。気にしないでくれ」
「……ああ」
依然としてオリョウについて聞きたい気分ではあったけれど、カリムにはそれよりも気になることがあった。
「それで……理術学派の人間が王立術理院に何の用だ?」
質問されて、ようやく本題を思い出した様子のサワリム。
腕を振り、医務室を結界術式が覆う。
サワリムは「ただの防音だから心配するな」と言って、本題に入った。
「……カリム、王族について何かわかったか? 具体的には王族の庶子の定められた運命について」
「俺が質問してるのに別の質問をするなよ」
「いいから、答えてくれ。大事なことだ」
「……わかってない。わからないままだ」
カリムは舌打ちしてから、サワリムに書庫で調べたことを告げた。
王の地鎮、そして過去のスタンピードがムテンタ領のみで発生したことから、四つの祭壇が王の地鎮と関係するものだと推測したこと。
しかし、同時にその事実と王族の庶子の定められた運命がどう繋がっているのかわからず、何もわかっていないこと。
また、そこで一端視点を変え、建国王ジークムント・アマガハラと同類と思われる聖人、ズダバについて調べていることを告げる。
「その中で気になったことがある。聖人ズダバの呪い。……なあ、サワリム。武舞祭で起きたジュリアン・ツチツカミの暴走……アレ、お前がやったのか?」
「やっていない。そもそも俺は今日王都に到着したからな。信じる信じないは勝手だが、俺はしていない」
「じゃあ、別の誰かが……理術学派の誰かがジュリアンを暴走させたのか? 聖人ズダバの呪いを使って」
「…………」
サワリムは目を見開き、真剣な表情になる。
「余計な詮索はするな。お前にそんなことをしている余裕はない。お前は意欲的に学び続けろ。そして、価値を示し続けろ」
カリムがサワリムの胸倉を掴む。
「じゃあ、何か? 俺は黒幕の存在を――アレが理術学派の仕業だと知りながら黙っていろってことか?」
「ああ、そう言っている。カリム、お前が何を知り、どう行動したところでどうにかなる問題じゃない。…………それに邪魔することにメリットもない」
「お前っ……自分さえ良ければアマガハラ王国がどうなろうと構わないのか!」
「構わない。国家のために存在する個などクソくらいだ。個は必要だから国家に帰属しているに過ぎない。利害関係が一致しなければ従う道理もない。奪われ続けるくらいなら、国など滅びてしまえばいい」
見たこともないサワリムの気迫に押さえ、カリムは手を離す。
サワリムは出口へと歩き、途中で足を止める。
「カリム、お前は惜しいところまで届いていた。……四つの祭壇に着目したのは間違いではない。それが答えではないが惜しくはあった」
サワリムは顔だけ振り返る。その目には静かな怒りがあった。
「――青い花が咲く、忌まわしき桜の木だ」
「何が言いたい?」
「さあな、自分で考えるとみるといい」
そうして、サワリムは結界術式を解き、オリョウを伴って医務室を去った。
今回は青い桜について、進行上カリムに教えるわけにはいきませんでした。とはいえ、いい加減引っ張り続けるのも何だと思うので、次話で青い桜については別視点で出します。
次話は、「骸塚」です。(; ・`д・´)もしかしたら複数に分割するかもしれません。




