第三十四話 王位を戴く者③
一応、カリムの心情描写で終わろうと思い、少し補足で追加します。
カリムはジュリアン・ツチツカミとの模擬戦闘で気を失い、医務室へと運ばれていた。
白いベッドにシーツ、ベッドを一床ごとに隔てる白いカーテンと何かと白が多い部屋の窓際のベッドでカリムは目を覚ます。身体を起こそうとすると全身の筋肉に鋭い痛みを覚え、身体が強張る。それでもなんとか身体を起こし、周囲を伺う。
窓の外は夕日が茜色に差し込み、眩しい。
どうやら随分と気を失っていたらしいとカリムは思った。
記憶を遡っていき、どうやら自分はジュリアンに敗北したらしいと当たりをつけ、筋肉痛に気をつけながら恐る恐るベッドを下りる。
途中、医務室に待機していた教員がカリムの状態を教えてくれた。
カリムとジュリアンとの模擬戦闘は引き分け。原因は不明だが、身体の損害から見て、カリムの肉体には多大な負荷がかかり、カリムは気絶したのだという。
カリムはこの筋肉痛がその正体なのかと感じて感謝を述べたが、教員の話では当初はこんなものではなく、複数の筋肉の断裂や出血も見られ、予断を許さない状況だったらしい。
教員から今後は無茶な力の使い方は控えるように注意され、カリムは考えなしに無理をした自分を恥じた。
目を覚ますまで、複数の生徒達が見舞い来てくれたらしい。後で感謝しておくように念を押されたが、どうやら教員はその生徒達の名前を聞いてなかったらしい。どうやって特定しろというのかとカリムは思ったが、一々文句を言う元気もなく、いつもの二倍ほど時間をかけて自室のある寮へと帰った。
カリムに遅れて部活から帰ってきたタムマインにそれとなく見舞いをしてくれた生徒達が誰なのか聞いておき、とりあえず近くにいたタムマインに感謝を述べた。
夜はなかなか寝つけなかった。
脳裏に思い出すのは、目に焼きついた、眼前を焦がす勢いで向かってきた火の鳥。
今日の模擬戦闘は、完全に遠距離特化のジュリアンの初見殺しにカリムがしてやられ、無理をして引き分けに持ち込んだというものだった。
「ジュリアン・ツチツカミ……か。タムマインやアルタイラみたいな化物が貴族にもいるものなんだな。今日はしてやられた。実質的に俺の負けだ」
隣で寝ているタムマインを起こさないよう、ベッドに丸まって呟く。
「官人に武力など必要ない。…………そんなことは百も承知しているが……やっぱり負けるのは悔しいなあ」
水龍と王の威容を見て以来、カリムは日夜自己研鑽に励んできた。努力した質も量も他人に劣るものじゃないという自負もある。けれど、全然足りていない。
時間などいくらあっても足りはしない。
「次は負けない」
溢れてきた涙を枕に押しつけながら、眠りにつくのを待つ。




