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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第二十三話 オリエンテーション

 王立術理院の三年制となっている。

 一年次は選択授業も少なく、クラスでの授業を受ける。

 教壇に立ち、少し遅れてやってきた教員が今後の授業のコマ割りを説明していく。

 まず歴史、算術、法律、神威獣という基本的な内容がほとんどを占めている。王立術理院を卒業後にその多くが刻印騎士や官人となり、国に仕える者が多いので自然とカリキュラムにはこういった内容が欠かせない。

 そして、一年次限定で礼儀作法の授業がある。これは平民と貴族間でのいらぬ諍いが起きないように、せめて礼儀の有無が発端とならないようにするための処置らしい。

 この説明がなされたとき、五組の視線が自然とキノコヘアーのトーマスに注がれたのは仕方ないだろう。一様に「今度は話を聞いておけよ」という無言の圧力に、トーマスは居心地悪そうにする。


「トーマス君、どうかしましたか?」

「大丈夫です……」


 最後に、この王立術理院で学ぶのだから術式や理術の授業は必須であり、もちろん一年次から必修科目として履修する必要がある。術式基礎や理術基礎といった魔力を用いた術について基本的な知識を身につけることを目的とするものだとか。

 説明を聞きながら、カリムは教員が魔力を用いるといったことが気になっていた。

 ――テスラは何気なく魔力で魔素に働きかけると言っていたが、こういった説明の中にも担任の教員と学士との理術への認識の違いがあるのか、と実感していた。

 また、入学式前に授与された刻印術式に関しては、別途、演習という形で授業が用意されている。生徒を監督してもらうために、各地から招待している現役の刻印騎士や王立術理院の教員として勤めている学士、術士の厳重な監視の下、生徒の刻印術式の性能を安全に調べ、活用方法を探っていくというものだ。

 教員は監督役として術士なる者を紹介するときだけ、非常に簡潔な説明と、何か言いたそうな顔をしていた。

 きっと、その術士には何かしらあるのだろうとカリムは心に留めておくことにする。

 年間の授業計画の説明が終わると、次は部活動の紹介となった。

 カリムは王立術理院には官人になるための知識や理術の能力を鍛えるために入学したのであって、部活動と言われても興味がなかった。


「刻印騎士を目指している人、官人を目指している人、他にも色々と皆さんには将来の夢があると思います。当学院の部活動は授業以外の時間を有効的に利用して、生徒間で自主的に武芸を極めたり、理術を研究したりといった側面が強いです。ですから、それ以外での友人同士で趣味を楽しむような部活動ではありませんのでご注意を」


 前置きしてから、教員は部活動を紹介していく。

 

剣理学会。入会条件は貴族であること。伝統ある貴族の剣術を学び、剣の理を突き詰めることを目的とした部活動。

 武人の集い。入会条件はなし。貴賤を問わず、刻印騎士を目指す者や戦闘能力を高めたい者達の集まり。

 術式研究会。入会条件はなし。刻印術式や理術といった様々な術式を解き明かすことを目的とする部活動。

 治療術式研究会。入会条件は治療術式を使用できること。※二年次、三年次にある選択授業に治療術式の授業が用意されているが、治療術式に関してはこの部活動に入会することが上達の近道。

 結界術式研究会。入会条件はなし。王の地鎮が揺らぐ今、アマガハラ王国の生命線となっている結界術式を研究する会。元々は理術学派由来の術式であることから、一年次は帝国語あるいはインダル語を学び、理術学派の結界術式を紐解き、新たなる可能性を見つけることを目的とする。

 

「以上のように、当学院では基本的に実用的な部活動しかありませんので、部活動には積極的に参加することをお勧めします。……それと、ほとんどの生徒には関わりがないことなので概要だけ――――当学院では部活動以外にも学士の研究室に所属するという選択もあります」

「とはいえ、研究室には学士から生徒を受け入れたいという希望があり、その上で生徒が合意した場合に限り、参加することができます。……ただし、現在学士のほとんどは生徒を受け入れたいという希望を出していないので、あまり期待はしないでくださいね。受け入れ実績があるのは、学士ロンドの式符研究室。学士レンドの魔力保存研究室の二つだけですから、興味がある人は研究室を目指してみるのもいいかもしれません」


 研究室への参加。

 説明を受けて、カリムは先日のテスラのことを思い出す。確か彼女もまた学士を名乗っていたはずだ。研究テーマは後天的魔素適応能力の向上だったか。

 勉強の目標に、彼女の研究室への所属を目指してみるかと気軽な気持ちでカリムは考えていた。別に官人になるために絶対に所属する必要はないし、興味があると言っても機会と時間が許す範囲で知りたいなと思っただけなので、そこまで執着はない。しかし、モチベーションにはなるだろう。

 

 そうして教員の話は終わった。

 今日はまだ入学式なので、授業が本格的に始まるのは明日から。今日のところはこのオリエンテーションで終わりだった。

 席を立ち、さっさと教室から出ようとするカリムの前に影が差す。


「おう、新入生総代のカリム……で良かったよな?」


 見上げると、そこには赤髪短髪の勝気そうな少年がいた。

 胸には狼の意匠。

 カリムには覚えがあった。


「狼のエンブレム。ヒタルトの貴族が何の用だ? キノ……トーマスのことで謝罪を要求されても従わないぞ」

「トーマス? ……ああ、ミノウミ黒爵のところの奴か。別に謝罪なんてしなくていいさ。俺はあいつの味方じゃないし、正直一緒にされたくねえ」


 嫌そうに顔を歪める赤髪の少年に、どういうことだとカリムは首を傾げる。


「じゃあ、何しに来た? 特に思い当たる節がないんだが……」

「強いて言えば、俺からの謝罪。お前、ソーカルド領出身なんだろう? スタンピードではヒタルトが突破されたせいで被害が拡大したからな。領主の息子として、可能な範囲で謝罪はして回ってるんだよ。……まあ、自己満足みたいなものなのだな」

「ふーん」


 少し黙ってから、カリムは一言、


「謝罪などいらん」


 と一蹴した。


「スタンピードは災害のようなものだ。ソーカルドもヒタルトも小さくない被害を受けた。それを年も変わらんガキのせいしてみるなど、一生モノの恥になる。俺はそんなことはしない」

「流石は総代だ。言うことも立派だな。……だが、そう言ってもらえるとありがたい。俺はテオル・ヒタルト。ヒタルト領主の三男坊だ。困ったことがあれば相談に乗るよ。赤爵家のコネで助けてやる」

「……カリムだ。お前みたいな貴族に会うのは初めてだ」

「この方が好みかと思ってな」

「トーマスよりは印象が良い」

「素直に喜べないな」


 二人は握手を交わす。


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