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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第四十話 武舞祭①

武舞祭開幕です。(; ・`д・´)



 アマガハラ王国王都。

 晴天に恵まれた夏のある日。

 王都は一様に例外なく、喧騒に包まれた。

 大通りにある軒を連ねる商店とは別で、至る所に出店で食べ物を売る店や、景品つきの遊戯を用意する店が数多くある。

 そんな王都の喧騒と肌を焼く日差しに汗を滲ませながら、カリムはキョロキョロと興味深そうに盛況な王都の様子を見聞していた。

 武舞祭は所詮王立術理院という一学院の催し。そんなくらいしか考えてなかったカリムは、眼前の光景に驚きを隠せなかった。

 どういうわけか、王都中がお祭り騒ぎ。もしもカリムが事前にクラスメイトから聞いておかなければ、おそらく彼は王都の騒ぎようと王立術理院主催の武舞祭を結びつけることはなかっただろう。

 なぜなら、武舞祭は王立術理院内で完結している催しなのだ。カリムは当日になった今でも、武舞祭を理由にお祭り騒ぎの王都の人々のことが不思議ならなかった。騒げれば何でもいいのだろうか。

 カリムは今日、武舞祭に出場する当事者でもあったので、あまり吞気に王都の散策を続けるわけにはいかない。

 大通りを逸れて、人通りの少ない道を進み、目的地である王立術理院を目指して歩く。『珠玉の原石』として活動していた折、依頼で王都のあちこちを回ったこともあり、カリムはもう王都の地理には詳しくなっており、近道などもお手の物だった。

 とはいえ、それは平時での話。事が武舞祭のせいであちこちに出店と人通りが増えると、平時の近道が人の集団で堰き止められており、臨機応変に道順を変える必要があった。

 いつもは通らない道のり。そして、武舞祭の開会式に遅刻するかもしれないという不安がカリムの足を自然と駆け足にする。風をきって進み、いつらか角を曲がったところで何かにぶつかってしまう。


「きゃっ!」


 ぶつかったのはカリム同様、王立術理院の白の制服と黒いズボンに身を包んだ生徒だった。けれど、カリムとは違って胸には盾の意匠。それを見て、カリムは苦しい表情をする。

 王立術理院に所属している貴族の子女は制服の胸部に意匠が施されている。王族ならば桜の花、地方の貴族ならば神威獣というようになっている。

 そして、盾の意匠は王の盾、王の側に控えて助力し、王を守り、導く役目を持つとある貴族しか持ちえない意匠だった。

 フシャール四家。四家が四家とも、建国以来、アマガハラ王国を支えてきた政の実質的なトップであり、過去カリムが夢見た宰相や大臣という役職を四家でほぼ独占し続けている貴族であった。

 そんな相手とぶつかってしまったという現実に衝撃を受けつつ、カリムは相手に手を差し伸べる。


「すまない。急いでいて、注意を怠っていた」

「ええ、謝罪を受け入れます」


 カリムの手に引き上げられて、相手は立ち上がる。

 綺麗な金髪の長い髪、整った顔立ち、そしてカリムよりも少し背が高いその少女は、簡単に髪を整えて、王立術理院の制服に身を包むカリムに微笑みかけた。


「私、あなたと同じ王立術理院の生徒なのだけど、従者と別れてしまったの。もし良ければ、学院まで私を送ってくださらないかしら? ぶつかったしまったことはそれでなかったことにしますから」

「そんなことで済むなら、喜んで案内させてもらおう」

「感謝します。私はムルオレア・シルキです。短い間ですがよろしくね」

「ああ、俺はカリムだ。ただのカリムだ。……見ての通りな」


 意匠のない制服を引っ張って強調するカリムに、ムルオレアはおかしそうに笑う。


「知っています。新入生総代のカリムさんでしょう?」

「その呼ばれ方は好かん。そのせいでよく自分よりも強い奴に絡まれたことしかないからな。お願いだから、あなたは勝負を挑むようなことはよしてくれよ」

「あら、そこまで言われたら勝負したくなってきました」

「勘弁してくれ」


 心底嫌そうにするカリムに、ムルオレアはしたり顔で笑う。


「冗談ですよ」


 +++


 王立術理院に着くと、早々にムルオレアとカリムはこれといったこともなく、別れた。

 カリムはすぐに第一演習場に向かい、開会式に出る選手の控室に向かわなければならなかったし、ムルオレアにしても彼女が王立術理院に戻っていることを想定して控えていた従者が鬼の形相で近づいてきていたので、吞気にお喋りをしている余裕はなかった。

 武舞祭に出場するのは王立術理院の一年から三年までの生徒であり、一組から十組まであるクラスから二名ずつ、一学年二〇人、三学年で総勢六〇人という数なので、控室にしても、学年ごとに一つずつ割り当てられている。

 一年の控室にカリムが滑り込むと、他の出場者からは視線を集め、係の教員からは来ることが遅いことに対して厳しめの注意をされる。

 いつもなら飛んでくるタムマインにしても、今日は彼も優勝を目指して参加していることもあり、カリムに絡むことはなく、静かに闘志を燃やしていた。

 ほどなくして、第一演習場に選抜された生徒達が続々と姿を見せていく。学年毎に列をつくり、桜の国旗が掲げられた貴賓席に向かうように並んでいる。

 観客席には貴賓席には王立術理院で活躍する我が子の活躍を見るために遥々所領から王都までやってきた貴族や、未来の刻印騎士として生徒を評価するために観戦に来た騎士や貴族、運良く観客席のチケットを入手することができた一般客といった人々が今か今かと演習場の生徒達を見つめている。

 無数の視線が注がれる中、背丈の小さい、小柄な王立術理院の学長が演習場内を歩き、生徒達の前にあるお立ち台に立つ。


「ええ、皆さん。本日が我が王立術理院の生徒達の晴れ舞台である武舞祭を観戦しにいただき、誠にありがとうございます」


 ハンカチで額の汗を拭いながら、学長は続ける。


「王立術理院は多くの優秀な生徒がいることを今回の武舞祭でも見て頂ければと思っています」


 学長が挨拶を終えると、続いて三年の大柄な生徒が生徒代表として誓いを述べる。

 カリムが事前に聞いていた開会式は、以上で終わり、この後は全体に各学年のトーナメント表が掲示され、それに従って生徒達が勝負をしていくというものだ。

 しかし、今回の武舞祭は少し予定と違っていた。

 司会をしていた教員が貴賓席に注目するように言うと、誰もいなかった王専用に玉座の前に、王冠を被り、正装に身を包んだシャムトリカが姿を見せる。

 歩いて移動してきたわけでもなければ、床下から飛び出したわけでもない。

 若干の青い発光の後、唐突に彼女はその場に現れた。

 彼女以外には決して真似できない転移という術式であった。

 

「アマガハラ国王、シャムトリカ・アマガハラである」


 長い黒髪を風に靡かせるシャムトリカ。


「此度は王立術理院の若人達が武芸、とくと見させてもらう。多くは言わん。……励め」


 アマガハラを治める王。

 幼少の頃に王の腕を目撃したカリムであったが、彼が王を目にするのは初めてだった。

 

「あれが王……なのか」


 カリムはひたすらに圧倒されていた。彼だけではない。シャムトリカの雰囲気のほとんどの生徒達は呑まれていた。

 唯一、生徒で例外がいるとすればジュリアン・ツチツカミだけであった。

 ジュリアンが何も感じていなかったわけではない。

 むしろ、彼が第二演習場にいる誰よりも、シャムトリカ王の登場に揺さぶられていた。


「どうして……陛下がここに?」


 二頭体制を公のものとするため、シャムトリカ王に武舞祭に足を運ぶように計画したナルカマカロだったが、彼はジュリアンにそのことを伝えていなかった。決して、伝える必要がないと考えていたわけではない。

 しかし、それよりもジュリアンに伝達する過程で、この計画が露呈することを避けたかった。そのため、ナルカマカロはジュリアンにこのことを秘密にしていたのだ。

 そういったこともあり、ジュリアンは他の生徒と同様の情報しか知らなかったのだ。


「負けられない……絶対に負けられない。王になる者として……絶対に」


 サプライズで王が来場し、会場が騒然となる開会式。

 皆が圧倒される中で一人、ジュリアンだけが強い意志を胸に抱いていた。


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