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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第三十七話 魔物退治①

 翌朝、カリムはギルドでアルタイラとモンドと顔を合わせた。タムマインとは寮の同室ということもあり、朝食をとり、共に来ていた。皆がそれぞれの装備に身を包んでいる。カリムは鍛冶屋の軒に粗雑に立て掛けられていた無骨な剣に、皮の軽装。皮の軽装はタムマインとアルタイラも同様だが、タムマインは身の丈くらいの大剣を持ち、対照的にアルタイラは短剣を腰に差すだけ。大柄なモンドは戦闘が面倒だと率先して荷物持ちをしてくれていて、大きなリュックはいつだって彼が背負っている。

 また、モンドは大きな盾と剣を装備している。彼は盾役に荷物持ちを担当してくれている。ゆえにパーティーにはかかせない。

 魔物退治や薬草採集、護衛を得意とするギルドと言っても、建物自体は意外に質素だ。二階建てで、一階に受付と多少の飲み食いができる酒場、離れに魔物を解体する倉庫、二階は魔物の資料室と、ただのギルド員では出入りできないギルド長の私室があるくらい。木造なので、これといった鉱石や建築資材も用いていない。

 偏にギルドがなくても所領には刻印騎士が周辺の魔物を定期的に間引いているので、ギルドは絶対的にアマガハラ王国に必要な機関ではないということが質素な要因だろう。

 いなくても構わないけれど、民間で勝手に魔物退治をされるよりはギルドという集団で統率された一団の方がいい。そんなものである。


 ギルドに入ると、早々にカリム達に声がかかる。


「おう、『珠玉の原石』じゃねえか。また、勉強の息抜きに魔物退治か?」


 声をかけたのはいつもギルド併設の酒場で安酒を飲んでいるDランクの男だ。

 そして、『珠玉の原石』とはカリム達のギルドでのパーティー名だ。命名したのはカリムで、これから育っていく珠玉――宝石の原石達のパーティーという意味で名付けた。タムマインなどは『天稟の綺羅星』、アルタイラは『神狼の牙』、モンドは『一の五』なんて言う様々なパーティー名が発案されたが、最終的にはカリムの命名に落ち着いた。

『珠玉の原石』は学業の合間の活動ではあるけれど、折を見ては積極的に凶暴な魔物を倒すこともあり、なんだかんだとDランクのパーティーとして活動していた。

 

「まあ、そんなものだ。で、あんたはまた昼間から酒を飲んでいるのか?」

「またなんて酷いこと言いやがる。こちとらいつもはおっかねえ魔物を切った、張ったの働き者だってんだ」

「いつ来ても俺は飲んだくれている姿しか見たことないんだが……」


 呆れるカリムに、こんな奴に構っている時間はないでしょう? 無視しなさい、とアルタイラから耳元で注意され、それもそうだと思って、奥に進む。後ろからまだ何か言っているようだが無視だ。

 ギルドは酒場からすぐのところに依頼ボード、その隣に受付がある。

 受付には容姿の整った受付嬢が多いのだが、しつこく絡むような迷惑な者は少ない。というのも、酒場では常時ファンなるギルド員達が自発的に目を光らせて、受付嬢を見守っているのだ。強面の野郎が常に監視している中で、受付嬢を口説こうとする猛者は少ない。

 一度、カリム達もそのファン付きの受付嬢でギルドについて詳しい説明を求めたときは絡まれたことがあり、以降面倒なので万年閑古鳥が泣いている筋骨隆々の大男であるギルドのところで依頼を確認するようにしている。

 今日もそうする。たまに依頼ボードにはない依頼を教えてくれることもあるので、こちらの方がお得なのだ。


「ギルド長、それなりに歯ごたえのある魔物を所望するわ」


 開口一番、アルタイラが要望を伝えてしまい、他の男衆は挨拶するタイミングを逃した。


「流石は若手有望な『珠玉の原石』だな。……まあ、ちょうどいい依頼が来てる。お前は依頼達成度が高いし、何より達成速度が早いからな。無理のない範囲でドンドン依頼を消化していってほしい。あんまり依頼を放置しているとやれ、依頼を出した意味がないだの、暇ならお前が依頼に行って解決して来いだの、色々と文句を言ってくる奴らが多いからな。ああ、鬱陶しい」

「子どもの俺らに愚痴ってないで働け」

「働いてるだろう? 受付嬢の安全を守りつつ、ギルド員の日頃の動向も確認してる。なんて働き者なんだ、俺は」

「働き者を自称する奴にはろくな奴がいないな」

「うるせえ。ガキに大人の何がわかる。 ……まあ、ちょっと待ってくれよ。確かここに依頼書が……」


 そう言って、ギルド長はカリム達からは見えない受付の引き出しをガサゴソと漁り、なかなか見つけられず、最終的にはちょうど客が途絶えた隣の受付嬢に場所を聞いて、依頼書を突き出してきた。


「ほら、これが依頼書だ」

「どれどれ」


 アルタイラが依頼書をひったくり、カリム達は各々に依頼書を覗き込む。


「王都から少し離れたところに森があるだろう? あの森の深部、どっちかというとミノウミ領側に奥地にハイドリザードが現れたから退治してほしいって依頼だ」

「正体不明の魔物って書いているが?」

「そこは安心しろ。ハイドリザードで間違いねえ。お前等とは別の索敵に優れたギルド員に依頼を出して、ハイドリザードだと確認が取れている」

「ふーん、二日で狩るとなるとギリギリだけど、まあ大丈夫でしょう」

「いや、アルタイラ。流石に厳しくないか? あの森の深部だと行って帰ってくるだけでも、丸一日くらいかからないか」

「大丈夫よ。私達なら見つけて倒すまでにそんなに時間はかからないから」


 タムマインの反論を、アルタイラは軽い調子で流す。だが、それを聞いていたギルド長は納得しなかった。


「おいおい。いくら有望なお前らでも焦って動くと思わぬ失敗で身を滅ぼすぞ」

「はいはい。そんなことは百も承知してるわよ。それでも全然対応できるくらいには余裕があるから言ってるだけよ」


 カリムは不安を拭えず、アルタイラの意見を否定しようと口を開けこうとしたが、それよりも前にモンドが彼の肩を持ち、止めた。


「安心しろ。あいつとは長い付き合いだ。……アルタイラなら、よそ見をしていても王都近隣の魔物には負けない」

「……わかったよ、モンドの言葉を信じよう」


 +++


 依頼を受けてから、カリムは念のためにギルド長からハイドリザードの特徴や気をつける点を聞き出した。

 そして、見つけるまでに近距離で奇襲されるのが一番危険だと知り、いつもはアルタイラに一任している索敵に、カリムも『見通す目:黒珠』を用いて参加することを決めた。

 この力は木々に隠れる魔物も見通すことができるので、きっとハイドリザード発見にも重宝するだろう。


 王都を出るときには、門番に学生証とギルドカードの二枚を提示して、外に出る。学生証だけだと森に行くとなると、引率の教員などがいないと引き止められる場合が多いのだ。

 しかし、ギルドカードを提示すると、それ自体が実力の証明となり、門番と長い問答をする必要もなくなる。

 王都の近くの森と言っても、基本的に王都を出て、見晴らしの良い平坦道の端、半刻ほど歩いてようやく森の入り口に到着できた。

 入口の近くには小動物やホーンラビットなどのような脅威度の低い魔物くらいしかいないので、サクサクと突き進む。

 先頭に立ち、テンポよく飛び回り、ときには木々から木々へと移っていくアルタイラに、タムマインは思ったままを口にする。


「ゴリラゴリラと言ってきたが訂正する。あいつは猿に違いない……って痛っ!」


 スコーン、と前方から果物が飛んできてタムマインの顔を弾いた。


「何か言った?」

「絶対に聞こえてただろ……」


 額を押さえるタムマインと彼を睨みつけるアルタイラ。

 そんな二人を見て、後方のカリムとモンドは苦笑いする。


「タムマインは学ばないなあ」

「ああ」


 そこから、もう少し進むと、魔物の割合が増していく。

 ゴブリン五匹が現れる。


 アルタイラが先頭のゴブリンを殴り飛ばし、深くまで入り込み、敵意を引きつける。

 そして、一斉にゴブリン達がアルタイラを襲おうとすると、地面から土壁が現れ、アルタイラの周囲を守る。

 ゴブリン達が驚いている間に背後から、カリムとタムマインが奇襲をかけて、あっという間にゴブリンを倒してしまう。

 

「モンド……別に壁いらなかったんだけど」

「すまないな。……だが、お前一人の力でゴブリンを掃討する必要もない。今はパーティーで行動しているんだ。お前は抑えるくらいがちょうどいい」

「……それにしたって邪魔だったわ」

「……次からはタイミングを考えよう」


 その後。森を進むごとに魔物も強力になっていく。

 オークが一体に遭遇し、カリムとアルタイラで遊撃をし、モンドの土壁でオークの足場を崩したり、攻撃を守りつつ、最後は『身体強化:青珠』を発動したタムマインが一刀両断した。

 しかし、魔石ごと叩き斬ってしまったため、オークの素材は夕食用の肉だけになり、換金はできそうもなかった。素材は全員で剝ぎ取り、荷物はモンドが引き受ける。こういったとき、大柄で力持ちのモンドは希少だ。アルタイラやタムマインは戦闘時こそ怪力を発揮するが、こういった荷物持ちなどの常時力を発揮する役割では術式や魔力に頼った強化は不向きだった。

 

 森の中腹を過ぎると、魔物の強さも一気に増した。

 オーガやミノタウロス、ワーウルフが闊歩しているので、基本的に戦闘は避けて突き進んでいき、遠回りもできそうにないときだけ、魔物を狩った。

 戦果はワーウルフ二体とミノタウロス三体。

 ここまで魔物が強力になると、カリムは接近戦で足手まといにしかならないので、投げナイフでちまちまと魔物の目潰しを狙うしかなかった。

 対して、タムマインは身体強化で、アルタイラは身体強化と雷装を用いて、迫力ある近接戦を繰り広げていたこともあり、カリムは用意していた昼食を食べているとき弱音を吐いた。


「奥に入ってから、俺、全然役に立ってなくないか?」


 しかし、すぐに否定される。


「どの魔物にも確実に片眼は目潰しできてる奴が何を言っているんだか……」

「うちのモンドよりは役に立っているわよ」

「そうだ。俺は荷物番だからな。戦闘に参加できているだけカリムの方がマシだろう」

「あんたはもう少し参加しろ」

「必要があればそうしよう」


 カリムの心配は杞憂に終わった。

 その後。

 更に森を奥に進む。

 オーガやミノタウロスが生息する辺りまでは来たことがあった『珠玉の原石』だったが、それより深部には来たことがなかった。

 木々の間隔が狭くなる。そのくせどの木も生い茂っているものだから、木と葉が陰をつくってまだ日が沈んでいないというのに薄暗い。

 道中、何かが破裂する音が度々聞こえてくる。

 そして、もう少し進むと、フォレストウルフや蛇の魔物の死体が至るところで、散見される。


「おい、さっきから聞こえてくる破裂音といい、こんな情報あったか?」

「ない。少なくともただのハイドリザードにはできない芸当だろうな」


 明らかに『珠玉の原石』が想定していたものとは違っていた。

 ハイドリザードは臆病であり、基本的な立ち回りは隠れるハイドリザードと、それを追い、追いつけた折の奇襲にだけ注意しなければならないギルド員という想定だった。

 しかし、現状だと……。


「確かに臆病そうだけれど、この破裂音……臆病者に属性っていう飛び道具がついてるかも」

「不味いな」


 冷や汗を流し、カリムは呟く。


「うん? 何が?」


 事態を理解できていないタムマインに、カリムは周囲を警戒しながら言う。


「臆病で、奇襲好きのトカゲが、遠距離からできる属性が加わっているとなると……」


 カリムの脳裏に蘇るのは先日のジュリアンとの模擬戦闘。カリムの攻撃が届かない所から一方的に攻撃を加えられ続ける厄介さをカリムは身に染みて感じていた。


「ここはハイドリザードの狩場だ――」


 カリムが言葉と同時。彼らの中心に小さな風の玉が現れ、膨張し、破裂した。

 風の刃が当たりに飛び散り、周囲を切り刻む。

 カリムは擦り傷を負いながらもギリギリで回避。タムマインは身体強化で余裕を持って距離をとり、アルタイラは雷装を纏った腕の一振りで相殺。モンドは土壁で防いだ。


「早く見つけないと一方的に攻撃され続けるぞ!」


 風属性持ちのハイドリザードとの会敵は、魔物の姿を視認できないままに始まった。


一話で終わらなかったー( ;∀;) 

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