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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第二章 王立術理院
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第二十話 刻印授与

 入学式が行われる三日前。ギルダが手配してくれた馬車が王都に到着した。

 カリム、タムマイン、セナは王立術理院の寮で、今後の生活を送ることになっているので、馬車はそのまま王立術理院へ向かった。道中を送ってくれたギルダとソーカルド刻印騎士団とは早々に別れ、寮で割り当てられた部屋に荷物を降ろす。

 寮官の話によれば、寮は貴族と平民、また男女で別れているので四つある。初年度の学生は一階の部屋を割り当てられ、学年を重ねるごとに一段上の階の部屋へと移動していくシステムらしい。

 そう言った事情もあって、カリムとタムマインはセナと別れて、与えられた部屋に二人で寛いでいた。同郷であることが考慮されたのか、はたまた入寮したタイミングで纏められたのか、二人は同室だった。

 一階の隅の部屋。入口の向かいにある小窓を中心に、対称的な机とベッドにクローゼットがある機能的な部屋だった


「いい部屋だな!」

「最高学府のわりに狭いな」


 互いに向き合うようにベッドに腰掛け、二人は真逆の感想を言った。


「いや、十分広いだろ?」

「機能的ではあると思うが、俺に与えられていた私室の方が広かった」


 タムマインが肩を竦める。


「やれやれ。お前、自分が住んでいた場所が仮にも王族の別荘地だって忘れてるんじゃないか? お前が庶子でも家は王族のモノ。その自覚の自慢が顔を出さないよう、学生生活では不用意な発言に気をつけるんだな」


 カリムは舌打ちする。

 まさか、こんなにも早く嫌いな父親の恩恵に甘えていたことを実感する日が来るとは思わなかったのだろう。カリムの機嫌は急降下した。


「くそ……気をつける」

「そうしろ、そうしろ。あの寮官の話だと入学前から寮は利用できるらしいからな。今日のところはここで休んで、明日は大事な刻印授与に向かう……でいいんだよな?」


 不安そうなタムマインに、カリムは頷く。

 王立術理院はアマガハラ王国中から、貴族と平民の子女が集まる。

 だからこそ、この学院での入学式は、式の一月前から入寮することが認められており、新入生はこの一月という期間内に王都まで移動し、入寮する。

 そして、もう一つ。入学式前に終えておかなければならない必須事項がある。


 それが刻印術式の授与である。

 アマガハラ王国でも、刻印術式の授与を行っているのは王立術理院一か所のみ。つまり、新入生が故郷で刻印術式を受け取ることはできない。また、期間内に刻印術式の授与を受けなかった新入生は強制的にその年の入学資格を失い、来年度まで待たなければならない。

 そういった事情もあって、入学式前のこの一月は入寮期間というよりも、刻印術式の授与を受けられる期間であると認識されている。

 

 カリムはこのことをガルムからも、ギルダからも、果ては何故か出発前に現れた弟からも口を酸っぱくして注意されたので、既に暗記するまでに至っていた。


「確か刻印授与が一番混むのは最初と最後らしいからな。明日の内に済ませておけば、最終日に長時間待たされることはなくなるはずだ」

「なら、明日で決定だな」


 そこからは一階の食堂で食事をして、大浴場にて汗を流し、これといったこともなく、ベッドに潜り込む。タムマインは場所を移す度、すごい、すごいと馬鹿の一つ覚えのように繰り返していたが、コウハクの別荘地に慣れてしまっていたカリムは「こんなものか」という感想を抱くばかりで驚きはなかった。

 しかし、大多数は才覚があるとはいえ、平民の子女だ。むしろ、タムマインの反応は通常で、まったく動じていないカリムの方が浮いていた。

 

 月明かりが小窓から差し込み、その薄明かりが優しく室内を照らす。


「なあ、カリム。お前はどんな適性を持ってたんだ?」

「黙れ。どうせ明日にはわかることだ。明日まで待てば、教えてやる」

「気になって眠れないんだよ。いいだろう? 教えてくれよ」

「……朝まで起きてろ」


 新生活にはしゃぐタムマインを他所に、カリムは程なく眠りにつく。


「どんだけ寝つきいいんだよ、こいつ。……はあ、気になって眠れねえ」


 +++


 翌朝。カリムは目覚める。

 ただし、すぐには起き上がらない。朝に弱いカリムは目が覚めて後、しばらく目を開けたままベッドに寝転がり続ける。次第に意識がしっかりしてきて、ようやく起き上がる。

 見覚えのない部屋に、隣には今にも寝落ちしそうなタムマインがいるのを見て、ここが王立術理院の寮の一室であったことを思い出す。


「おはよう、タムマイン。良い目覚めだな」

「俺の顔色を見て、そう言えるとはお前はつくづく性格が悪いな。嫌いな父親に似たんじゃないか?」

「今のお前なら正々堂々と戦っても勝てそうだ。なんなら今から戦うか?」

「やらねえよ。俺の体調を無視して何が正々堂々だ。お前本当に筆記試験に合格したんだろうな? 言葉の理解に難があるぞ?」

「難があるのはお前だろ。半年前まで二回も筆記に落ちたくせに」

「くそう……年中読書に精を出していたお前と比べたら見劣りするに決まってるだろう。早く刻印授与に行くぞ。眠い!」


 睡眠不足で機嫌が悪いタムマインに急かされて、カリムは肌触りの良い白い衣服に身を包み、黒のズボンを履く。

 非常にシンプルだが、王立術理院に入学する平民の制服はこれだけである。これが貴族の子弟になると、所領の意匠や親の爵位を表す意匠などの装飾が過多になり、一目で両者の分別がつく。

 カリムは堅苦しい制服など用意されても動きづらいだけなので、感謝すらしていた。

 

 足元が覚束ないタムマインを引っ張って、カリムは寮から出る。

 敷地内の庭や池を通りながら、カリムはふと思った。


「タムマインをここに落としたら目が覚めるんじゃないだろうか」

「本気でやめろよ。せっかく合格できた王立術理院をそんなしょうもない理由で退学なんてごめんだからな」

「確かに。タムマインはともかく俺も退学……そうでなくても停学処分などでも勘弁だからな」


 他愛のない会話をしながら、寮をまっすぐに突っ切ると、大きな建物が見えてくる。


「刻印授与ってここだっけ?」

「いや、ここは書庫だ。前にサワリムが向かっていったのを覚えている」

「じゃあ、どこだよ?」

「右手側にあるのが本校舎だから、あの中だ」


 校舎の中に入ると、新入生らしき白衣の者達が列をなしている。その最後尾でカリムとタムマインは係の者に名前を告げ、列に加わる。

 列が進むと、適性検査のときにあった学長や教員らしき大人達が刻印を授与されていく新入生の様子に異変がないか見張りながら、刻印授与が行われていた。

 何やら新入生は一人一枚の紙を手渡されて、手元の紙が発火に新入生の胸元に吸い込まれていっている。

 

 そして、どういうわけか列に並ぶカリムとタムマインの姿を見つけた学長が喜色を浮かべて、教員の一人に何やら指示をする。

 

「カリム君とタムマイン君、君達は私について来てもらえる?」


 何故か刻印授与を前にして、二人は場所を移して、適性検査を受けた水晶の部屋に案内されるのだった。

 案内をした教員は丸眼鏡に、長い黒髪を根元で括った細見の女性だった。


「私の名前はテスラ。理術学派の学士であり、この王立術理院で教員としても勤めているわ。今回あなた達二人をここに呼んだのは、端的に説明すると入学前に余計な騒動にならないようにするための措置。それ以上でも以下でもないから安心して」


 淡々として説明を受け、二人は首を傾げる。


「俺の刻印術式は最下級の黒珠だぞ」

「俺の刻印授与は身体強化だぞ」


 テスラはため息を吐き、懐から幾何学模様が描かれた紙を二枚取り出し、二人に突き出した。カリムに掲げる紙には三つの幾何学模様が、タムマインに掲げる紙には一つの幾何学模様が刻まれている。


「カリム君はアマガハラ王国で初めての刻印術式三つ持ち。タムマイン君は『身体強化:青珠』。刻印騎士団どころか王剣百士にだっていない希少な適性持ち。控えめに言っても、才能がありすぎて嫉妬を買うのは間違いなしよ」


 言うと同時に、テスラは二人に紙を押しつける。


「それがあなた達の大切な刻印よ。その術式に魔力を込めなさい。そうすればあなた達の身体には一生モノの刻印が刻まれる」


 言われるがまま、カリムは刻印に魔力を通した。

 すると、三つの術式が浮かび上がって燃え上がり、カリムの胸元に吸い込まれる。

 特に何も感じなかったカリムは疑問の声を上げようとするが、その前に身体に変化が起きた。


 一瞬の静寂の後。

 カリムはこれまで知覚していた魔力の流れが強引に組み替えられ、通り道を制限されるような感覚に陥る。人為的に魔力のあるべき道を指定され、その指示通りに全てが変換されていくような不思議な感覚。


『身体強化:黒珠』。

『見通す目:黒珠』。

『濃霧:黒珠』。


 まるで呼吸でもするような自然さで、意図せず全ての刻印術式が発動してしまう。

 身体は魔力を纏ったときの比ではないほど軽く、室内は視界を遮るほどの濃霧が立ち込め、ゆっくりと瞬きした視界には昼間のように明瞭な景色が広がっている。


 刻印術式は特化術式である。

 サワリムの書斎にあった理術の教本。そこに記されていた言葉の意味をカリムは実感していた。

 これほど楽に発動できるならば、少ない術式に特化させる意義もあると、カリムは思った。

 

『身体強化:青珠』。


 そして、もう一人。

 タムマインもまた刻印術式の効果を実感していた。

 身体の奥底に炉ができたような錯覚に陥るほど、高温の熱を感じる。身体は羽のように軽い。

 

 そんな二人を突如、魔力の縄が幾重にも巻きつき、拘束する。


「なるほどね。学長の心配が的を射たものだったということかしら。刻印術式を覚えた直後に発動するなんて……よほど魔力の扱いに慣れていないとできないはずなのだけど」


「まあ、ともかく暴れられて水晶が壊されたらクビにされかねないわ。あなた達には悪いけれど、眠ってもらうわよ」


 テスラがそう言った後、カリムは彼女の手から放出された渦が自分の周りをグルグルと回っていることを視認し……。

 気絶した。

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