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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第三十話 演習③

  

 カリムが術士ヴァンを鮮やかに倒し、トーマスとの模擬戦へと移行した頃。身体強化系グルーブでは大部分の生徒が刻印術式の発動及び抑止の感覚を掴んでいた。元刻印騎士の教員と順番に訓練をしたり、別の教員の監督下で互いに自分の膂力を確かめるため、力を加減しながら模擬戦を行っていた。

 その一団の隅で、地に座り込み、腕を組んで唸る目つきの悪い少年、タムマインの姿があった。

 そして、その隣で呆れた様子の褐色肌に肩まで伸びた絹のような黒髪の美少女、アルタイラ。


「あんたは主席と違って覚えが悪いのね」

「……主席じゃなくてカリムな。あいつは昔から器用なんだよ。そして、俺は不器用だ」

「でしょうね。だって、演習が始まる前から発動できたくせに、未だに刻印術式を暴発しないよう、鍵をかける作業ができていないんだから」

「……むむむっ」


 アルタイラの言葉を無視して、タムマインは瞑想しながら、体内の魔力を用いて、魔力が刻印術式を流れないように詮をするイメージをする。

 しかし、一瞬でも気を抜けば抑止に用いた魔力が突破され、危うく刻印術式が発動しようになっていた。これがカリムのような黒珠の身体強化なら、タムマインも気にせず発動させてもまだ身体制御ができただろう。だが、タムマインの身体強化は実質的な最上位の青珠なので、下手に発動させてしまうと何気ない動作で被害を出しかねないので制御しなくてはならない。

 アルタイラは一向に進展のないタムマインに、彼との模擬戦を早々に諦めた。


「仕方ない。今日あんたをボコボコにするのはお預けにして、また今度にするわ」

「それはありがたい。お前を怪我させずに済む」


 目を瞑ったまま答えるタムマインの頭にアルタイラの細い手が添えられる。

 少し経ち、タムマインは驚愕の表情で目を見開き、見下ろすアルタイラを見つめる。


「何しやがった、お前。さっきまでびくともしなかった俺の魔力が完璧に堰き止められてやがる」

「ちょっとは見直した? まあ、一時的なものだからその感覚は忘れないようにしなさい。それを自分でも再現できれば刻印術式を抑止する鍵になるでしょうから」

「この感覚を覚えればいいのか……」


 体内の魔力に意識を集中するタムマイン。

 そんな彼の集中を無視して、アルタイラは言葉を続ける。


「あと、これから私のあんたより強いってことを教えてあげるから、しっかりと見ておきなさい」

「いや、この感覚に集中させてくれよ!」


 アルタイラは意に介さず、一通り模擬戦が終了し、息が切らす生徒にアドバイス中の元刻印騎士の所へと向かう。

 この教員は学士の教員とは違い、服装が鎧を身につけ、刃引きした剣を携えていた。

 

「すみません。私も模擬戦お願いしてもいいですか?」

「うむ、もちろんだ。少しだけ待っていてくれるか? もうすぐ先ほど模擬戦した生徒達への指導が終わる」

「はい」


 少し経ち、アルタイラと元刻印騎士の教員との模擬戦の準備ができる。

 互いに大人の歩幅で十歩ほど距離を取り、徒手空拳で構える。

 

「別に剣を使用しても構いませんよ。どうせ私が勝つので」

「勝気なことは決して悪いことでない。さっきのカリム君のように実際に実力があるものならばな」

「なら、問題ないです。事実を言っているだけだから」


 元刻印騎士の教員はアルタイラの態度に少しスタンスを変えることにした。

 元々刻印術式を覚えたばかり生徒が相手なのだ。たとえ刻印術式の性能に差があったとしても、刻印騎士として実戦経験がある教員は加減をしても敗北はないだろうと予想している。

 また、彼の刻印術式が『身体強化:白珠』であることも彼の余裕の一因だった。学士のように理術に優れていても身体能力から不意打ちされる危険がある教員と違い、彼の場合、見てからでも攻撃を対処できるだけの身体能力があるのだ。

 そのため、これまでの生徒達にはあえて隙を見せ、その隙に攻撃させるような稽古の特色が強かった。それがアルタイラを増長させてしまったのかもしれないと彼は反省していた。

 増長したままではアルタイラが天狗になり、これからの学院での学習意欲が低下することもありうる。そこまで考えて彼はアルタイラに完勝することで、上には上がいるということを教える算段だった。

 審判が試合開始を告げる掛け声をして、試合が始まるそのときまでは――。


 +++


 試合開始と同時。

 電撃が少女の身体を這う。次の一瞬には元刻印騎士の教員の視界から姿を消していた。

 いきなり学生の姿がなくなり、教員の頭に様々な考えが浮かぶ。

 あの生徒は相手の視界から消える刻印術式を持っていた? あるいは視覚情報を騙す刻印術式だろうか?

 刻印騎士だった際、彼はそういった感覚を騙してくる魔物との戦闘経験があった。だが、基本的にはそういった魔物は本体の戦闘能力は低い。しかし、アルタイラは身体強化系グルーブで説明を聞いていたことから、同時に身体強化と視覚情報を誤認させる刻印術式の二つ持ちの可能性がある。

 知覚外からの不意打ちを警戒し、感覚を研ぎ澄ませる教員だが、彼は致命的な勘違いをしていた。


「背後を取られているのに吞気なものね」


 背後から聞こえてきた音に、慌てて振り返るもそこに人の姿はない。

 やはりアルタイラの刻印術式は視覚情報を誤認させる類のものなのか。

 そう思った教員の視界の下でアルタイラは鎧を着込み、重量が増している教員の片足を蹴り上げ、足元をすくう。


「全部の動きが遅すぎるわよ」


 無防備な状態で滞空し、自由落下に身を任せるしかない教員。

 アルタイラはその腹部を目がけて、猫のような軽い身のこなしで、空中で前転し、雷を身に纏った踵落としを叩き込んだ。

 肺の中の空気を吐き出し、動けない元刻印騎士を見て、審判がアルタイラの勝利を告げる。

 しかし、勝利したアルタイラは喜ぶこともなく、拍子抜けといった様子だった。


「仮にも教員でしょうに。これ以上加減するなんて私、面倒なんだけど」


 その模擬戦をタムマインも距離を空けて観戦していた。

 何をされたのかはわからないが、アルタイラのおかげで刻印術式の詮をする感覚をより明確にすることができるようになったのだ。

 流石に無視して刻印術式の制御をするのも憚られたので、観戦していた。

 していたのだが……。

 元刻印騎士の教員を楽々と倒してしまったアルタイラに、タムマインの額を汗が伝う。


「余計なこと言うんじゃなかった……。あの動き……やってみないと何とも言えないが、俺が身体強化を使っても負けるんじゃあないか」


 そして、思い出す。

 タムマインがアルタイラにボコボコにされるという予定は延期であって、予定がなくなったというわけではないということを。


「やべえ、またあいつが絡んでくる前に感覚を取り戻しておかないと本当にボコボコにされるじゃねえか……」


 四肢を地につけ、絶望するタムマインの姿は悲愴だった。


 アルタイラちゃんは最強なのであった! (; ・`д・´)

 

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