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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第二十七話 手がかり

「サワリムの奴、冗談だったとかだったら絶対に許さないからな」


 放課後。

王立術理院の書庫にて、カリムは本の山に囲まれて、頭を抱え、「ああぁぁ」と唸る。

 

「入学式からずっと通い詰めているみたいだが、王族についてそんなに調べて何が目的なんだ」

「自分の運命を知るためだ」

「いや、意味がわからんぞ」


 俺もだと思いながら、カリムはページをめくる。

 ここ数日、王立術理院の授業を卒なくこなし、連日書庫に通い詰めていた。

 放課後の時間を全て利用して、一日に二、三冊を読んできたものの、一向にサワリムが言っていた「定められた運命」の手がかりは掴めなかった。


「揶揄われたんじゃないか?」

「いや、あいつは嫌味な奴だが噓だけは一度も吐いたことはない。噓だと嘲笑って、後から後悔することだけは嫌だ」

「相変わらず一度言い出したら、止まらないよな。お前って」


 カリムの隣に座るタムマインは頬杖をつくばかり。何度もしつこくついて来るので、他言無用を条件にカリムはタムマインに王族について調べていることを明かしていた。

 カリムは部活動に所属していないが、タムマインは武人の集いに所属している。本来なら放課後には部活動で汗を流し、己の刻印術式のより洗練された使用方法を模索したり、他の部員の刻印術式の対策を討論したりする部活動なのだが、タムマインは現状不参加である。

 先日聞いた話だと、授業で刻印術式の制御を教えてもらうまではゆっくり王立術理院を見学してくるといいと送り出されてしまい、気まずくてなって行くに行けない状況なのだとか。おそらく、武人の集いからすれば地方から出てきたタムマインに自由時間を与えたつもりなのだろうが、勉強嫌いで身体を動かすことしか能がない彼には退屈らしく、カリムの用事についてきていた。


「それで、王族について何かわかったのか?」

「いいや、全然。特に歴史関連はもう知っていることばかりだったからほとんど読んでない。今は伝記を中心に読み進めているな。こっちの方が信憑性はなくとも、初見の内容が多いからな」


 これまで調べた情報を整理するつもりで、カリムはタムマインに語っていく。


 水龍とジークムントが友誼を結んだわけではなく、不干渉だったこと。敵対的な神威獣がいたこと。ジークムントが花見好きなこと。四つの祭壇について。アマガハラ王国は王の地鎮によって成り立ち、それが乱れれば国中に災厄が訪れること。王の代替わりごとに威光に輝く祭壇の周辺では祭りが行われること。ミコという存在がいて、彼らの一部が祭りの巫女の役割を担ったらしいこと。時代が進み、次代の王の意向で、青い桜は天地宮に囲われたこと。水龍の助力によって、叡智派と武断派、骨肉の争いに勝利したマーシャルド・アマガハラは王の肉親が水龍に仕える龍の巫女を派遣し、王が役目を終え、次代の王へと継承するまで仕えることを約束した。等々。

 

 例を挙げればキリがないが、おおよそ印象に残っていることを話していった。


「なるほどなあ、それだけの知識から『定められた運命』なんてもの知らないといけないなんて大変だなあ」


 完全に他人事なので、タムマインは吞気なことが言える。これでカリムと同じような状況なら、早晩タムマインは諦めていただろう。


「しかし、カリムから少し話を聞いただけでも勉強になったぜ。要するに、アレだろ。数年前のスタンピードは王の地鎮が揺らいだから起きたってことなんだろう?」

「うん? ……まあ、そうだな」


 返事をしながら、何かが気になってカリムは考える。王の地鎮が揺らげば災厄が訪れる。数年前はそれがスタンピードという形で起きたということになる。

 発端はどこだったろうか? 確か北方、正確には東北のムテンタ領だったとコウハクから事情の一端を聞いていたニイサから教えてもらっている。


「王の地鎮が揺らげば国中に災厄が訪れるはずだ。どうしてムテンタ領だけに訪れた?」

「何言ってんだ? スタンピードのせいで、国中で魔物が暴れていただろうに」


 タムマインの返しにカリムは内心で「違う」と否定する。

 国中に被害が出たのは結果論だ。スタンピードの原因はムテンタ領の魔物の暴走。その一団から逃げるように各地の魔物が南下した結果だ。

 タムマインの言うように、結果的には国中に魔物の被害が出る事態になったのだから、国中に災厄が訪れたという考えもできるだろう。

 しかし、同時にムテンタ領だけ王の地鎮が揺らいだという局所的な影響があったという仮設も成り立つはずだ。


『……威光に輝く祭壇……』

『……ジークムントの晩年には、アマガハラの繁栄を願って、四つの祭壇が建設された』


「四つ祭壇はどこに建設された?」


 カリムは勢いよく席から立ち上がり、隣のタムマインを手で払って退ける。


「どわぁ! 何しやがる!」


 怒るタムマインを無視して、カリムは記憶を頼りに祭壇の記述があった本を手当たり次第に抜き取り、席に戻る。そして、すぐに祭壇の記述があったページを開いていき、机の上に各々の開いた本を広げる。

 一冊目には祭壇の四つ建てられたことしか記述されていない。

 二冊目には、国の四方に建設されたことが書いてある。

 三冊目には、ミコという存在と王位継承に伴う祭壇の威光が。

 四冊目には、祭壇の一つはバルバリアントとの国境付近に建設されたことが書いてある。


「これだ! バルバリアントは東北に位置しているし、ムテンタ領とも接している。つまり、祭壇の一つはムテンタ領にある。そして、数年前のスタンピードはムテンタ領の魔物の暴走が原因……となると、四つの祭壇は王の地鎮に何らかの関係があるのか?」


 王の地鎮については、カリムも知っていたが、祭壇が直接それに関係しているということを彼は知らなかった。王とは超常の存在だから、アマガハラ中の地鎮を容易く行える存在。そういった形で無意識に思考停止に陥っていたのだ。

 しかし、一度気づけば突き詰めたくなる。

 カリムの思考が次々と進んでいく。

 王の地鎮は王の身一つでは成立せず、四方……おそらくアマガハラ王国の四方に配置される四つの祭壇によって補強しているのだろう。

 建国王ジークムントは晩年まで祭壇を建設しなかった。つまり、彼には祭壇など必要なく、次世代の王には必要な理由があった。

 補強する必要がある。

 つまりは……。


「まさか…………力が不足している。どころか、最悪の場合、年々劣化している?」


 厳密にはどうなのかカリムにはまだわからない。しかし、一度最悪を想定すると思考はそちらにばかり傾く。


「いきなり動き出したかと思えば何を言ってるんだか……。もう、書庫の閉館の時間だろう? 帰るぞ」

「あと少し、もう少しで何か掴めそうなんだ!」

「落ち着けよ。いつもの冷静なお前ならともかく、今の切羽詰まったお前はどうせ間違った答えしか導き出せねえよ。いつも模擬戦で連勝してる俺が言うんだ。信じろ」

「だが……」

「はいはい……寮に戻って、風呂に入って、頭冷やしてこい」


 引き摺られて、カリムは寮へと戻ることになった。

 タムマインの言うように、一度風呂に入ってみると、王の力が弱まったらどうなるのだ? という考えに至り、深く熱中することはなくなった。

 とはいえ、せっかく手がかりらしい手がかりを掴めたので、今度はジークムントのような聖人について調べてみようと発想を転換させるカリムだった。

 これを機にカリムはあまり根を詰めすぎると良くないと考えて、王族について調べるのを昼休みや予定のないときの休日に限定することになるのだった。


 一章のスタンピード①で祭壇について書いていますが、アマガハラ王国の学校で習うのは

・黒穴が人体にも魔物にも有害であること。

・神威獣は高濃度魔素に適応した生物であること。

・王の地鎮によって、高濃度魔素が薄められていること。

 です。紛らわしくてすみません。一般的に祭壇については存在すら知らない人の方がほとんどです。


 次話は刻印術式の授業、この作品では演習の話になります。

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