第四十四話 武舞祭⑤
いきなり戦闘シーン行くのも変かなと思い、ジュリアン戦までに間に一話挟みました。
(; ・`д・´)
午後からは準々決勝が行われた。
残った八名の中には、カリムが過去に敗北したジュリアンの姿もある。
タムマインとカリムはそれぞれ勝ち進んだ。
対戦相手にしても、アレックス・タリスデンやホルベ・ツチツカミのような強敵ではなかったので、苦戦はしなかった。
そして、準決勝を控えて、休憩時間が設けられる。
カリムは次の試合に臨む前に、久しぶりにタムマインと話をした。
「おう、カリム。やっぱりお前も残ってたか」
「当然だ。覚悟しておけよ、筋肉馬鹿。決勝で対戦したら急所を抉りぬいてやる」
「いや、怖いこと言うなよ。お前、朝練のときから本当にやるから冗談として受け取れねえから!」
「どうせ避けられるだろう? ならば、俺が気にする必要はない」
「最低だ、こいつ」
第一演習場の観客席の一角で、理術学派の投影術式で掲示されているトーナメント表を一瞥してから、タムマインは空を仰ぐ。
「カリムは準決勝でジュリアンと対戦だな。……勝てそうか?」
「勝つさ」
「気をつけろよ。あいつ、どうにも初戦から容赦がない」
「どういうことだ?」
タムマインのブロックのことは多少把握していたカリムだったが、自分の後の試合は観戦していなかった。それよりも疲労を回復することを優先していたので、カリムはジュリアンがどんな試合内容で勝利をしたのかを知らなかった。
「第一試合はカリムと模擬戦闘を行ったときに使用していた火の鳥を用いた刻印術式で加減しつつ圧勝していた。ただ第二試合がな……」
タムマインは険しい目つきをして、ジュリアンの第二試合について語った。
対戦相手はベルナス・ブンガ。
アマガハラ王国の最西端にある黄珠の神威獣、嵐天狗がいる黄爵領の次男。
刻印術式は『嵐槍:赤珠』という猛烈な嵐を内包し、槍の形に押し込めた風の槍で複数生み出す力らしい。風で滞空させたり、射出したりできるようで、それを二本同時で生成できる刻印術式だ。
タムマインが言うには、彼が対戦したアレックス・タリスデンに並ぶ実力者であり、攻撃力に至ってはアレックス以上だろうと予想している。
しかし、結果的に勝利したのはジュリアンである。
「最初は嵐槍と火鳥の打ち合い、ここではむしろベルナスの嵐槍が火鳥を貫いて、ジュリアンは弾幕を張りながら逃げるだけだった」
状況が変わったのは、ベルナスが呼吸を整えるために攻撃を弱めてすぐだったという。
「ジュリアンが胸を押さえるような仕草をとってから、今度は火鳥が嵐槍を打ち勝つようになって、ジュリアンが優勢になった」
赤い火鳥が舞い、次々と火炎を振りまくが、それでもベルナスは粘っていたらしい。
「おかしいのはその後だ。……あの野郎、俺の身体強化と同じくらいの速度でベルナスとの距離を詰めて、直接火鳥を顔に叩き込みやがった」
「なに? ……ベルナスは無事だったのか?」
武舞祭ではいくら治療術式を扱える学士や生徒が常駐しているとはいえ、故意に人を殺める行為は禁止されている。
火鳥の威力を体験したことがあるカリムは、直接アレをくらったときに大きなダメージを負うことを容易に想像できた。
「幸い一命は取り留めたよ。……だが、今も継続して治療が行われているらしい。ジュリアンには審判から厳重注意があったが、あいつが反省しているようには見えなかった」
鋭い目つきでタムマインはカリムを見る。
「絶対に油断するな。場合によっては死ぬことになるぞ」
「…………ああ」
模擬戦闘をしたときのジュリアンの印象と、タムマインが話すジュリアン像にカリムは違和感を覚えたが、そもそもカリムにしてもあまりジュリアンとの接点が多いわけではないので、気にしなかった。
そして、元々彼はジュリアンへとリベンジすることを目標に据えていたので、油断など初めからするつもりはなかった。
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灯りを消し、薄い暗がりに座り込む影。
選手用の控室で一人、ジュリアンは息を乱していた。
鷹のように鋭い目つきに変わりないが、目の下には隈ができ、いつもならピンと張った背筋も、今にも崩れ落ちそうなほど弱々しい。
ジュリアンは寒さにでも耐えるように丸くなり、顔の前で大事そうにお守りを握りしめる。
「あと二勝すれば王に……シャムトリカ様に、俺の……王としての素質を認めてもらえる。王はジュリアンこそが相応しいと……。あと少し……あと少し……」
傍から見れば、お守りは時を経るごとに闇を放ち、ジュリアンの身を包み込んでいく。
それは咎人を深淵へと引き摺り込むようだ。
しかし、ジュリアンは気づかない。
既に彼には正常な思考能力は残っていなかった。
「勝つ! 勝たねばならん! 勝利しなければ王に相応しくない! 王になれない! 王でない俺にっ、意味などない! ……邪魔する者は――――――殺す」




